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 エリーゼが目を覚ますと、またしてもベッドの上で裸で毛布に包まれていた。そして隣には同じく裸のアゼル。

 ついさっき夕方にも全く同じ状況だった気がするが、デジャヴだろうか……と視線を天井に向けると部屋は明るい。おそらく時刻は朝方だと思われる。

 目が覚めても内装や家具が黒を基調としているので闇の中にいるような感覚になる。そして昨晩、何があったのかを思い出し始めて危機感に震えだす。


(私、またアゼルにやられた……!)


 エリーゼに個室は与えられずに、アゼルの自室を一緒に使う事になった。当然ながらベッドは1つしかないので添い寝は必須。しかし溺愛モードのアゼルと一緒のベッドで、添い寝だけで済むはずがない。

 呪いのせいでアゼルの求愛を拒めないエリーゼは、されるがまま、愛でられるままに一夜を過ごしてしまった。


(なんとかして溺愛から逃げないと……)


 エリーゼは思案しながらも、未だに隣で幸せそうな寝顔で眠り続けているアゼルの頬に口付けを落とす。完全に思考と行動が噛み合っていない。



 食堂で朝食を済ませると、そのまま二人で会議室へと向かう。アゼルは国王としての仕事があろうと、エリーゼと離れずに連れ回す気であった。そしてエリーゼも常にアゼルの腕に抱きついて一緒に歩く。悔しいが体が自然とアゼルを求めてしまう。


「エリーゼ。会議には貴様にも参加してもらうからな」


 城の廊下を歩きながら話しかけてくるアゼルの顔を見ると、しっかりと国王の顔になっていて惚れ惚れしてしまう。溺愛デレデレの顔とは別人格だ。


「え? 議題は何なの?」

「世界征服のための軍事会議だ」


 淡々と恐ろしい事を口にするアゼルに背筋が凍る。彼は魔王であった前世の頃から何も変わらないが、エリーゼは同じ過ちを繰り返したくない。

 このままでは前世と同じく悪事に手を貸す事になってしまう。どうするべきかと考える間もなく会議室に辿り着いた。

 室内は情報漏洩を防ぐために窓のない密室で、壁も床も黒一色なので息が詰まりそうな圧迫感がある。

 黒光りしている長テーブルには軍服を着た軍人が5人着席している。その中心に座るリーダー格の軍人が立ち上がると、エリーゼの方を見て頭を下げる。


「初めまして、エリーゼ様。私はデヴィール国軍・軍隊長アーサーと申します」


 アーサーはアゼルと同い年の22歳。黒い軍服を着た彼は髪も瞳も濃いグレーで、漆黒のアゼルよりも色素が薄い。黒ければ良いというものではないが、さすがアゼルは魔国を象徴する漆黒の魔王だと妙に納得してしまう。

 エリーゼはテーブルの正面に立つと丁寧な一礼をして返す。純白のドレスを纏った金髪碧眼の聖女に軍人たちの目が釘付けになる。

 アーサーはもうエリーゼの事を知っているらしいが、ここは礼儀として初対面の挨拶をする。


「初めまして、エリーゼと申します。セイクリッド国フェーリス公爵家の長女ですが、今後はアゼルの妃としてよろしくお願いします」


 淑女らしい完璧な自己紹介だが、隣に立つアゼルが耳打ちしてきた。


「愛するアゼルの妃と言い直せ」

「あ、愛するアゼルの、妃として……」

「毎日、オレに抱かれたいって付け加えろ」

「毎日、アゼルに抱かれたくて、昨日も二回……って!! アゼルッ!!」


 誘導に気付いたエリーゼは隣のアゼルの頬を叩こうとしたが、そんな反応すらも完全に見抜かれている。華麗にビンタをかわしたアゼルは、背後に回ってエリーゼの両肩を掴んだ。


「まぁ落ち着け、エリーゼ。オレを愛してるなら座れ」

「あ、あんたなんか愛してないけど座るわよ……!」


 昨日も全く同じやり取りをした気がしたが、これもデジャヴだろうか。

 そうしてエリーゼとアゼルは、テーブルを挟んで5人の軍人たちと向かい合わせに座る。テーブルの中心には大きな紙の世界地図が広げられている。

 軍隊長であるアーサーの発言から軍事会議が始まる。


「さて、次の攻撃目標の国ですが……」

「セイクリッド国で決まりだ」


 間髪を容れずにアゼルが断言した。エリーゼはハッとして隣のアゼルの横顔を見る。昨日言っていた通り、エリーゼの実家があるセイクリッド国に攻撃目標を定めている。

 エリーゼとしては、いくら自分を虐待していた家族でも犠牲にする訳にはいかない。


(アゼルを止めないと! 何か……回避する方法はないの!?)


 今のエリーゼは自分の溺愛ルートよりも、アゼルの世界征服を回避する方法を懸命に模索している。

 しかし迷っている間にも、アゼルとアーサーは攻略方法を相談し始めている。


「アーサーよ。貴様ならどう攻める?」

「セイクリッド国の武力は大した事ありません。王城を攻めるなら騎兵数は……」

「あのっ! ちょっと待って、私にいい案があります!!」


 エリーゼが咄嗟に挙手して声を上げた。アゼルの赤い瞳と、軍人5人のダークな瞳が一斉にエリーゼに注目する。

 しかしエリーゼにはいい考えなどなく、とにかく会議を止めたかっただけ。アゼルはエリーゼの意気込みに感心して期待の目を向ける。


「我が愛する妻エリーゼよ。貴様もその気になったか。よし、いい案とやらを聞かせろ」

「一言多いのよ! しかも偉そうにムカつく!」

「本当は?」


(ぐぅぅ……誰が『好き』なんて言ってやるもんですか……!)


 とは思うものの、アゼルの愛の言葉と視線が熱くてゾクゾクとした快感に襲われている。溺愛の呪いは変な性癖ばかりを刺激する。

 エリーゼは何を言うべきかとテーブルの上の地図を見ながら視線を移動させていく。すると見覚えのある国名の文字が目に入った。


「ウィリアム国……」


 地図上でその国名を目にしたエリーゼは、自然とその名を読み上げていた。

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