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まんまと騙された――。
魔石を誰かに預けたりすることがほとんど無かったのに、ちょっとした油断もいいとこだ。
まさかルティと入れ替わっていたとは。しかしネーヴェル村への入り口は見えているのでそこまで悲観的じゃない。それに妨害して来る気配も無さそうだし行くしか無いだろう。
そう思いながら村へ入ったが。
「アック、シーニャ入れないのだ! 霧がひどくて何も見えないのだ」
「あたしもですわ。本当にそこが村の入り口ですの?」
おれの後ろをついて来るシーニャとミルシェだったが、様子がおかしい。
「えっ? 霧?」
霧が晴れた村の入り口におれだけ一足先に入れた。そこにはひと気の無い小屋が佇んでいるだけだ。
今のところ誰の気配も感じられないが、後ろを振り向くとシーニャとミルシェの姿が見えている。彼女たちからはおれの姿どころか、村の入り口すら見えていないようだ。
何かの仕掛けなのかもしれないので、もう一度シーニャたちの所へ戻った。
しかし――。
「ウニャニャ!? さっきは霧で見えなかったのだ!」
「あたしもですわ!」
「村が?」
「ウニャ!」
「ええ。今は見えていますわ」
おれは何とも無いが、シーニャとミルシェからは見えなかったのか。今度は大丈夫――そう思って村に進んだが、見えない壁でもあるのか彼女たちは進んで来られない。
「ウニャ……どうすればいいのだ?」
「アックさま。村に入る為の条件があるのでは?」
そういえば実力を認められたから、おれだけが入れるとか言われていた気がする。そうなると彼女たちを入れるにはこの方法しか無い。
「フニャウ~……」
「フフッ、堂々と抱きついていいなんて、悪くありませんわね」
「……変な動きとか、触ったりしないでくれよ?」
「どうかしらね」
ネーヴェル村にはおれしか入ることが出来ない。もちろん、ルティは例外だ。サンフィアも恐らく中にいるはず。それを利用して腰にはシーニャ、前にはミルシェを抱きつかせたまま、村の入り口に進んでいる。
「ウニャッ! 見えるのだ! 入れたのだ!!」
「あら、本当ですわね」
彼女たちが行き詰っていた位置は入り口の手前だった。二人を密着させたままだったが、すぐ目の前が村の入り口だったので難なく入ることが出来た。
「よ、よし、二人とも離れていいぞ」
「ウニャ、大丈夫なのだ?」
「あたしはこのまま密着し続けても構いませんわよ?」
「もう大丈夫だろうから、ミルシェも離れてくれ」
村が認めた者だけしか入れなくしていたとしたら、非常に面倒な仕掛けとしか言えない。しかし方法は何であれ二人とも進めたので良かった。
霧で村の存在を隠す必要があるとしたら、その辺の冒険者パーティーではとてもじゃないが見つけられないだろう。
「アック。ドワーフ助けに行くのだ?」
「そうですわ。魔石を取り返さないと!」
「そうだな。じゃあ、行くか」
村入り口の小屋には特に何も無いようで、気にする必要は無さそう。村人の気配も今のところ全く感じられない。危険は無いということで、彼女たちをなるべく傍につかせて歩き始めた。
だが。
「むっ――!?」
人の気配は無い。そう思っていた所で、突然何か尖った刃先のようなものが見えた。
「シーニャ、ミルシェ! 避けろっ!!」
「全く、せわしない村ですわね」
「ウゥゥ!! 何なのだ、攻撃なのだ?」
全長にして20センチ前後の刃先が見えないところから投げつけられたようだ。刃先で判断するにダガーナイフのようだが、どこから飛んで来ているのか分からない。
眼前には小さな農場と大きな家が左右に散らばっていて、視界は良好。肉屋と鍛冶屋らしき小屋が奥の方に建っているが、そこから投げて来ているとは考えにくい。
面倒な村だと感じていたが、やはり何かしらの攻撃は仕掛けて来るらしい。手っ取り早く片付けたいので、ここは堂々と真正面から進むことにする。
「うーん……仕方ないな。シーニャとミルシェはおれの後ろに!」
「どうするのだ?」
「アックさまはダメージが通らない……でしたかしら?」
「ああ。そういうわけだから、後ろを警戒しながらついて来てくれ」
まどろっこしいやり方で歓迎されても面倒だ。ここは一気に突破させてもらう。