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「お前、もしかして……俺とどうにかなったのかって事……気にしてる訳?」
「――ッ!」
顔を近付けられて思わず大声を上げそうになったのをすんでのところで止めて、少し身体を後ろへ引く。
「ち、近い……よ……」
そして、小さい声でそう呟く私に一之瀬は、
「……阿呆か。酔っ払ってる奴を襲う程、困ってねぇよ。つーか、さっさと服着ろよな」
「痛っ!?」
意地悪な表情から一変、不機嫌気味な表情へと変えながら、おでこに指を弾くように当てながら一発強めのデコピンをされ、「あれは、お前が自分の服脱いだ後で――」そう切り出しながら、服を脱いでベッドに寝ていた経緯を話してくれた。
一之瀬の話によると、抱き着いて、「暑い」と口にした私は自身の服を脱いで下着姿になった直後、「私だけ下着姿とか恥ずかしい」と言って強引に一之瀬に迫った私が彼の服を脱がせて下着姿にした後、それに満足したらしい私が今度はベッドに一緒に寝ようと誘い、共に同じベッドへ入った瞬間、一之瀬に抱き着いて眠り始めた……というのが事の顛末らしかった。
(私、酔うと本当最悪じゃん……服を脱がせた挙句一緒に寝ようって誘うとか……何? 有り得ない……)
話を聞きながらとりあえずブラウスを着た私は、自分の酒癖の悪さに目眩を覚え、頭を抱える。
「……ごめん、本当に……申し訳ないです……」
こうなると一之瀬に非は無い訳で、当然私の方が平謝り状態。
そんな私に一之瀬は、
「いいって。気にしてねーから。それより、さっさと水分摂れよ? 頭痛てぇなら薬飲むか?」
気にして無いと言って私の身体を心配してくれる。
(何か、意外……一之瀬って、結構優しいとこあるんだなぁ)
いつも憎まれ口を叩き合い、時には愚痴を聞いてくれる一之瀬。
そして、酒癖の悪い姿まで見せてしまったのに、それでもいつも通りなところが嬉しかったりする。
「ありがとう……薬は大丈夫――っあ!」
ペットボトルの蓋を開けて水を飲もうとした私は手を滑らせて水をシーツにぶちまけてしまった。
「冷たっ」
「ったく、何やってんだよ……」
「ごめん! シーツ濡れちゃった……どうしよ……」
「いいって、どーせ水だし、乾けば問題ねぇよ。それよりほら、足に水掛かったろ? これで拭いとけよ」
「ありがと……、本当にごめん……」
一之瀬からタオルを手渡された私は水を拭き取りながら迷惑を掛けっぱなしな事を申し訳なく思い、落ち込んでいく。
「何だよ、そんな顔して?」
「だって私、一之瀬に迷惑ばっかり掛けちゃってるから……」
「はあ? お前らしくねぇな。別に迷惑とか思ってねぇよ。つーかそんな風に落ち込まれると調子狂うし」
「落ち込みたくもなるよ……私、本当ダメダメじゃん。こんなだから、恋も上手くいかないのかな……」
酔って迷惑を掛けた事もそうだけど、恋愛が長続きしない事も自分に原因があるような気がするし、考えれば考える程自分が嫌いになりそうだった。
自己嫌悪に陥っている私に一之瀬は、
「男に振られたくらいで何だよ? つーかさ、浮気するようなクズな男になんか、振られた方が良いに決まってんだろ? 今回の事は寧ろ喜ぶべきだろ?」
いつになく優しく、励まそうとしてくれているのが分かる。
「……そう、かな?」
「そーだよ。長く付き合うだけ無駄無駄。別れられて正解。お前はラッキーだったんだよ」
「……そっか……そうだよね。うん、そう言われるとそうかも」
「ったく、世話が焼ける奴だな」
「ありがと、一之瀬! やっぱり一之瀬に話すと楽になる! いつも言い合いばっかりだけど、こういう時の一之瀬って頼りになるから助かるよ」
「そりゃどーも」
「一之瀬もさ、私の事、たまには頼ってよね? まあ、頼りないかもしれないけど……」
「そーだな」
「酷っ! そこは嘘でも『そんな事無い』って言ってよね」
「はいはい」
「もうっ! それはそうと、迷惑掛けちゃったのは確かだし、何かお礼しないとね。何かして欲しい事とかある? 私に出来る事なら何でもするよ?」
「何でも?」
「うん。ご飯奢るとか? あ! そういえば飲み代! 払ってない! いくらだった? 今払うね!」
何かお礼をと口にした直後、そもそも酔って眠ってしまった私は飲み代を払っていなかった事に気付き、今から払おうとバッグを取りにベッドから降りようとした、その時、
「――っ!?」
すぐ横に腰掛けていた一之瀬に腕を引かれた私はベッドへと戻される。
「……え?」
そして、そのままバランスを崩してベッドへ倒れ込んだ私の目の前には、一之瀬の姿があった。