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「しばらくご一緒していなかったですけれど、あなたさまはもはや敵無しの存在ですのね」
おれの後ろを歩くミルシェがあっけに取られたようでずっと驚きっぱなしだ。シーニャにとってみれば当たり前の光景にもかかわらず、ミルシェが今さらながら驚いていることに何度も首をかしげて不思議がっている。
「驚くことでも無いのだ。ウニャッ!」
「あなたにとってはそうでしょうけれど、あたしはずっと離れていましたのよ?」
「ウニャ? じゃあそのうち慣れるのだ」
ネーヴェル村での用が済んだ後、ミルシェが同行してくれるかは未定。それには理由があるのだが、一番の理由は以前のような水棲怪物じゃなくなっていることにある。
厄介な奴がいた時にどうするべきなのかという心配があるし、サンフィアを連れて行く以上、そこまで大所帯に出来ない問題があったりする。
「……それにしても、ネーヴェル村ではよほど短剣が余っているのか?」
いま現在、実は見えない敵からこちらに向かって短剣が投げつけられている。投げられてくる頻度からして複数の人間の仕業に違いないのだが、全くその攻撃が止まる気配が無い。
だがそれも空しく、短剣は全ておれの手前の地面に落ちまくっている。ミルシェが言うようにおれには全くダメージが通らないからだ。そもそも物理攻撃を無効にすることが出来るので、たとえ遠隔攻撃だとしてもおれに当たることが無いのが現状だ。
「どうでしょうね。鍛冶屋が視界上にありますし、失敗作でも投げられているのでは?」
「鍛冶屋か。でも、効き目が無いことくらいこの村の人は知っているはずなんだよな……特にあのリリーナさん辺りは」
ルティの母であるルシナさんのお姉さんらしいが、素性は不明だ。そもそも当初ここに来る目的はルティを薬師にする為だった。
そしてドワーフの村ということも聞いていたのだが――
「――魔石を奪って何をするつもりなのでしょうね」
「それは分からない。だが、何かの狙いがあるんだろうな」
ルティの伯母さんにあたるリリーナさんは、少なくとも魔石を変なことには使わないはず。
「アック、アック! 攻撃が止まったのだ」
「うん?」
「何も飛んで来ないのだ!」
当たることのない短剣が無残にも地面に散らばっている。投げ尽くしたか、あるいは諦めたか。
「何がしたかったんだろうな」
「ウニャ、張り合いが無いのだ」
少なくともおれだけに狙いを定めていたのなら意味のない攻撃だった。仮にシーニャやミルシェを狙っていたとしても、傍にいるのでそれも意味を為さない。
「ん~何がしたかったのやら」
目的がおれの実力を確かめるだけならルティは何の為に連れて行かれたのか。
「アックさま! 誰か出てきましたわ!!」
それまで特に人の気配が感じられなかった前方から、ようやく村人が姿を現わした。肉屋と鍛冶屋、それに小さい農場しか無さそうだが、それなりに人はいたようだ。
「ウニャ、ドワーフとエルフがたくさん出て来たのだ」
「まぁ、ドワーフの村だしな。しかしエルフもいるとは驚きだ」
「アックさま……、見慣れた顔も混ざっていますわ」
「ん?」
目の前には人垣のような感じで、ドワーフとエルフがおれたちの前に立ち塞がっている。まるで、村に侵入して来た悪者として扱われている気がしてならない。
「ウニャ? ドワーフとエルフがいるのだ」
「……ルティとサンフィア!? 確かに見えるな」
サンフィアはやはり捕らわれていたのか?
「でも様子がおかしいですわね。どう見ても彼女たちを含めた村人は、あたくしたちを敵か何かと思っているのでは?」
これもおれを試しているとしたら本当に面倒な歓迎だ。しかもよりにもよってルティとサンフィアを使うとは。
「だから短剣を投げつけていたと?」
「ええ。幻と深い霧……恐らく、幻を見ているか見せられているかでは無いかと」
「――ということは、ルティたちが攻撃してくるってことか」
「恐らく……」
ルティやサンフィアとは何度か戦ったことがある。しかし今のルティは以前よりも相当厄介な強さになっているはず。おれはともかく、シーニャとミルシェでは少々分が悪い。
魔法を使って力任せに解決するわけにもいかないし、こうなると相手の出方次第になる。
「シーニャ、ミルシェ! おれがルティたちを――」
そう思っていたが、シーニャたちの周りに霧が出来ていておれとは隔たりが出来ていた。やはり個別に戦わせるつもりがあるらしい。
「ウニャ!! ドワーフはシーニャがやるのだ!」
「……あたしは頑固なエルフの相手をすることになりますわね」
「ああ、くそっ! やはりそうなるのか」