テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
海外の港町。夜霧の中を走る黒塗りの車内で、マフィアのボス……ルカ・ヴァレンティーノは葉巻を噛み砕きそうになっていた。
「……ちッ」
理由は抗争でも裏切りでもない。
ラジオだ。
《――今夜もおやすみ前に、あなたの街の空気をお届けします》
低く、静かな男の声。
それだけで胸の奥を鷲掴みにされた。
「ボス? ラジオ変えます?」
助手席の部下――四人の中で唯一賢い男が気を利かせる。
「触んな」
ルカは即答した。
その声の主、アリアンソ・ルネスタ。
夜専門の人気ラジオキャスター。顔も知らない。ただ声だけだ。
なのに。
(……なんだこの気分の悪さは。胸が、うるせぇ)
荒事しか知らず、告白なんて概念も知らない男…ルカが、
一目惚れを自覚した瞬間だった。
それからのルカはおかしくなった。
放送時間を調べ、局の近くを通るルートを「偶然」選び、
放送後に出てくる人影を車内から眺める。
「……あれか?」
「ボス、それ完全に――」
「言うな」
部下の三人がひそひそと、話をする。
「恋っすかね?」
「恋っすね」
「ストーカーっすか?」
「撃たれたいか?」
ルカは低い声で言った。
でも、撃たなかった。
むしろ、部下には無駄に優しかった。
ある夜、ついに見た。
局の裏口から出てきた男。
背は高く、コートに身を包み、疲れた顔で空を見上げている。
(……きっと、アイツだ)
ルカは車を降りなかった。
近づき方が、わからなかった。
「……クソ」
ただ、遠くから見つめるだけ。
それが精一杯だった。
その時、アリアンソがふと足を止め、
小さくくしゃみをした。
寒がりなのか。
その情報だけで、ルカの世界は少し色づいた。
(……守る。理由は、まだねぇ)
恋とも執着とも言えない感情が、
静かに、確実に、深く根を張っていく。
いつか自分が彼に手を伸ばすことになるとも知らずに。
――夜のラジオは、今日も静かに流れていた。