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「俺は阿部ちゃんの味方だからね。」
そう言うと、阿部ちゃんは優しく微笑んでくれた。
「ありがと、めめ。」
どうか優しいあなたが傷つくことがありませんように
俺たちは大所帯なので宛がわれる楽屋はいつも広い場所。各々準備したりスマホみたりと自由にしていると、端っこの方で佐久間くんと阿部ちゃんがソファーに座って何かを話していた。
「え?マジ?」
何の話をしているのか気になって二人に近寄る。
「なんの話してるの?」
「あ、めめ…。」
佐久間君がちらりと阿部ちゃんの方を見る。阿部ちゃんは笑って
「いいよ、メンバー内なら別に。」
佐久間君はほっとし、
「阿部ちゃん好きな人がいるんだって。」
「え…。」
”ドン”と心臓にすごい重低音を食らったような衝撃があった。
「それであの手この手でアピールしてるらしいんだけど、相手は全く気付いてないらしく。」
「へぇー….。誰?俺らが知ってる人?」
阿部ちゃんは人差し指を口に当てた。
「それは流石に秘密。」
秘密ってことは面識はなくても俺らが知ってる人ってことだろう。阿部ちゃんがあの手この手でアピールしてるってことはいろんな角度、手法を試してるはず。そして相手はそれに気づかない程の天然…またはおバカさん。そんな個性的な女性、阿部ちゃんの周りにいたっけ?
「あはは、めめが阿部ちゃんの相手推理してる。」
「いくらでも推理してくれて構わないよ。絶対当てられないから。」
自信満々に言う阿部ちゃん。
「俺らと一緒の時に会ったことある?」
「うん。」
「同業者?」
「まぁ広い意味で言ったら同業者かな?」
「年齢は下?」
「どうだろうなぁ?」
にこにこ笑ってかわされた。
「じゃあ今週仕事で会う可能性ある?」
今週は色んな音楽番組の収録がある。同業ということならアイドルだろうから、それらの番組収録で会う可能性を考えた。
「多分ね。」
あれ?結構絞り込めない?出演アイドルがどれくらいいるかは分からないけど、阿部ちゃんと関係ある人探せばいいのでは…?
「阿部ちゃん、一週間頂戴。絶対当てるから。」
そう提案すると
「なんでそこまでムキになってんの?」
佐久間君の頭上に?が浮かんでいるのが見えた。そんなの俺も分かんないよ。
「最近仕事ばっかで現場と家の往復だけだったし、なんか面白い事ないかなって。」
咄嗟に思いついた理由を言う。仕事が面白くないわけじゃないってことは二人も分かってるようで
「確かに!ちょっとした息抜き欲しいよね!ってことで俺も参加する!!」
佐久間君の大声で他のメンバーがなんだなんだと寄って来た。
「阿部ちゃんの好きな人を一週間で当てるゲーム開催しまーす!」
佐久間君が他のメンバーにさっきのやり取りを説明する。
「え?!阿部って好きな人いたんだ。ってか、人好きになるんだ?」
手を口に当てて驚いたジェスチャーをする岩本君。
「俺はサイボーグか何かなの?」
「で、優勝賞品はなんなん?」
康二の言葉に、皆は阿部ちゃんを見る。
「俺が出すの?!」
「だって阿部ちゃんの好きな人を当てるゲームなんやろ?」
阿部ちゃんは少し考え
「分かった。そこまで高いものは用意できないけど、そこそこのやつ用意しとくよ。」
「やる気出てきた☆」
「ヒントはないの?」
舘さんが聞くと、
「ん~そうだなぁ…。」
多分相手のことを考えているんだろう。フッっと阿部ちゃんは笑った。
「向日葵みたいな人、かな。」
どよめきが起きた。今までお遊びだと思ってたメンバーも阿部ちゃんがガチ恋中だと悟ったんだろう。
「探すのはいいけど、相手に迷惑がかかるから聞き込みとかそういうのはナシね。あくまでメンバー内だけってことで。」
阿部ちゃんの言葉に、皆は頷いた。
なんかオオゴトになってしまったな…。
「ごめんね、阿部ちゃん。」
謝ると、阿部ちゃんはいつものように優しく微笑んでくれた。
「いいよ、みんなが楽しいなら。」
別に阿部ちゃんを恋愛対象として見ているわけじゃない
ただ、優しい阿部ちゃんを不幸にするような相手なら
俺が全力で止めようと思った
かくして一週間限定イベントが始まったわけだが
「阿部ちゃんって好きな人がいるってマジ?」
たまたまバラエティで一緒になったストの田中君が待機中に小声で話しかけてきた。
「その話どこで…。」
「きょもがさっくんに聞いたって。」
あの人…メンバー内って言ったじゃん…。
「その話他のとこでは…。」
俺の言葉に田中君は察してくれたようで
「あーやっぱそんな感じ?大丈夫。うちのチーム内だけだから。」
「ありがと。」
「相手知らないんだよね?」
「うん。」
「そっか。分かったらこそっと教えて。」
「あはは、わかった。」
と言っても、三日経っても全く情報がつかめない。
今週はほぼチームで動くため、遭遇のチャンスはあると思うけど。
次の現場へ移動の為、準備できたメンバーから車へ向かっていると、先に楽屋を出た阿部ちゃんが少し前を歩いていた。
「亮平君!」
阿部ちゃんに走り寄るのは、今日の音楽番組で一緒になったMGAの藤澤さん。
「涼架君、お疲れ様。」
優しく笑う阿部ちゃんに、
「会えてよかった!」
ぱぁっとまるで向日葵のように藤澤さんは笑った。
ん?
