太陽学園は昭和初期に
建てられた建物で
普段は近隣の住民の人々に
門戸を開き
夜以外は人が自由に出入り出来るように
なっていた
今は初夏が近づく昼下がり
学園の子供は昼寝をし
夕食の仕込みの匂いを漂わせていた
宿舎の横の小さな礼拝堂は
こじんまりしているが
とても美しかった
天井が高く
そびえるゴシック様式の
柱はいくつにもわかれた
丸天井の頂点で出合う
天井から床まで届く窓が
柱の間を埋め
まばゆい光を礼拝堂に注ぎ込む
ほとんどが透明ガラスだが
素朴な童話を描いた
ステンドグラスもあった
今は学園長が祭壇の
小さなマリア像に祈りを
捧げていた
ああ・・・・・
今日もマリア様は
ほがらかだ
肩肘をついて手を前に組み
頭を垂れた
こうしていると
とても平和な気持ちになる
聖母マリアさまに包まれ
一切の悪から守って下っている
学園長はいつものごとく
午後の祈りに没頭した
日頃の神の恩寵が
もたらされている
事柄に思いを巡らす
それがほんの些細な事でも
彼は感謝せずにはいられなかった
今朝は学園の最年少の
聡の乳歯が抜けたありがたい
そして最後には
学園生一人一人の健康と
幸福を心から願う
だか最近は
その時に必ず彼の
心に重くのしかかる事柄がある
そう・・・・
もうずいぶん前から
ユカ・・・・・
彼女を想うと胸が痛んだ
突然学園から姿を消した少女
他の学園生に聞いた所
学園主任の高木と
なにやら揉めていたのが分かった
高木は以前から自分も
いま一つ信頼を寄せられなかった
学園の給食費を着服していた
先日ようやくそれを
判明することが出来
解雇処分にした
時に人間は愛を
いとも簡単に裏切る
またそれも
人間をそうお創りになられた
創造主のご意図なのか
ただ気になるのは
高木が辞める時に
その時にユカの事も話していたが
学園長は今だに信じられなかった
まさか
彼女が売春していたなんて・・・・
ズルズル引き伸ばしていたが
学園長は決断を下さなければ
いけなかった
もう数日待って
ユカが戻ってこなければ
警察に「行方不明者」として
捜索願いを出さなければいけない
いや 遅すぎるぐらいだ
出来れば彼女の方から
戻ってきて欲しかった
自分は受け入れる覚悟は
いつだってある
むしろ
そのための学園なのだから
彼女が今どこで何を
しているのか・・・・
ひもじい思いをしていないか
何か不自由な思いをしていないか
ロザリオを握りしめ園長は祈った
「主よ・・・
あなたの御手に
あなたの彼女の魂をゆだねます
それが主の
ご意思であれば彼女を癒し
魂に力を与えてください
彼女が恩恵で満たされ
とこしえに主の
平安を知りますように・・・ 」
その時礼拝堂の入り口に
午後の光を受け長い陰が出来た
誰かが佇んでいるのを
気配で感じた
学園長は膝を伸ばし
後ろを振り向いた
「午後の礼拝の方ですか? 」
入口に立っているのは
背の高い青年だった
その青年はゆっくり礼拝堂に入ってきて
学園長を見つめた
彼の靴音だけが礼拝堂に響く
彼の態度は親しみがあった
人間がやましい事を
懺悔する前の行動だ
どこかそわそわして
落ち着きがない
自分がはたして神に裁かれる人間
なのかどうか知りたくて
でも知るのが怖い
学園長はそんな人間を
何十人も見、励まし
悔い改めさせていたので
彼との緊張は慣れたものだった
「懺悔しますか?ここには
私とあなたしかいない 」
青年はもじもじしながら
言った
「あ・・・
ハイ・・
イエ・・・・
僕は・・・・
懺悔しにきたのではなく 」
彼はキョロキョロし
相変わらず落ち着きがない
「あの・・・・
ここにいる子の
知り合いなんですが・・・
つかぬことを
伺いますが
ここの学園生で高校生の
女の子を・・・・
その・・・・
用があって 」
頭の後ろを掻きながら
額からは汗が出ていた
学園長は言った
「あなた お名前は? 」
威厳のある言い方だった
「あっ!
