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待ち合わせは、駅前だった。
夕方。
人通りが多くて、少しざわざわしてる時間。
「……来るかな」
キヨがぽつりと呟く。
「来るでしょ」
うっしーは壁にもたれて、周りを軽く見ながら答える。
「向こうから言ってきたんだし」
「……」
キヨはスマホを握ったまま、少しだけ俯く。
心臓がうるさい。
会いたくないのに、逃げたくもない。
(……なんで来るって言ったんだろ)
ぐるぐる考えてると、
「キヨ」
「……なに」
「顔、やばい」
「は?」
「緊張しすぎ」
「……うるさい」
でも否定できない。
そんな様子を見て、うっしーが少しだけ近づく。
「無理そうなら、帰っていいからな」
「……」
その言葉に、少しだけ顔を上げる。
「途中でも、俺連れて帰るし」
「……なにそれ」
「そのまんま」
軽く笑う。
その顔を見て、
(……ああ)
少しだけ、息がしやすくなる。
「……ありがと」
小さく言うと、
「ん」
それだけ返ってきた。
⸻
「——キヨ」
その声で、空気が変わった。
「……っ」
体が強張る。
聞き慣れた声。
振り向かなくてもわかる。
でも、ゆっくり振り返る。
そこにいたのは——元カレ。
「……久しぶり」
「……」
キヨは何も言えない。
顔を見た瞬間、いろんな感情が一気に押し寄せてくる。
怒り、不安、少しの安心、そして——
「……元気そうじゃん」
軽い調子で言われる。
その言い方が、妙に引っかかった。
(……なにそれ)
「……話ってなに」
できるだけ平静を装って聞く。
「いや、ちょっとさ」
元カレは視線を少し逸らして、
「昨日のこと、言い過ぎたかなって」
「……」
「急にあんなこと言われて、びっくりしたし」
「……そっか」
他人事みたいな言い方。
胸の奥が、じわっと冷たくなる。
「で、さ」
元カレが、少しだけ近づく。
「やっぱ一回ちゃんと話そうと思って」
その距離に、キヨの体が無意識に引く。
その瞬間。
「それ以上近づくな」
低い声が、横から入った。
「……あ?」
元カレが、初めてうっしーの存在に気づく。
「誰?」
「関係ないだろ」
うっしーが、キヨの少し前に立つ。
自然な動きで、間に入る形。
「いや関係あるだろ」
元カレが眉をひそめる。
「キヨの何?」
「……」
少しの間。
それから、うっしーはあっさり言った。
「今、一番近くにいるやつ」
「……は?」
元カレの顔が歪む。
「なにそれ」
「そのまんま」
淡々と返す。
「お前こそ何」
少しだけ圧のある声。
「キヨ捨てたやつだろ」
「……っ」
空気がピリつく。
「捨てたっていうか……」
元カレが言葉を濁す。
「状況がさ、普通じゃなかったし」
「は?」
うっしーの声が、少し低くなる。
「普通じゃなかったら捨てていいわけ?」
「いや、そういうわけじゃ——」
「じゃあなんで一人にしたの」
言葉を被せる。
逃がさない言い方。
「……」
元カレが黙る。
その沈黙が、答えだった。
「……もういい」
キヨが、小さく言う。
二人の間に入るように、一歩出る。
「キヨ」
うっしーが呼ぶ。
「大丈夫」
そう言いながらも、声は少し震えてた。
でも、ちゃんと前を見る。
「……話って、それだけ?」
元カレを見る。
「いや……その」
少し迷ってから、
「もしさ、産むとかなら……」
「……」
空気が、止まる。
「ちゃんと考えるし」
「は?」
思わず声が出た。
「責任、とかもあるし」
「……なにそれ」
さっきまでと、全然違うこと言ってる。
「昨日と違くない?」
「いや、だから考え直して——」
「ふざけんなよ」
声が、少しだけ強くなる。
「昨日は無理って言ったじゃん」
「それは……急だったし」
「今も急だろ」
「……」
言葉に詰まる元カレ。
その姿を見て、はっきりわかった。
(……ああ)
こいつ、何も変わってない。
「結局さ」
キヨが、静かに言う。
「自分が悪者になりたくないだけじゃん」
「……っ」
図星だったのか、元カレの顔が歪む。
「責任とか言ってるけどさ」
「うるせえよ」
小さく、苛立った声。
「じゃあどうすりゃよかったんだよ」
開き直るように言う。
「男で妊娠とか、意味わかんねえし」
「……」
その一言で。
何かが、完全に切れた。
「……帰る」
キヨが、ぽつりと言う。
「は?」
「もういい」
振り返る。
そのまま歩き出そうとした瞬間、
「待てよ」
腕を掴まれる。
「……っ」
体が強張る。
でも次の瞬間、
「触んな」
うっしーが、その手を払いのけた。
「……なんだよお前」
「だから関係ないって言ってんだろ」
一歩前に出る。
完全に、キヨを庇う位置。
「キヨが帰るって言ってんだから終わり」
「……っ」
元カレが舌打ちする。
でも、それ以上は何も言えなかった。
⸻
少し離れた場所まで歩いて。
「……はぁ」
キヨが、大きく息を吐く。
足が少し震えてる。
「大丈夫?」
「……わかんない」
正直な答え。
でも。
「……でも、すっきりした」
ぽつりと言う。
「そっか」
「……ほんと、最悪だった」
少し笑う。
涙は出てない。
それが、逆に楽だった。
「……うっしー」
「ん?」
「来てくれてありがと」
「当たり前」
即答だった。
「一人で行かせるわけないじゃん」
「……」
その言葉に、胸がじわっと熱くなる。
「……ねえ」
「なに」
少しだけ間を置いて、
「……帰っていい?」
「いいよ」
「……一緒に」
「うん」
迷いなく頷く。
⸻
帰り道。
キヨは、少しだけうっしーの袖を掴んだ。
今度は、隠さずに。
それを、うっしーは何も言わず受け入れる。
⸻
「……あのさ」
家に向かいながら、キヨが言う。
「ん?」
「俺さ」
少しだけ言葉を探して、
「……多分、もうあいつ無理」
「うん」
「でも……」
「うん」
「一人も無理」
正直すぎる言葉。
でも、もう隠せなかった。
「……」
少しの沈黙のあと、
「じゃあさ」
うっしーが、軽く言う。
「一人じゃない状態にしとけばいいじゃん」
「……は?」
「簡単でしょ」
「いや簡単じゃねえよ」
「じゃあ難しく考えすぎ」
少し笑う。
「……」
キヨは、少しだけ俯いて。
「……一緒にいていいの」
小さく聞く。
その問いに、
「いいよ」
即答だった。
「むしろ、いて」
その一言で。
キヨの中の何かが、完全にほどけた。
⸻
その夜。
キヨは初めて、自分からうっしーの隣に寄った。