「亮平君と最近全然会えないんだもん。」
「お互い忙しいからね、ありがたいことに。」
「本当、ありがたいんだけど…。」
「この前美味しいご飯屋さん教えてもらったんだ。今度一緒にどう?」
「ぜひぜひ♪」
そこへ、藤澤さんの少し後ろを歩いていたMGAのマネージャーと思われる人物が
「藤澤さん、次が…。」
「はーい。じゃあね、亮平君。後でラインするね。お疲れ様!」
「うん。お疲れ様。」
マネージャーと一緒に去っていく藤澤さんに手を振る阿部ちゃん。
その顔には愛しさと切なさがあり、心強さはなかった。
「阿部ちゃん。」
俺に気づいた阿部ちゃんは立ち止まり、俺と並んで歩き出す。
「めめだけ?他は?」
「まだ。それよりさ、阿部ちゃん。」
「ん?」
「向日葵の君って、もしかして藤澤さん?」
こそっと聞いてみると、阿部ちゃんは驚いた表情をした後、楽しそうに笑た。
「めめすごいね。」
当たった…んだよね?
え?同業=アイドルじゃなかったの?あ、同業=音楽関係ってこと?
(藤澤さんかぁ…。)
そりゃ当てられない自信があるわけだ。
阿部ちゃんと二人先に車に着き、他のメンバーを待っていると
「めめ。これ景品。」
渡されたのは、いつかのライブグッズである阿部ちゃんのアクスタ。
「ありがとう?」
「なんで疑問形なんだよ。よろこべよ。」
「うれしー…(棒)」
「(笑)」
そこへ佐久間君が来た。
「あれ?めめ、なんで阿部ちゃんのアクスタ持ってんの?」
「貰った。」
「貰った?あ!もしかして阿部ちゃんの好きな人当てたの?!」
ちらりと阿部ちゃんを見ると、我関せずといった風にイヤホンを耳に付けて窓の外を見始めた。
「俺。」
「え?!」
「って言ったら外れたから残念賞貰った。」
「あはははは。悲しっ(笑)」
言わない方がいいとの判断は多分間違っていない。
一週間限定ゲームは一週間もしないうちにメンバーからは忘れ去られ、普段と変わらない忙しくて慌ただしい日々が戻って来た。
俺はというと、阿部ちゃんの想い人を知ってしまったからか、藤澤さんのことが気になり色々と調べてみた。音楽専門の学校行ってたり、フルートで全国大会行ってたり、MGAに入ったのは大森さんの一目惚れに近い状況からだったり、キーボードなんていらないとチームのファンやスタッフにまで言われたことがあったりと、なかなかドラマを持った人の様だ。一回休止した後からはイメージ戦略なのか中性的なヴィジュアルが多くなってきた。というか、元々中性的な顔立ちをしているんだろう。長い髪がとても似合っている。
公式の動画チャンネルでも、明るく楽しそうに話し、思いっきり笑うその様子は阿部ちゃんが言うように向日葵みたいだった。
(この笑顔に阿部ちゃんは惚れたのか…。)
楽屋待機中もなんとなくスマホでMGAの動画を見るようになった俺に、阿部ちゃんが
「めめ、Mrs.さん見てんの?」
「うん、まぁね。」
「ふ~ん。」
阿部ちゃんの意味深な笑みに俺は思わず視線を逸らす。
「えっと、Mrs.さんのSNS戦略すごいなって思って。」
「確かにね。うちの事務所も適応し始めたけど、それより先を行ってる人たちだから。事務所の主軸ジャンルが違うから同じようにとはいかないだろうけど、参考になるよね。」
「やっぱりこれも大森さんの戦略?」
「ブレーンやマーケティング部門は流石にいるだろうけど、主に大森さんが指揮してるらしいよ。」
そんなすごい人が藤澤さんの近くにいるのか…。
「めめ。」
「ん?」
「惚れた?」
危なく大きな声が出そうになった。楽屋内をそっと見渡すと、みんなそれぞれ何かしらしており、俺と阿部ちゃんが小声で話してるのを気にしてる人はいなかった。
「ごめん、そういうつもりじゃないんだよ。この前のが気になって見てただけ。」
「ふふ。めめがライバルになったら俺絶対勝てないかも。」
「そんなわけないでしょ。だって。」
あの時藤澤さん、阿部ちゃん見つけてすごい嬉しそうにしてたじゃん。
「”だって”?」
言わない方がよさそうだな。
「俺友達でさえないもん。」
「本気なら紹介するよ?」
たまに思う
阿部ちゃんはその優しさで
いつか自分を苦しめてしまうんじゃないかって
「いいです。本気でも何でもないから。」
どこかほっとした表情をした阿部ちゃん。
「本当に好きなんだね。」
思わず俺が言うと、阿部ちゃんは顔を真っ赤にしてしまった。
年上のくせに、そういうところは可愛いんだよね。
「俺は阿部ちゃんの味方だからね。」
そう言うと、阿部ちゃんは優しく微笑んでくれた。
「ありがと、めめ。」
どうか優しいあなたが傷つくことがありませんように
コメント
4件
🖤さん視点の💚💛、新しくて、ワクワクします! いつも素敵なお話、ありがとうございます✨
新連載✨ 頑張ってください! 阿部ちゃんとりょつのペア好きなんすよぉー だからありがてぇ