すっすいません
申し遅れました
僕は牟田と申します 」
学園長は聖職者としての
冷静さを聖衣のように纏い
牟田に言った
「そうですか・・・・・
では牟田さん
少し私の祈りに
付き合って下さいませんか?
なに
そうお時間は取りません
今神に一人の少女の事を
お願いしていた所なのですよ 」
学園長はアーメンと手を
十字に切り
牟田に短い祝福を授けて
話し出した
「とても孤独な女の子の話です
彼女は小さい頃に母親に捨てられ
この学園にやってきた
彼女はおとなしく
勉強も良くできました
まさにこの学園の優等生でした
将来はとても優秀な
大学に進学し
良い大人になるだろうと
思っていました・・・ 」
牟田は黙って聞いていた
学園長は目の前のマリア像を
見つめたまま語った
「ところが神は
彼女にたぐい稀なる
容姿を授けた・・・・ 」
学園長は語る間
まったく表情を変えなかった
「それは彼女が
成長するごとに
表れてきました・・・・
ぬけるような白い肌
大きな瞳は見つめると
吸い込まれそうだ
艶やかな髪
彼女の美貌はまさに神の恩恵
しかし彼女はまだ幼く
親から捨てられた傷もあって
自分の魅力に気づかない
まるで童話の
みにくいあひるの子でした 」
小さな笑みが広がった
おそらく昔を
思い出しているのだろう
「正直言って・・・・
私は持て余していました・・・
彼女の魅力を
地味な服を着せてみたり
よく彼女にお説教をしたものです
聖書の「マグダラのマリア」を
引用に出したりしてね・・・ 」
肩にかけている紫の絹が
僧衣の後ろ身ごろの裾に
まっすぐ垂れるように整え
また話し出した
「時に最良の行動が残念な
結末に終わることもあります・・・
他の学園生の男の子が
彼女を意識し出すのも
私は黙って見て
いるしか出来なかった
だってそうでしょう?
誰でも男なら一目見たら
彼女を欲しくなる
あの健気な瞳で見つめられ
微笑みかけられたなら
男なら自分の物にしたいと
欲望の炎が燃え上がるのを・・・・
一介の聖職者の私に彼らの
欲望をどうして
止められるでしょう 」
彼はつづけた
「人間の本質は魂です
肉体はその器・・・・・
しかし時に神はその器を
まるでベネチアングラスのように
美しく端麗にお造りになる
それは見ている者を幸福にし
この世の中を豊かな物にする役目を
になっているものと思われます
しかしより繊細な器であればあるほど
壊れるのも早い・・・ 」
くるっと振り向き
学園長は牟田を見据えて言った
「(清水ユカ)は
そのたぐい稀な容姿
美貌ゆえに・・・・
肉体を求められ
男性に魂を軽視されるという
課題を神に与えられた・・・・ 」
端麗
学園長が語り終えると
牟田は一、二度瞬きをして
何か言おうと口を開きかけ
頭を振った
学園長は辛抱強く待った
しばらくして
牟田が咳ばらいをした
声が緊張で擦れている
「あの・・・・
神父様・・・
全部・・・
全部お話します
僕と・・・
その・・・
彼女の関係を・・・
全部話した後
どうか僕も
彼女の行方を探すのを
手伝わせていただけませんか? 」
牟田は汗のかいた掌を
ズボンにすりつけた
学園長は牟田をじっと見つめて言った
「なんと・・・
もう神が私の願いに答えてくださった
長くなりそうですね
場所を変えませんか?
私の部屋へ案内しましょう
頂き物のとっても美味しい
ダージリンティーがあるのですよ 」
学園長は牟田を見て
微笑みかけ
背中にそっと手を添えて
二人は一緒に外に出た
「その話ほんとうなの?麻美ちゃん?」
「ほんと!ほんと!
