テラーノベル
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阿部ちゃんが藤澤さんを好きと知ってしばらくした頃、阿部ちゃんが引っ越すという話を佐久間君から聞いた。
「阿部ちゃんセキュリティー鬼つよなマンション借りたらしいよ。」
「鬼つよ?やらかしでもいたの?」
「セカンドハウス的なつもりで契約だけ先にしたって。引っ越しはまだ先らしい。」
「へぇー。」
何故か藤澤さんの顔が思い浮かんだ。
阿部ちゃんと二人になったタイミングで聞いてみた。
「阿部ちゃん、セカンドハウス用にマンション借りたそうだね。」
「まぁね。逢瀬用のつもりだったけど、うまくいけば同棲できるかも。」
同棲?
「え、同棲?!」
「お互い忙しいじゃん?少しでも一緒に居たいし。」
「ちょっと待って!え?藤澤さんと?」
「そう。晴れて両想い。」
阿部ちゃんは指ハートを作った。
「おめでとう!」
「ありがとう♪」
「馴れ初め聞いていい?」
「詳しくは言えないけど、涼架君がとある病気になって、倒れそうなところを家まで運んだんだ。それで眠った涼架君が寝言で告白してくれた。」
「マジか。」
まぁ藤澤さんも阿部ちゃんのことが好きだってのは一週間限定ゲームの時になんとなく気づいてたけど。
「勝確だったから次の日告白して晴れてお付き合いスタートです。」
「よかったね!阿部ちゃん。」
「うん。めめもありがとね、涼架君のこと黙っててくれて。」
「まぁ相手が相手だしね…。ところで藤澤さんの病気って大丈夫なの?」
「あぁ、それはもう完治してるから問題ない。でも、プライバシーとかあるから一応ね。」
「そっか。」
「付き合い始め記念にピアス送ったんだ。見て。」
阿部ちゃんのスマホ画面を見ると、緑の石が付いた金色のロングピアスだった。
「…モロ阿部ちゃんの色だし好みのピアスだね。」
「分かる?」
「好きなタイプの子の質問の時、揺れるタイプのイヤリングが好きって言ってたじゃん。」
「まぁね。」
ふと、写真に写る緑色の石が異様にきらきらしているのが気になった。
「…ねぇ、これエメラルドじゃないよね?」
「エメラルドだよ?」
「ふぁ?!」
何てことなさそうに言う阿部ちゃん。
本物のエメラルドで尚且つこの大きさなら、多分金色の部分は本物の金だろう。それで両耳ってことは、軽く20万くらいはするはずだ。それを付き合って一か月とか半年記念じゃなくて、付き合い始め記念って…。
「…阿部ちゃんって重かったんだ?」
「自覚はある。俺の色付けてもらいたいってのもあったけど、エメラルドは5月の誕生日石でもあるから。」
「藤澤さん誕生日5月だったの?」
「うん。」
嬉しそうに頷く阿部ちゃん。阿部ちゃんが幸せならいっか。
(でも、藤澤さんは大丈夫かな…?)
愛重めな阿部ちゃんに引いたりしてないよね…?
Mrs.さんと番組で一緒になると、阿部ちゃんが先に藤澤さんを独占するから他のメンバーが話す機会は全くない。けど何の因果かいたずらか、今日は阿部ちゃん前の仕事が押して現場入りが遅れていた。これは藤澤さんと話すチャンスなのでは?
