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「兄貴ぃ!只今戻りましたぁー!」桜子を見送った竜一はテンションも高くご機嫌で萬田金融事務所へ帰ってきた。
「おう、えらい遅かったのう。利息分の回収にでもまわってたんか?」
「え?いやぁ…そのちょこちょこっと色々ありまして…」
「なんや色々て。 どうせまたどこぞの女に現抜かしとったんやろ。」
「いやぁ…そないな事やなくてぇ…わしは桜子ちゃんとその…」
「桜子?やっぱり女やないか。そんな事してる暇あったら未回収の銭、一件でも多く回収してこんかい。」
「いや!桜子ちゃんはさっき事務所に来てた後輩の借金肩代わりしたクラブの女の子ですやんか!あの後、外でばったり会うたんですよ。」
「なんや…さっきの女か。ほんであの女の残りの借金全額回収でもできたんか?」
「それはなんぼなんでも無茶ですて…。」
「ほんだら、女に現抜かしてたのと同じやないか。」
「あ、確かにぃ……。」
「しっかりせんかい。そんなんで金貸しが勤まると思っとるんか。しばらく女から目離さんとけよ。」
「あ、兄貴………。」
「なんや?」
「それ本気で言うてるんですか…?」
「どういう意味や?」
「桜子ちゃんは兄貴の同級生でっしゃろ!?兄貴もあの子がどんな子か分かっとるはずや…!他人の借金わざわざ肩代わりするような子が逃げるとでも思ってはるんですか!?」
「ドアホ!2人で何話したか知らんけどなぁ同級生やろうが身内やろうが親友やろうが、裏切る時は裏切るんが人間なんや!お前もその事今までの取り立てでよう分かっとるはずやろが。裏切られた時の事まで考えて動くんが金融屋や。 何遍言うたら分かるんじゃ!」
「で、でも…!」
「竜一!お前しばらく事務所に顔見せんでええぞ。」
「えぇ、そんな!」
「ワシが教えてきた事何も分かっとらんやないか。いっぺん頭冷やせ。」
「そんな!ワシこれからはちゃんと…!」
「こんな事で情に絆されて、借金の回収もできひん人間に金融屋の才覚なんぞあらへん。ワシらお遊びで銭貸してるんと違うんや!その事もういっぺんよう考えるこっちゃ。今日はもう帰れ。」
銀次郎のいつものちょっとした注意とは違う怒り方、口調に本気で怒らせてしまった事をさとった竜一。
「 ……。頭冷やして出直してきます…ほんまにすんまへん兄貴。」
そう言って竜一は銀次郎に頭を下げ、肩を落としながら事務所をあとにした。
ガチャ…
バッタン………。
「はぁ…。」
銀次郎はどうしたのものかと深くため息をついた。
こっぴどく怒られた竜一はミナミの街をトボトボと歩きながら自省していた。
「確かに借金返してもらわなあかん相手にうなぎ奢るのはさすがにおかしいかぁ。 今までも同じようなことやらかしてきたもんなぁ…。
逆に鬼と呼ばれてる人がワシの事をこれまで大目に見てくれてたんが奇跡なんか…? そうや…ワシは兄貴に見初められた男なんや…ここでへこたれてたあかん!
ちょっとでも良い客見つけて 兄貴に認めてもらわんと! よっしゃー!」
自分の言い様に勝手に話をすり替えるスーパーポジティブマインドの竜一。
「でもさっきの兄貴なんや妙にムキになってるように見えたなぁ…桜子ちゃんもちゃんと約束通り銭持ってきてたし、利息分も不足してる訳やあらへんし、そない信頼失うような事してるようには思えんのやけどなぁ、兄貴があんなにムキになるという事は…兄貴もしかして… 桜子ちゃんとわしが2人きりで会ってた事に… 妬いてんのかぁ………!?」
ひとりおかしな妄想を始める竜一。
「おー?兄貴にも…遂にロマンスかぁ?あ、アカンアカン…ワシがこういうくだらん妄想ばっかりしとるからいつまで経っても成長せんのや。
そやけど、兄貴も兄貴で銭のことばっかり考えすぎなんや。
口を開けば”銭やぁ、借金やぁ、追い込みや”て…もっとこう女の繊細な乙女心いうの分からんと兄貴も漢としての甲斐性ってもんが… ん?なんか今寒気したな… もしかして兄貴に勘付かれとるか? おーこわ!やめよやめよ
とりあえず…帰って寝るか。」
結局あんまり反省していない竜一であった。
一方、銀次郎は事務所でひとしきりの仕事を終え一服していた。
「ふぅー。米原桜子…。」
その名前を呟きながら、銀次郎は小学生の時の桜子の姿とあの記憶を思い出していた。
頑固で負けん気が強いその性格は小学生の頃から全く変わっていなかった…
むしろ小学生の頃よりその性格が強くなっているような気さえする。
「ふっ…、まためんどくさい相手と再会してしもたもんや。」
銀次郎は桜子の小学生の時の姿と今の姿重ね、軽く笑いながら煙草をふかした。