嘘なんてつかないよ!」
夜の帳が降りる頃
初夏を迎えようとしている
熱帯夜では焼けたアスファルトから
夜の水滴で陽炎のように
煙が立ち込める
国道沿いの大きな
セルフガソリンスタンドは
深夜も12時が過ぎる頃には
地元の暴走族の
たまり場になっていた
大きな国道から私道を通って
ガソリンスタンドに
6台の大型改造バイクが入ってき
派手な騒音をまくし立てていた
爆音に引き付けられるように
改造車を見物しようと
ギャラリーが集まり
そのギャラリーの女を
ナンパしに男が集まり
深夜だというのに
今や大勢の若者がたむろしていた
「ほっとにびっくりしたんだよ~」
「え~?こわ~い!」
「でもよくヤラレなかったね 」
給油スタンドの隣に
特攻服を着た女の子3人は
枝にとまる小鳥のように
並んで座っていた
「また始まったよ・・・
麻美の強姦されかけた話 」
「そうそうウザいよね~ 」
「ホラじゃないの? 」
三羽烏の女の子の
少し離れた場所にに
これはまた別の色の
特攻服を着た女の子の軍団が
3人組の話に耳を傾けて疑わしげに
ひそひそ話をしていた
色とりどりの特攻服に
胸にはサラシ
髪はソバージュをかけてくるくるだ
どの子も十代で同じような
オバサンヒールを履いている
麻美はこれ見よがしに
もっと大声で話を続けた
最近入れてもらった
暴走族の特攻服も板について
ヤンキー座りも様になってきた
「それで
男があたしのシャツを掴んで
引きちぎったの!!
ビリビリッて音がして
あたしは必至で抵抗したのよ!!」
疑わしげな
彼女達も麻美の話に
聞き耳を立ててる
麻美は自分が注目を
浴びている事が面白くて
しょうがなかった
ガソリンスタンドの
ロータリーでは
改造したバイクが
爆音を立てて旋回している
そこには未成年の男の子たちが
これまたサラシに特攻服
背中には星条旗を担いで
いきり立っていた
今にも暴走が始まる喧噪があり
周りは活気づいていた
遠くの方で爆竹が
鳴る音がする
ここのガスリンスタンドの
ロータリーは
今は南の方から流れてくる
大きな暴走族との合流地点だった
時間が経つにつれ
改造バイクに乗った未成年が溢れ
その顔にはマスクや
タオルで覆って人相が
はっきりしない
今や国道沿いの無人の
ガソリンスタンドは
改造バイクの巣になって
蜂のようにブンブンうなっている
麻美はすっかり興奮しきって
女友達や聞き耳を
立てている子達の
感心を引こうと
今は大声でしゃべっていた
「ほんと!
あたしなんか寸前で
逃げてこられたけど
一緒に行った友達なんか最悪!! 」
「ヤラれちゃったの? 」
「そうなんだよ
可愛そうに助けられなかったんだ!
だって自分が逃げることに
精一杯だったんだもん!! 」
麻美の誇張した話も
佳境に入ってきた
タバコを空吹かしし
唾を地面に吐く
「逃げる途中で
友達の叫ぶ声がしたの!!
でもその子がいる部屋に
あと男が二人入って行ったんだ 」
「ええ~~~っ!
じゃぁその友達の子って
全員相手したの? 」
麻美はすっかり興奮しきっていた
あの時の恐怖心を思い出し
身震いした
話もいよいよクライマックスに
突入しようとした時
「その 友達はユカって言うんか? 」
麻美の周りにいる
女の子達がキャァと
後ずさりした
麻美は
キョトンとし
話の腰を折った張本人に目を向けた
すると
目の前に炎のような金髪に
怒りをあらわにした男が立っていた
「猛さんよ! 」
「いや~ん!カッコイイ」
麻美を取り囲んでいた
女の子達が途端に
色めき立った
上半身裸・・・・
下は黒の特攻ズボンに
地下足袋を履いている
でも何より印象的なのは
好戦的な釣り上がった
一重の奥の瞳だった
その時麻美は気づいた
ユカちゃんが
ジョージと出会う前に
猛という子と
付き合っていたことを・・・
ユカちゃんは彼の事を
なんて言ってたっけ?
