お久しぶりです。あの、リクエストでもなんでもないんですけど、息抜きに書いてたヤツを投稿します。めっちゃ短いです。バーの雰囲気大好き。
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irxs
桃青
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『Blue Moon』
「ありがとうございました」
丁寧な口調でそう言うと、お客さんが会釈をしながら店の扉を閉める。
俺は内藤ないこ。どこにでもいる、普通の社会人だ。そして俺の職場はここ、バーだ。何となくバーの雰囲気が好きで、ずっと前から自分のバーを持ってみたいと思っていた。そして、今から数年前についに自分のバーを開業することが出来た。初めの頃はお客さんも少なくて、ド深夜になっても1人も来ないことが多かった。だけど、最近では少しずつお客さんが増えてきて、有り難いことに常連さんもちらほらいる。まぁ大体は女性だが。
今日はもう遅いし、閉店まであと数分あるがお客さんも来ないだろうと思い、店を片そうとバックヤードに向かおうとすると、後ろからカランカラン、という音がした。
「いらっしゃいま…って…」
お客さんか、と思いいつもの笑顔で振り返ると、そこにいたのは見慣れた青髪だった。
「やっほ、ないこ」
「なんだ、まろか」
まろ、と呼んでいるこの男の名前は猫宮いふ。俺のバーの常連で、いつからかタメ口で話すくらいには仲良くなった。いつも仕事帰りなのか、スーツでバックを持った格好でやってくる。
「今日なんか遅くない?もう閉店時間だよー?」
カウンターに頬杖をつきながらそう言うと、まろはゆっくり席に腰を下ろした。
「…うん」
あれ、と心の中で呟く。いつもならゲラゲラ笑いながら誤魔化してくる癖に、今日は何だか静かだ。纏っている雰囲気も、重苦しい気がする。これはただ事じゃないと思い、まろがいつも頼むカクテルを用意する。俺が用意している最中もまろは喋ることはなく、ずっと一点を見つめていた。
出来たカクテルをまろの前に置くと、まろが俺の方を見る。
「なんかあったの」
何気ない感じでそう問いかけると、いきなりまろが勢いよく顔を伏せて泣き出した。
「ゔわぁぁぁぁあぁぁぁん!!!!!!」
「えっ…えちょ、落ち着いて」
「うぅぅぅ…ひぐっ、う、…」
まろがこうやって大号泣するのは、今回が3回目だ。1回目も2回目も、彼女に振られたのが理由で。と、いうことは、
「また振られたの?」
「…」
伏せられた顔がゆっくりと頷く。
「なんやねんっ!!!!毎回毎回!!!なんでおれだけこんな目に合わなあかんねん!!!!!ううっ…ぐすっ、」
「…本当に女運ないよね、まろ」
「うっさいわっ!!!そんなの俺がいちばんわかってんねん…」
「ははっ、そっか」
数ヶ月前、彼女ができたと嬉しそうに報告してきたまろが、今では俺の目の前で盛大に大号泣している。こんなのは、日常茶飯事みたいなものだった。まろが彼女を作ったら、「今度こそは絶対大丈夫だから!」と必ず俺に宣言してくる。まぁ、結果として毎回失敗に終わっているのだが。
「今回はなんで振られたの?」
「……私、より…仕事優先なのがやだって…」
「…そう」
まろはサラリーマンで、会社でもきっと優秀なのだろう。だからこそ、仕事は手を抜きたくないのかもしれない。まろは悪気はないのだろう。ただ、仕事も彼女も両立できるようにするのが苦手なだけで。毎回、まろが振られる時はその理由だ。なのに今でも一生懸命仕事に励んでいるまろは、相当真面目だ。そんなまろを理解してくれる彼女はこれから先現れるのか。
泣いているまろを見るのは嫌いだ。だけど、それと同時にモヤモヤした感情が生まれる。
「……ないこ、俺ってそんなにだめかな、」
「……そんなことない、俺は…」
そこまで言い、口を噤んだ。きょとんとした顔のまろは、俺の言葉を待ちながらカクテルを口にしている。
俺は__、
「……ないこ?」
「…そうだ、まろ、」
誤魔化すように、まろが飲んでいたカクテルを奪い取る。
