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おと
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#もりょき
こんぶ@ミセス推し
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kurara
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若井との激しい衝突から数日後の、夏の終わりが近づくある日、僕らは三人で向日葵畑へと向かった。そこは幼い頃、涼ちゃんが初めて涙を見せて、僕の服の袖をぎゅっと引っ張った、あの思い出の場所だった。
数日前の若井の言葉を聞いてもう一度ちゃんとよく見ていれば、確かに涼ちゃんはたまに少し顔色が悪そうだったり、目を押さえて立ち止まっていることがあるのにようやく気づいた。これにすら気づけず、自分のことでいっぱいだった自分が恥ずかしく、情けなく思えた。
今日もだけど、涼ちゃんはここ最近顔色がよくないような気がする。それでも、もうすぐ僕が帰ってしまうからと少し無理して来てくれたようだ。
一面に広がる大輪のひまわり。けれど、時期が少し遅かったせいか、いくつかの花は頭を重そうに垂れ、終わりの季節を静かに告げていた。
「わぁ…すごい、綺麗…!」
涼ちゃんは目を輝かせながら、黄色い波の中をゆっくりと歩いていく。寂しい夏の終わりを忘却するように、ただ涼ちゃんが浮かべる笑顔を、この目に焼き付けたかった。
ふと、少し前を行く涼ちゃんが立ち止まった。焦点が合っていない。涼ちゃんはよくこうして視界が暗くなって見えなくなってしまうらしい。病院の薬も飲んでいるし、治療もしているがあまりよくなってはいない。
「…涼ちゃん、大丈夫? 背中さするね。」
「うん、ごめん元貴…」
申し訳なさそうに眉を八の字にする涼ちゃんの隣に腰を下ろし、背中にそっと手を添えた。
幼い頃、熱を出した時や転んで泣いた時、母さんがしてくれたように、優しく、円を描くように掌を動かす。でも、数十秒も経たないうちにやり場のない迷いで手が固まりそうになっていく。
掌の下から伝わってくる涼ちゃんの背骨は驚くほど細く、皮膚のすぐ下に骨の感触がダイレクトに触れる。少しでも力を入れすぎたら折れてしまいそうで、かといって弱すぎたら何の気休めにもならない気がする。
呼吸のタイミングに合わせて手を動かそうとしても、涼ちゃんの呼吸は浅く不規則で、うまくリズムが合わせられない。
ただ背中をさするだけ。
言葉にすればそれだけのことが、これほどまでに難しく、不器用な自分を突きつけてくるなんて思わなかった。
自分の掌にじっとりと汗が滲んでいくのが分かる。
「大丈夫だよ」と声をかけることすら、今の涼ちゃんにはストレスを与えてしまうのではないかと怖くなり、僕は口を結ぶことしかできなかった。
ただ隣にいて、背中をさする。
それだけで自分の中のエネルギーがどんどん削り取られていくような、出口のない緊張感に押し潰されそうになる。
若井は…これを7年間、やってきたんだな。
ふと陰で暗くなった視界に顔を上げると、若井がすぐ後ろに立っていた。そのまま僕とは反対の涼ちゃんの隣にしゃがんだ。
「…ちょっと交代。触るよ、涼ちゃん。」
そう言って僕の手に代わって自分の手を涼ちゃんの背中に添えた。その様子をじっと見ながら思った。
目が見えてないときの涼ちゃんに触れるのは、ちゃんと触るよと言ってから。そして視界が狭くなる分聴覚とかが過敏になっているから、過度に大きな声を出さない。安心できるようにどこかを優しく触っててあげる。全部、若井から教えてもらったことだ。
若井の掌が触れた瞬間、さっきまで強張っていた涼ちゃんの肩の力が、ふっと抜けていくのが目に見えて分かった。涼ちゃんが安堵したように小さく息を吐き、そのまま若井の手の温もりに預けるように目を閉じる。
特別な医療知識があるわけじゃない。魔法が使えるわけでもない。
ただ、こいつは、7年という途方もない日々の中で、涼ちゃんが何を苦しがり、どうすれば心が和らぐのかを、自分の皮膚と感覚に叩き込んできたのだ。
背中をさする動作に、若井が積み重ねてきた果てしない時間と覚悟の深さが詰まっている。
この前若井に率直に、すごいなと伝えたことがあった。ぽつりと漏れたその呟きに、若井はチラリと見てニヤっと笑っていた。
ーーすごくないよ。最初は俺も、力加減分かんなくて涼ちゃんに痛い痛いって怒られたりしたんだからさ。
…かっこつけやがって。
…きっと、僕はこの男には一生追い付けないし、彼らの七年間の代わりになるものなんて僕にはないし世界中どこを探したって見つからない。若井はほんとに凄いやつだ。ようやく、それが分かった。
しばらくすると少し症状が落ち着いてきたようで、涼ちゃんが立ち上がった。
「涼ちゃん、無理しないでね。歩ける?いける?」
「うん…ごめん、やっと収まってきた。いこいこ!早くしないと雨降ってきちゃいそう。」
