テラーノベル
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その日、イギリスはいつにも増して疲れていた。
スーツのまま、玄関で崩れるように座り込む姿を見た瞬間――
仏はソファで読んでいた画集をすぐ閉じた。
仏「おかえり、……じゃなくて、大丈夫?」
英「……うん。私、ただの仕事疲れですから」
仏「“ただ”じゃない顔してるじゃん」
英「……顔に出てました?」
仏「バレバレ。眉間にシワ寄ってるし、肩もすっごいこってるでしょ?」
英「……はぁ。なんか、今日はもう……全部めんどくさい」
仏「ふーん。じゃ、着替えも風呂もごはんも抜きで、いきなりお姫様抱っこ?」
英「……! さ、さすがに、それは――」
仏「うそうそ、ちゃんと服脱がせてあげるから。……なーんて」
英「……うるさいです」
それでも、脱力した身体を支えるように腕を貸すと、イギリスは素直に身を預けた。
仏「はい、ソファ。座って」
英「……」
仏「お茶淹れてくる。で、そのあとマッサージ。いい?」
英「……ほんと、何でもしてくれますね」
仏「当たり前でしょ。君が元気ないと、僕もつまんない」
英「……口が軽いくせに、そういうとこだけちゃんと優しいんですね」
仏「それ褒めてるの? それとも、口説いてる?」
英「うるさいです。……でも、ありがとうございます」
仏「はいはい、ありがたがられるの慣れてるから~」
英「……」
仏「……でも、今日はちょっと本気。疲れたときくらい、僕のこと思いっきり甘やかし装置だと思ってくれていいから」
英「……じゃあ、もうちょっと甘えていいですか」
仏「何それ、反則。かわいすぎ。好き……いや、大好き。……惚れ直した」
英「……調子に乗らない」
仏「は~~い。でも君が元気になるまで、僕は絶対そばにいるから」
英「……うん。ありがとうございます、フランス」
その夜、淹れたカモミールティーは少しぬるくなったけれど――
イギリスの頬がやわらかく緩んだ瞬間を、僕は何よりのごちそうだと思った。
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