でもまさかこの目の前の
釣り目の彼が
みんなが噂していた
カッコイイけど
危険で有名な
その本人だなんて
猛は麻美の前にしゃがみ
鋭い視線を麻美に向ける
「ほんでお前はユカを
置き去りにして
一人逃げてきたんか? 」
乱暴に猛が言った
怪訝な顔の問いかけに
しどろもどろになってしまった
「あ・・・
えっと・・・・ 」
いきなり胸ぐらを掴まれた
くるしいっ
恐怖心が体中を駆け巡る
女の子達が
小さく
「ヒィツ 」
と言って麻美と猛を見ていた
「だからお前は
その男達にユカが
犯られてるのを
放ってきたんかと聞いてるんや」
「離・・・して・・・・ 」
息が出来ない
ものすごい力で喉元を
締め上げられる
冷や汗が全身に湧き出る
猛は自分とユカちゃんが友達
だったのを知ってる?
そして猛はとても怒っている
ユカちゃんを
置いてきた自分に
苦しくて涙がにじんできた
「猛さんっ 相手は女ですよ!」
猛の後輩であろう
少年が二人猛を止めに入った
猛をなだめるのに必死に
何やら言い麻美から
手を離させようとしている
暴走と喧嘩はつきものだ
今や何だなんだと見物しようと
野次馬が猛と麻美の
周りに集まっていた
猛を怒らせた
怖いもの知らずの
女の子を見物しようと
誰もかれもが
猛と自分の周りを囲んでいる
とんでもない形で
麻美は注目の的になっていた
「狂犬」と呼ばれている猛は
はたして女でも怒らせれば
ボコボコにするのだろうかと
賭けが始まる始末だ
「女を殴るに千円!」
「いや!殴らないに千円!」
麻美は喉がつまったような
妙な声で色々言っていたが
猛には聞こえないようだった
その時
なにやら国道の方で動きがあった
「警察(サツ)だ!! 」
「逃げろっっ! 」
その言葉と同時に
パトカーのサイレンが光り
警報音はやかましく鳴った
「猛さん!!逃げないと!!」
その言葉でやっと
猛が麻美を離した
猛は
せき込み涙ぐむ
麻美を冷ややかな視線で睨み
地面に唾を吐き
麻美めがけて中指を立てた
そして
停めてあった
愛車CBR400F
(4フォア)に
またがって走り去ってしまった
猛達を筆頭に
他の改造バイクに
乗った少年たちも
ワラワラと逃げ出した
右往左往している姿は
まるで巣を攻撃された
蟻みたいだ
「ひえ~~
おっかなかったねぇ~
猛先輩 」
「麻美ちゃん大丈夫? 」
「あたし達も逃げなくちゃ! 」
猛がいなくなった途端
麻美の友達も
息を吹き返したように
口々にしゃべりだした
麻美はまだ咳き込み
先ほどの恐怖に身を震わせた
耳の奥でまだ血液が
ドクドク言っている
あれが・・・・
ユカちゃんの元彼?
でも・・・・
ユカちゃんは付き合っていないって
言ってなかったっけ?
ゼイゼイと不規則な呼吸をした
もしかしたら持病のぜんそくが
ぶりかえしたのかもしれない
ずっと気になっていた
ただ一人の親友だと
思っていた子・・・・
彼女の言うがままに
面接に連れて行かれて
犯されそうになった
どこか裏切られたような気持ちと
実は彼女も騙されて
犯されたのでは
ないかという懸念・・・・
どこか後ろめたさを隠すために
おもしろおかしく喋りまくった
そうすればあの恐ろしい出来事が
笑いに変えれるような気がして・・・・
でもあれから
ユカちゃんから連絡が途切れた
最初はハラを立てていたけど
次第に何か犯罪に巻き込まれたの
ではないかと感じていた
そして今
猛に咎められた
自分は親友を犯罪者達の
中に置き去りにしてきた・・・・
もしかしたら
大変な事をしたのかもしれない
そう思ったら
全身の毛穴が開いたように
汗がドッと出た
それにあの猛・・・
ユカちゃんから
話を聞いていた時は
ただの冴えないヤンキーと言う
イメージしかなかった
そう・・・・
でもユカちゃんは
あのジョージに惚れて
ものにするぐらい
彼女はとても面食いだ
ユカちゃんとジョージが
並んでいるのを見ると
美男美女でお似合いで好きだった
ジョージが美男なら
あの猛は野獣だ
さっき掴まれた
腕を思い出した
思考の断片に写る
彼の盛り上がる
二の腕の筋肉
上半身裸に
特攻の紫ズボン・・・・
仕事は何だっけ?