そう言われて僕も若井も同時に空を見上げたが、そこには雲一つない美しい青空が広がっていた。若井と少し不思議そうな顔で目が合う。
…もしかしたら、もしかしたら今涼ちゃんは、七年前のあの夏にいるのかもしれない。どんよりとした雲の下、二人で雨に濡れながら東屋まで駆けた、あの夏に。
少し歩けば、あの日よりも少しだけ朽ちた木造の東屋が、変わらずそこにぽつりと佇んでいた。記憶よりも随分縮んでしまったような感覚がしながら、ゆっくりと三人でそこに腰掛けた。
穏やかな風が、汗ばんだ首元を撫でる。右に向けば、あの日と何も変わらず遠くを見つめる横顔があった。
「…雨、降ってる…。」
ぽつりと落ちた涼ちゃんの言葉が、まるで水滴が落ちたみたいに静かな東屋に響いた。勿論、雨なんて降ってない。涼ちゃんは今記憶を見ている。ゆっくりと記憶の中をまどろむうちに、たまたまあの日の記憶に出会い、その夢をみている。
ふと、右腕に軽い衝撃が走った。
涼ちゃんが、僕のシャツの袖を、小さく震える手でぎゅっと引っ張っていた。思わず、息が止まった。
あの日も、こうして怯えながら僕の服を掴んでいた。それなのに、僕はその手を守るどころか、自分の独りよがりな寂しさを満たすために恐怖とストレスを与えてしまった。
過去の記憶と目の前の現実が混ざり合い、そのまま冷たいナイフのように自分の胸を突き刺していく。
脳裏に、幼い頃のあの日の記憶が鮮明に蘇ってくる。あの体温も、雨が奪っていく冷たさも、涙の熱さも、胸の痛みも。
同時に、僕は自分の犯した罪の深さを、突きつけられているような気がした。
僕が先日の居間でやってしまったこと。自分の「覚えていてほしい」というエゴのために、この華奢な手を、この怯える心を、どれほど酷く追い詰めてしまったのか。
記憶を失うという命が脅かされるほどの絶望を、どれほど醜い手段と理由で刺激してしまったのか。
それは、必死に病気と向き合ってきた涼ちゃんと、それをずっと支えてきた若井と、もう涼ちゃんを泣かせないと誓ったはずの、幼い自分すら裏切る行為だった。
「…ごめん。」
言葉が漏れた。熱い涙がボロボロと溢れ出し、あの日のしたたる雨と混ざり合っていくように地面の土に吸い込まれていった。
「ごめんね、涼ちゃん…ごめん…。」
僕は立ち尽くしたまま、両手で顔を覆って泣いた。
声を殺そうとしても、胸の奥から押し寄せる激しい後悔と愛おしさが、涙となって止まらなかった。
「もとき…?」
袖を握る涼ちゃんの手が一瞬緩み、不安そうに僕を見上げてくる。
若井が少し離れた場所から、何も言わずに静かな眼差しで僕らを見守っていた。
「涼ちゃん、…忘れないから。これまでもこれからも、僕が、僕らが、全部覚えてるから。」
溢れる涙をぬぐわず、涼ちゃんの手を優しく包み込むように、もう一度握り返した。今度は思い出すことを強要する力じゃない。ただ、ここにいることを伝えるだけ。
やがて、涼ちゃんの唇がゆっくりと和らぎ、優しく微笑んだ。
「雨、あがったね。」
「うん、晴れた。」
僕の過ちは消えない。涼ちゃんの病気も治らない。
けれど、あの雨の中で、僕は過去の僕に、そして涼ちゃんに、若井に、もう一度ちゃんと誓うことができた。
この罪は一生背負って生きていく。
償いだなんておこがましい。それでも、若井がたった一人で背負ってきたものの重さを少しだけ知った今なら、逃げずに前を向ける気がした。
思い出してほしいんじゃない、ただ一緒に傍にいて、笑い合っていたい。それが、あの頃から変わらない、僕のちっぽけでけれど本物の誓いだった。
笑顔で空を見上げる涼ちゃんの横顔を、僕と若井は隣同士で並んで見つめていた。
夏休みは、もう終わる。
僕らが過ごしたこの特別な季節の終わりが、静かに近づいてきていた。
コメント
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更新ありがとうございます🥰✨ ❤️くんがそろそろ帰ってしまう……😭😭 💛ちゃんの七年前と同じ行動、そして❤️くんが謝るところ、泣きながら読んでいました😭 天気もロケーションも最高なのに、3人の間には暑さにも負けないくらいの切なさがあって、たまりません……🥹 幼いながらも必死に生きる3人が、可愛くて切なくて愛おしいです😭💛❤️💙 罪を背負って……。❤️くんの心に残る後悔も、💛ちゃんは覚えていないからこそ、幼いのにひとりでずっと背負い続けることになるのが苦しいです😭😭 続きも楽しみにしています🥰💕
「笹目雨のしるし」第17話、読み終わりました…。 向日葵畑での背中をさするシーン、本当に胸が詰まりました。元貴くんが手のひら越しに感じる涼ちゃんの細さと、それでも「どうすればいいかわからない」ともがくもどかしさがすごくリアルで。若井くんが7年間かけて培ってきた触れ方に「勝てない」って認める場面、切なくもあって、でもそこに成長を感じました。 最後、雨上がりの「晴れた」という言葉が、罪と誓いのあとにすごく沁みました。夏休みの終わりが近づく余韻も美しくて、もう少しだけこの世界に浸っていたい気持ちです。素敵なエピソードをありがとうございました🌻