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 王立音楽隊が奏でる旋律は優雅で、貴族たちは笑みを交わし、シャンデリアの光が宝石のように反射して舞う。

 煌びやかな舞踏会。そんな華やかな空間の一角では、不穏な空気が漂っていた。


 そんな中、大きな音と共に扉を開け入って来る警備兵が一人。

 突然の出来事に静まり返る謁見の間。貴族達は踊るのを止め、演奏も止む。その視線は、乱入してきた警備兵に集まった。


「なんだ! 騒々しい!」


 ブラバ卿は怒り心頭である。折角アンカースの悔しがる顔を見ていたのに、それを邪魔されたのだ。

 しかし、警備兵はそんなブラバ卿のことなぞ眼中にはなく、王の前へと跪く。


「恐れながら申し上げます! 現在この王都にアンデッドの群れが侵攻中にございます!」


「なんじゃとッ!?」


 耳を疑いながらも、窓際へと駆け寄る貴族たち。

 遠く南の地平には、ゆらゆらと揺れる無数の灯が見えていた。

 松明を掲げ、のろのろと、しかし確実に進む影の群れ。それは人ではない。腐り落ちた肉の隙間から骨を覗かせ、空洞の瞳に赤い光を宿したアンデッドだ。

 彼らは列を成し、まるで生者の軍勢のように規律正しく王都へと迫ってくる。

 それは街道を埋め尽くし、その最後尾はどこまで見ても、闇の中に溶けて見えなかった。


「数は!?」


「推定ですが五千ほどかと……」


「砦やギルドから緊急連絡はなかったのか!?」


「ありません……。恐らく領内にて出現したものかと思われます」


 先程までは穏やかであったアドウェール王の表情も強張り、瞳は揺らぐ。視線の先に広がる光景を見据えたまま、その指先はかすかに震えていた。


 国同士の戦争であれば、まず宣戦布告があり、貴族達を集め会議を開く。

 その中で全権を預かる指揮官を決め、貴族達から兵を集めるのだ。

 しかし、今この場に兵を率いて来ている者などいるはずがなく、純粋な王都の兵のみでの戦いを強いられる。

 城内だけで今すぐ用意できる兵は三千程度。前もって貴族達に兵を出させれば三万は集まるだろうが、それが間に合わないのは火を見るよりも明らか。

 アンデッドたちの先頭は、すでに王都の南門付近まで迫って来ている。


「南環外区の住民には避難指示を! 絶対に門を開けてはならん! 冒険者たちにも通達を出せ! 兵を集めよ! 今すぐにだ!!」


「ハッ!」


 警備兵が急ぎ部屋を出て行くと、慌ただしくなる謁見の間。

 貴族達は自分の護衛を傍に置き、誰も不安を隠せていない。

 今すぐに脱出をすれば、逃げ切れただろう。しかし、王を前にして逃げるという選択肢は皆無だ。


 そんな中、ネストとバイスは現状に違和感を覚え、しばらく迫り来るアンデッドの軍勢を見ていた。

 そしてその行列の中に一カ所。一際明るく異彩を放っている場所を見つけたのだ。

 そこにいたスケルトンに、二人は心の臓が止まってしまうかと思うほどの戦慄を覚えた。

 くすんだ金の冠。白い法衣に、薄汚れたボロボロの外套。見た目は多少大きいスケルトンといった程度になってはいるが、それは紛れもなくスケルトンロードであったのだ。


 ――あの禍々しさを忘れるはずがない。


(あれを呼び出せるのは、九条しかいない……。しかしなぜ、軍を率いて来たのか……)


 本気で王都を潰しに来たのであれば一大事。

 他のアンデッドはまだしも、ロードに太刀打ちできる者はそういない。

 例え勝てたとしても、その被害は考えただけでも想像を絶する。


(でも、九条はそんなことする人じゃ……)


 ――だが、百パーセントそうとも限らないのが人の心だ。


 不明瞭であるが故に恐怖が生まれる。思い出されるのは九条がロイドに向けた憎悪。


(それが今、私に向けられているのだとしたら……)


 ネストには自覚があった。自分が九条にそれだけのことをしたのだと。


 王女の護衛であるヒルバークに身を寄せるリリーは、見たこともないアンデッドの大軍を見て青ざめ、小刻みに震える。

 ネストはその手を優しく握り、リリーの耳元で囁いた。


「王女様……。恐らくですが、あれは九条の仕業でしょう」


 酷く自信のない声。そこには不安の色が混ざっていた。


「えっ!? 九条ですか!?」


「はい。九条の死霊術なら、あるいは可能であるかと……」


 信じられないのだろう。正直に言って規格外にも程がある。

 だが、事実なのだ。


「じゃあ、いったいなぜ……」


「それは……」


 ネストは、自分の所為でこの事態を引き起こしてしまった可能性を捨てきれなかった。

 しかし、言わない訳にはいかない。


「……もしかしたら……私が彼を怒らせてしまったから……」


 その声は震えていた。それは恐怖から来るものか、後悔から来るものなのかわからない。

 九条が探し出した魔法書を譲り受け、それを無駄にした挙句、罵ったのだ。

 怒って当然だろう……。すぐにでも九条を追いかけ謝るべきだったのだ。


 王は鎧を纏い武器を取ると、会場内に聞こえるよう高らかに声を上げた。


「我が兵三千の総指揮を預ける! 我こそはという者はおらぬか!?」


 静まり返る謁見の間。王に忠誠を示す良い機会だが、誰も名乗り出なかった。

 それもそのはず。アンデッドとの戦争などしたことがないし、既に数では負けている。

 貴族は冒険者ではないのだ。逆に負けてしまえば王からの信用は地に落ち、他の貴族からも蔑まされる事になる。

 そんな危ない橋は渡れない。ぬるま湯に浸かっている貴族達の誰が手を上げようか。


「私が行きましょう!」


 そこで手を上げたのはヒルバーク。静観していた貴族達からは、安堵のため息が漏れる。


「おお、いってくれるか! 近衛隊長」


「ハッ!」


「他には……いないようだな。よろしい! そなたに我が兵三千を預ける! 頼んだぞ!」


 ――――――――――


 ヒルバークは謁見の間を出ると、兵の集まる王宮の南門へと走った。

 それについて来たのはバイスである。


「あれは本当に九条なのか?」


「姿は見えないが、恐らく……」


「ならば、まずは理由を聞かねば……。バイス殿には説得をお願いしたい……」


「出来るだけやってはみるが、期待はするな……」


 バイスは震えていた……。一度対峙したことのある相手だからこそ、その恐怖が手に取るようにはっきりとわかる。

 それを見てヒルバークは気を引き締めた。自分よりも強者であるバイスが震えているのだ。

 それだけ敵が強大だということ……。失敗は死を意味するものと覚悟したのである。

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