テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
128
待ち合わせは、駅前だった。
夕方。
人通りが多くて、少しざわざわしてる時間。
「……来るかな」
キヨがぽつりと呟く。
「来るでしょ」
うっしーは壁にもたれて、周りを軽く見ながら答える。
「向こうから言ってきたんだし」
「……」
キヨはスマホを握ったまま、少しだけ俯く。
心臓がうるさい。
会いたくないのに、逃げたくもない。
(……なんで来るって言ったんだろ)
ぐるぐる考えてると、
「キヨ」
「……なに」
「顔、やばい」
「は?」
「緊張しすぎ」
「……うるさい」
でも否定できない。
そんな様子を見て、うっしーが少しだけ近づく。
「無理そうなら、帰っていいからな」
「……」
その言葉に、少しだけ顔を上げる。
「途中でも、俺連れて帰るし」
「……なにそれ」
「そのまんま」
軽く笑う。
その顔を見て、
(……ああ)
少しだけ、息がしやすくなる。
「……ありがと」
小さく言うと、
「ん」
それだけ返ってきた。
⸻
「——キヨ」
その声で、空気が変わった。
「……っ」
体が強張る。
聞き慣れた声。
振り向かなくてもわかる。
でも、ゆっくり振り返る。
そこにいたのは——元カレ。
「……久しぶり」
「……」
キヨは何も言えない。
顔を見た瞬間、いろんな感情が一気に押し寄せてくる。
怒り、不安、少しの安心、そして——
「……元気そうじゃん」
軽い調子で言われる。
その言い方が、妙に引っかかった。
(……なにそれ)
「……話ってなに」
できるだけ平静を装って聞く。
「いや、ちょっとさ」
元カレは視線を少し逸らして、
「昨日のこと、言い過ぎたかなって」
「……」
「急にあんなこと言われて、びっくりしたし」
「……そっか」
他人事みたいな言い方。
胸の奥が、じわっと冷たくなる。
「で、さ」
元カレが、少しだけ近づく。
「やっぱ一回ちゃんと話そうと思って」
その距離に、キヨの体が無意識に引く。
その瞬間。
「それ以上近づくな」
低い声が、横から入った。
「……あ?」
元カレが、初めてうっしーの存在に気づく。
「誰?」
「関係ないだろ」
うっしーが、キヨの少し前に立つ。
自然な動きで、間に入る形。
「いや関係あるだろ」
元カレが眉をひそめる。
「キヨの何?」
「……」
少しの間。
それから、うっしーはあっさり言った。
「今、一番近くにいるやつ」
「……は?」
元カレの顔が歪む。
「なにそれ」
「そのまんま」
淡々と返す。
「お前こそ何」
少しだけ圧のある声。
「キヨ捨てたやつだろ」
「……っ」
空気がピリつく。
「捨てたっていうか……」
元カレが言葉を濁す。
「状況がさ、普通じゃなかったし」
「は?」
うっしーの声が、少し低くなる。
「普通じゃなかったら捨てていいわけ?」
「いや、そういうわけじゃ——」
「じゃあなんで一人にしたの」
言葉を被せる。
逃がさない言い方。
「……」
元カレが黙る。
その沈黙が、答えだった。
「……もういい」
キヨが、小さく言う。
二人の間に入るように、一歩出る。
「キヨ」
うっしーが呼ぶ。
「大丈夫」
そう言いながらも、声は少し震えてた。
でも、ちゃんと前を見る。
「……話って、それだけ?」
元カレを見る。
「いや……その」
少し迷ってから、
「もしさ、産むとかなら……」
「……」
空気が、止まる。
「ちゃんと考えるし」
「は?」
思わず声が出た。
「責任、とかもあるし」
「……なにそれ」
さっきまでと、全然違うこと言ってる。
「昨日と違くない?」
「いや、だから考え直して——」
「ふざけんなよ」
声が、少しだけ強くなる。
「昨日は無理って言ったじゃん」
「それは……急だったし」
「今も急だろ」
「……」
言葉に詰まる元カレ。
その姿を見て、はっきりわかった。
(……ああ)
こいつ、何も変わってない。
「結局さ」
キヨが、静かに言う。
「自分が悪者になりたくないだけじゃん」
「……っ」
図星だったのか、元カレの顔が歪む。
「責任とか言ってるけどさ」
「うるせえよ」
小さく、苛立った声。
「じゃあどうすりゃよかったんだよ」
開き直るように言う。
「男で妊娠とか、意味わかんねえし」
「……」
その一言で。
何かが、完全に切れた。
「……帰る」
キヨが、ぽつりと言う。
「は?」
「もういい」
振り返る。
そのまま歩き出そうとした瞬間、
「待てよ」
腕を掴まれる。
「……っ」
体が強張る。
でも次の瞬間、
「触んな」
うっしーが、その手を払いのけた。
「……なんだよお前」
「だから関係ないって言ってんだろ」
一歩前に出る。
完全に、キヨを庇う位置。
「キヨが帰るって言ってんだから終わり」
「……っ」
元カレが舌打ちする。
でも、それ以上は何も言えなかった。
⸻
少し離れた場所まで歩いて。
「……はぁ」
キヨが、大きく息を吐く。
足が少し震えてる。
「大丈夫?」
「……わかんない」
正直な答え。
でも。
「……でも、すっきりした」
ぽつりと言う。
「そっか」
「……ほんと、最悪だった」
少し笑う。
涙は出てない。
それが、逆に楽だった。
「……うっしー」
「ん?」
「来てくれてありがと」
「当たり前」
即答だった。
「一人で行かせるわけないじゃん」
「……」
その言葉に、胸がじわっと熱くなる。
「……ねえ」
「なに」
少しだけ間を置いて、
「……帰っていい?」
「いいよ」
「……一緒に」
「うん」
迷いなく頷く。
⸻
帰り道。
キヨは、少しだけうっしーの袖を掴んだ。
今度は、隠さずに。
それを、うっしーは何も言わず受け入れる。
⸻
「……あのさ」
家に向かいながら、キヨが言う。
「ん?」
「俺さ」
少しだけ言葉を探して、
「……多分、もうあいつ無理」
「うん」
「でも……」
「うん」
「一人も無理」
正直すぎる言葉。
でも、もう隠せなかった。
「……」
少しの沈黙のあと、
「じゃあさ」
うっしーが、軽く言う。
「一人じゃない状態にしとけばいいじゃん」
「……は?」
「簡単でしょ」
「いや簡単じゃねえよ」
「じゃあ難しく考えすぎ」
少し笑う。
「……」
キヨは、少しだけ俯いて。
「……一緒にいていいの」
小さく聞く。
その問いに、
「いいよ」
即答だった。
「むしろ、いて」
その一言で。
キヨの中の何かが、完全にほどけた。
⸻
その夜。
キヨは初めて、自分からうっしーの隣に寄った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!