ユカちゃんから聞いた
猛の情報を思い出す・・・
ああ・・
そうか
土木建築のお父さんを
手伝っているんだっけ?
だから猛はとてもマッチョな体を
していたんだ
斜め上一直線に上がった眉
眉間のシワ・・・・
射るような一重・・・
目には怒りの
炎が舞い上がっていた
首を絞められているのに
射るような目線に
焼き殺されそうだった
触れられた喉の感覚が
背筋を下り産毛が逆立った
そこで気付いた
もう一度彼に会いたい
「猛せんぱい行っちゃったぁ~」
「あ~ん最近はめったに
暴走顏出さなかったのにね」
隣で残念そうに話している
女の子達を見た
暗いのに
手鏡で化粧を
直している口紅を
塗るとそれをサラシを
巻いている胸元に挿しこんで隠した
麻美は詰め寄って言った
「ねぇ
どこに行けば
猛せんぱいに会えるの?」
雨が降り出した
アスファルトを水が流れる
アクセルをふかす
手が雨で滑る
4Fにまたがる猛は
びしょ濡れで
湯気を上げていた
上半身裸の素肌に
叩きつける雨も
足元まで濡らす
水しぶきも眼中になく
国道をただひたすら
猛スピードで走っていた
体を動かせば怒りが静まり
あの女を殴らずに
話ができるように
なると思ったら
大間違いだった
ユカからあの女の事を聞いていた
唯一の友達ではなかったのか?
女の友情なんて信じられない
でも
もっとも信頼
できない人物といえば
ユカ以外に考えられない
突然自分の前から姿を消した
あんなに毎日一緒にいたのに
誰かがアレを
情熱と呼んでいた・・・・
そう・・・・
あんなに喘ぎ
あんなに自分の腕の中で
情熱的だったのに・・・
狭い町だから
噂などはすぐに広まる
ましてやユカのような
見た目のヤツは
とても目立つ
そう・・・・
ユカは誰もが納得
するぐらい良い女だ
そのユカが自分を差し置いて
どこぞのホストに
入れあげているらしいと
知り会いつてに聞いた
その時はわが耳を疑った
雨は今は激しく降り
小さな水滴が頭や
肩の上で飛び跳ねる
自分がどこに向かって
いるのかどうでも良かった
背筋が水を流れ落ちる
彼女が欲しかった
認めたくないが
これほど女に
恋焦がれたことはなかった
ユカが自分の前から姿を
消してからずいぶん経つ
そんなとりとめのない
思考の中家路についた
ずぶ濡れになったまま
バイクを家の路肩に付けた時
フト足元で小さな
泣き声が聞こえた
軒下の陰で
自分と同じくずぶ濡れになった
子猫が激しく震えていた
「・・・・お前・・・
どこから来た? 」
ぴゃーぴゃーと
猛を見て必死に鳴いている
つぶらな瞳がダークブルーに
光っている
「・・・ハラ減ってるのか?
うん? 」
猛が抱き上げると
安心したように
ゴロゴロ喉を鳴らす
フとみぞおちに
奇妙な感覚が生じた
久しぶりに出会ったユカも
ハラを減らしていた・・・・
子猫の毛並みの手触りに
胸の中で並外れた
そしてまったく
予想もしていなかった
感覚が引き起こされた
それは前触れもなく
いきなり興奮に襲われた
子猫の毛並はユカの
陰毛そのものだった
艶やかな波打つ毛を
触るとおどろくほど柔らかだった
そしてそのかぐわしい秘所に
口を付けた時・・・・
思い出と興奮が
激しく入り混じった
それは今は切なく
猛の心を締め上げた
それは殺せそうな
勢いで全身を襲った
「もう一度・・・・抱きてぇ・・・」
口に出してしまえばもう遅い
ユカを欲しいという思いが燃え上がり
体が火照りうろたえた
猛は子猫を抱えたまま
家に入った