「新しいカクテル作ってもいい?」
「えっ…ま、まぁ…」
「ちょっと待ってね」
バックヤードから必要なお酒とグラスを取り出し、それを持ってまろの席の前に戻る。
バイオレットリキュールとレモンジュースをシェイカーに注ぎ、よく振る。まろは上目遣いで俺を見つめたかと思えば、酔っているのかまた顔を伏せた。
できたカクテルをグラスに注ぐと、透き通った青色が反射する。
「…うわぁ、きれい…」
カクテルと同じ色の瞳が子供のように輝く。心做しか舌が回ってない気がする。
「これ、知ってる?」
「ううん」
「…ブルームーンっていうカクテルなんだけどさ」
「ブルームーン?…へぇ、のんでみる」
まろが一口口を付けると、嬉しそうに優しく目を細めた。
「おいしい…まろが好きな味だ…」
「ふ、ほんと?これレモンの味するからまろが好きだろうなって思って」
「うん…すき、」
「…」
こてん、と首を傾けてじっと見つめてくるので、思わず顔を逸らしてしまう。
『すき』
脳内でその言葉がリピートされる。
一度深呼吸をしてから、まろに問いかけた。
「…ねぇまろ、まろはどうして彼女が欲しいの?」
「えっ…」
俺を見つめる目が赤く腫れているのが痛々しい。
「…なんで、って…恋人いた方がたのしいし…」
「…そっか、」
まろに近づいて、優しく頬を撫でる。目に溜まった涙を拭うと、綺麗な青い瞳が揺れる。
「俺なら、まろのことずっと幸せにできるよ」
「え、…」
俺のバーの常連。そして、俺の想い人。
「まろのことを理解しようともしない女と付き合うくらいなら、俺を選んでよ」
まろが俺の店に来てくれるようになって、沢山話して、沢山笑った。正直、お客さんが来てくれない時はしんどかった。だけど、まろがいてくれたから、俺はこのバーを続けられた。
『ないこの作るお酒が一番おいしい』
顔を赤らめながら笑顔でそう言われた時程、胸が張り裂けそうになったことはない。
まろが彼女と別れた時、俺は泣くまろを見て嫌になるのと同時に、どす黒い独占欲が沸くようになった。まろを泣かせた相手に苛立ち、嫉妬し、安堵した。”俺のまろ”が、誰のものにもならない。その事に何より安心した。
いっそのこと、まろが俺だけを見てくれたらいいのに____。
「…え、…と…」
視線をしどろもどろにさせて戸惑う様子も、凄く愛おしい。
「俺は、まろのことを離さない。一生。」
少し冷えた綺麗な右手を両手で包み込む。
「…ずっと、まろのことが好き、」
「っ…」
耳元でそう囁くと、びくっとまろの体が反応する。元々赤かった耳が、さらに赤く染っていく。あぁ、本当に。本当に。
「……な、ないこは、おれがすきなの?」
「だから、そう言ってるでしょ」
「ほ、ほんとに?」
「うん」
「…ん、そぅ、なん……」
「…まろ?」
「……すぅ…すぅ…」
小さく寝息を立てるまろ。どんなタイミングで寝てんだよ、と言いたくなるが、可愛いから何でもいい。
「……好きって言ってくれるだけでいいのにな、」
さらさらの青い髪を撫でる。口元をもごもごさせて、幸せそうな顔で寝ている。
こいつは、俺が言う好きがどんな大きさなのか分かっているのだろうか。手を繋いで、ハグをして、一緒に夜景でキスをする。なんて妄想は綺麗事で、本当はまろをとろとろに甘やかして、誰からも見えないところを暴いて、隅々まで喰らいつきたい。
だけど、まろは、女の子が好きだ。こんな俺を、男としてなんて見てくれないだろう。
「また、彼女作んのかな」
だとしたら、次は俺が引き離して、まろを俺だけのものに、
なんて、そんなことする権利は俺にないな。
夜明けの光が、ブルームーンのカクテルを照らした。
ブルームーン⋯カクテル言葉『叶わない恋』
コメント
2件
新しい垢の方からコメント失礼します!!ブルームンの意味ってそういう意味だったんですね....😭なんか最後は恋が実ってハッピーエンドなのかな?って見てたらまさかのそういうエンドとは.....すっごく大好きな終わり方、話の内容でした...🫶これ見てから曲聴いたらもっと曲にハマっちゃいそうです...😇