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3話
ローレンは、少しずつ屋敷の人々と関わるようになった。
最初に声をかけてきたのは、厨房の年配の女性だった。
仕事を断っても責めない葛葉の態度を見て、安心したのだろう。
「無理しなくていいからね」
その一言に、ローレンは戸惑いながらも小さく礼を言った。
次第に、
庭師と並んで植物の世話をし、
書庫係と本の話をし、
使用人たちと同じ食卓につくようになった。
笑う回数が増えた。
自分から話すことも増えた。
それを、葛葉は少し離れた場所から見ていた。
――よかった。
最初は、ただそう思った。
ローレンが怯えず、人を避けず、
世界を拒まなくなっていくことが、純粋に嬉しかった。
だが、ある日ふと気づく。
ローレンが笑いかける相手が、
自分だけではないことに。
庭で誰かと楽しそうに話す姿。
自分には見せなかった、柔らかい表情。
胸の奥が、わずかに軋んだ。
(……なぜだ)
葛葉は理由を探し、否定しようとした。
守っているだけだ。
安心している証拠だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
けれど、ローレンが他の誰かに頼るたび、
自分の言葉より他人の助言を選ぶたび、
その軋みは確かに強くなっていった。
一方ローレンは、気づいていなかった。
拒んでも受け入れられる場所で、
自分の居場所が一つではないことが、
こんなにも心を軽くするとは思っていなかった。
「今日は庭師さんに教わったんです」
そう話すローレンに、葛葉はうなずく。
「そうか」
声は平静だった。
だが指先が、無意識に強く握られていた。
夜、葛葉は一人で考える。
――俺は、何を失うのが怖い?
ローレンの自由を奪うつもりはない。
縛りたくない。
それは最初から決めていた。
それでも。
(俺だけの居場所でいてほしい、なんて)
その感情に、葛葉自身が戸惑った。
数日後、ローレンが言った。
「ここ、好きです。
……皆、優しい」
その言葉に、葛葉は微笑んだ。
本心だった。
だが同時に、胸の奥に小さな痛みが走る。
(俺だけじゃないんだな)
それは独占欲ではなく、
手放す覚悟が追いついていない心だった。
葛葉はまだ、その感情に名前をつけられない。
ただ、ローレンの背中を見つめながら、
自分がどこまで許せるのかを測っていた。
守ることと、譲ること。
愛する前に、越えなければならない一線があることを――
まだ知らないまま。
ご愛読ありがとうございます♪
続きます。