(えっと、Mrs.さんの楽屋は…。)
もし藤澤さんに会えたら阿部ちゃんのことを聞いてみたいと思った。単なる興味本位だが、藤澤さんも阿部ちゃんと同じ熱量を持っているのかどうか。
(あ、藤澤さんだ。)
Mrs.さんの楽屋に行く途中、自販機で飲み物買っている藤澤さんがいた。天が味方をしてくれたようだ。
「藤澤さん、お疲れさまです。」
「あ、目黒さん。お疲れ様です。」
阿部ちゃんに向ける向日葵のような笑顔ではなく、ふわりとした笑顔であいさつをしてくれた。
「阿部ちゃん、前の仕事が押してまだ来てないんですよ。」
「そうなんですか。亮平君忙しいんですね。」
「後で藤澤さん所に行くと思いますんで。」
「僕のところにですか?」
「えっと、阿部ちゃんからお二人のことは…。」
「え…。」
途端に真っ赤になる藤澤さん。この前の阿部ちゃんの赤面もそうだけど、年上のこういう表情って可愛いと思ってしまう。
「大丈夫です。うちでは俺しか知らないから。」
「そ、そうなんですね…。」
「もし阿部ちゃんのことで聞きたいことがあったら俺に聞いてください。サプライズでも何でも協力しますよ。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「敬語なしでいいですよ。俺四つ下なんで。」
「ありがとう。でも四つ下に見えないよね。しっかりしてるし、身長めちゃ高いし。」
身長は関係ないんじゃ…と思うけど、
「僕も180は欲しかったなぁ…。」
「大森さん曰く、藤澤さんと若井さんは210cmあるんですよね?」
キョトンとした後、藤澤さんはアハハと笑った。それこそ、向日葵のように
「そうだね。元貴曰く、僕210㎝あるんだっけ?」
その時
「楽しそうだね。」
振りむくと笑顔の阿部ちゃんがいた。
(やべっ。ガチギレモードだ…。)
普段怒らない人が怒ると怖いというけど、阿部ちゃんの場合は怒りの感情を表さずひたすら笑顔になるから余計に怖い。うちのチーム内では阿部ちゃんの怒りのデススマイルが出たら早急に原因究明して解決を試みるのが暗黙のルール。2,3年に一回あるかないかだけど、大体は飲んだ後のペットボトルを片付けないふっかさんと康二が原因だったりする。
今回の原因は多分、てか間違いなく俺だよな…。土下座で済むかな…などと考えていると。
「亮平君!」
嬉しそうに名前を呼ぶ藤澤さん。その瞬間、阿部ちゃんから怒りの霊圧が消えた。あの阿部ちゃんのガチギレモードを一瞬で通常モードにするなんて…。
(藤澤さんマジ女神!!)
心の中で手を合わせた。
「涼架君、お疲れ様。」
「お疲れ様!前の仕事押してたんだって?」
「ちょっとね。」
「会えないからガッカリしてたら、目黒君が教えてくれたんだ。お仕事ならしょうがないよね。」
「あー…、そうだね。」
ばつが悪そうにちらりと俺を見る阿部ちゃん。
「あ、俺先に楽屋戻ってるね。」
二人を置いてその場を後にした。
楽屋に戻る途中
「目黒さん、お疲れ様です。」
Mrs.の立役者大森さんが笑顔で近づいてきた。
「あ、大森さん。お疲れ様です。」
「どうでした?」
「え?」
「うちの藤澤。」
「え…。」
どっかで見てた?気づかなかった…。
「俺も心配したんですよね。藤澤の相手が阿部さんって。」
知ってるんだ。まぁMrs.さんって仲いいで有名だもんな。
「お相手は今を時めくアイドルでしょ?お互いの想いが本物であることは疑いようがないですが、抱えてるものが大きすぎる。」
「そうですね。判断せざるを得ない場面がいつかくるかもしれませんね。」
もしかしたら別れる時が来るかもしれない。本当に想い合ってたとしても、お互いの立場や状況を考えて選ばなければならないこともあるだろう。
「そう。その可能性があるのは俺も否定しません。ただ、無意味にうちの藤澤を傷つけるようなことをしたら…。」
大森さんはにっこりと笑った。
「うちのチーム総出でお礼参りさせていただきます。ゆめゆめ お忘れなきよう。」
隠す気もないのだろう、どす黒いオーラが大森さんから溢れてきた。だけど、俺もこれだけは言っておきたい。
「大森さん。うちの阿部はとても優しいんです。」
「存じ上げております。」
「それ故に自分を苦しめたり辛い状況になった時、その時は俺が絶対に阿部を守ります。」
大森さんの方が身長が低いので実際は見下ろしているのだが、空に向かって誓うような、見上げているような錯覚に陥った。
「それを聞いて安心しました。」
「え?」
「では、失礼します。」
大森さんが去っていく。小さい背中がとてつもなく大きく見えた。
楽屋へ戻ってしばらくして、阿部ちゃんも戻って来た。
「めめ、さっきは…。」
「藤澤さんと話できてよかったね。」
「…ありがと、めめ。」
阿部ちゃんが幸せならそれでいいんだよ
【終】
目黒「ねぇ、阿部ちゃん。大森さんって藤澤さんのこと…。」
阿部「あぁ、大森さんは若井さんと付き合ってるよ。」
目黒「え…?!」
阿部「あそこはちょっと特殊だからね。三人それぞれ深い絆で結ばれてる。」
目黒「そうなんだ…(お礼参りガチじゃん)」
次回予告:『誘惑したい涼架君(仮)』※ギャグ?
コメント
7件
もう、もう、全部好きです。嫉妬阿部ちゃんも保護者もっぬんも、全部好きです。
ひゃぁー阿部ちゃんの束縛いいねぇ 仲良しっていいねー
更新ありがとうございます✨ みんな仲良しで良いですね✨せっかくのマンション、活用されてるとこいつか見てみたい🥰