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ruruha
206
かにいぬ
電子画面を開くと、画面のほとんどがあの人について。
スタイルが良くて、顔も良くて、しかもS級魔術師で。
抜け目なんてない完璧な人。
全員の憧れの的。
そんな人と俺は、任務に行けます。
明日命日かな?うーわまじ嬉しいどうしよ。この為に頑張ってきました。
時刻は午前2時、眠気よりも興奮が勝つ今日この頃。
淡い月明かりの下で、長い髪が揺れている。
大きく深呼吸をして、一歩ずつ近づく。
「は、はじめまして!本日同行させていただきます、A級魔術師のシアン.ノワードと申します!」
振り返り際、ローブがふわりと揺れる。
「来てくれたんだ、私はS級魔術師のジル.エイリンだよ」
ニコリと優しく微笑む。
前髪の奥で紅の目が輝いたように見えた。
「本日はよろしくお願いいたします」
「…うん」
ジルさんは少し悩んだ素振りを見せたあと、こちらを見た。
「どうか…しましたか?」
「今日の任務内容は聞いてる?」
「はい!墓地に出現した魔物の退治だと聞きました」
「私が向かうくらいだから、かなり危険なはずだ」
「承知しております」
「…帰っても良いんだよ?」
まさかの言葉。
「…は?」
「大丈夫、報告書にはちゃんと君の名前も書いておくから」
「いや、そういう問題じゃないです」
「?休んでて良いんだよ?」
本気でわかってない顔。
「俺は自分の任務は自分でやります」
「…そっか、真面目だね」
またニコリと笑う。
完璧な笑顔。だけどどこか寂しそうに見えた。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
浮き足立つ気持ちを抑えて、なるべく静かに後をついて行った。
「うわ、暗いですね」
「…そうだね」
指定された座標に着くと、そこは真っ暗な墓地だった。
街灯なんてものは無く、月明かりだけが道を示してくれる。
「魔物は奥でしょうか?」
「だろうね、行こうか」
「はい」
魔物が反応するため、明かりは使えない。
[ゴソッ]
草陰で物音がした。
「…」
ジルさんが無言でそちらを向く。
ただの野良猫。
それを見た彼はホッとしたように少し肩を落とした。
…もしかして??
「ん”っん…警戒を怠らないように」
「は、はい!」
警戒心が強いだけだろう。
S級ともなれば危険なものに遭遇しまくっているわけで…。
[ドンッ]
近くに雷が落ちる。
辺りが一瞬明るくなった。
「…っ」
服の裾を掴まれる。
本人は無意識のようだった。
「…エイリン、さん」
「どうしたんだい?」
「あ、いえ、何も」
ゆっくりと離される。
…警戒心、とかのレベルじゃなさそうだ。
少し考えてから、彼に近づいた。
「あの、エイリンさん」
「ん?」
「俺、少しこういうの苦手で。近くに居てもらってもいいですか?」
ジルさんは少し驚いた顔をしてから、また優しく笑った。
「もちろん、大丈夫だよ。暗いもんね」
「はい…」
入った時よりも柔らかくなった表情を見て、あのジルさんにも人間らしい所があるんだな、と、少し安心した。
…それと、本当に少しだけ、…可愛いと感じた。
「ノワードくん、そろそろだよ」
「!!」
空気が重くなる。
魔力の中心へ杖を向ける。
…今。
詠唱を唱える前に、ジルさんの杖と魔物の急所に魔方陣が現れる。
驚くのも束の間、次の瞬間には全て消えさっていた。
先程まであった空気の重さも、漂う魔素も、三体の魔物も。
「…終わりかな」
「さ、流石です」
「ありがとう。じゃあ、本部に報告へ」
言い終わる前に辺りがビカッと光った。
[ドゴンッ!ゴロゴロゴロ…]
「わ、おっきな雷…です…え?ジルさ…エイリンさん?」
俺の腕に抱きつくジルさん。
…抱きつく…え?
「…エイリンさん?」
「…ぁ、ぃゃ、ごめんね、忘れて」
何事も無かったかのようにスタスタと歩いていく。
なのに速い。
「エイリンさん速いです!」
慌てて自分も追いかける。
「報告書どうしようか…あ、私がやるから君は帰って大丈夫だよ。さっきのことは見なかったことにしてね」
早口。テレビなどで今まで聞いた中で一番。
「報告時は任務同行者全員本部へ向かうのが原則です。あとさっきのは忘れません」
ピタリと足が止まる。
思わずぶつかりそうになった。
「…忘れて」
「やです」
「君も嫌でしょう?」
「何がですか?」
「…私が雷怖いの」
「あ、やっぱ怖いんだ」
「っ…いや怖いって言うか…苦手…?な、だけで…」
「俺は嫌じゃないですよ。むしろ嬉しいです」
「…嬉しい?」
怪訝そうな目。
「はい。あんな完璧そうなエイリンさんにも苦手なものとか、人間らしい所あるんだーって思ったら…なんか、可愛く感じちゃって。…あっ、違う、安心したんです、安心。違いますよ?安心」
しまった、口を滑らせてしまった。
怒られちゃう…とビクビクしながらジルさんの顔色を伺うと、意外にも真っ赤っか。
「ぁっ…なっ…ん”…一応君より年上だからね」
「存じております…」
「…そっか。…そっ…か…」
また歩き出す。
今度はゆっくり。
「怒りました…?」
「怒ってないよ。ビックリしただけ」
「?」
「私が完璧じゃないと、嫌がる子が多いからさ」
あ、だから辞める人が多いのか。
ジルさんと組んだ魔術師の大半は、精神的理由で辞めていく人が多い。
実力差に打ちのめされたのかと思っていたが…まさか解釈違いで、とは。
確かにジルさんへの憧れで魔術師になる人は半分以上居るが、給料が良くてこんなホワイトな仕事ほっぽり出すほどか?
ってかありがたいだろギャップ萌え。なんか腹立ってきた。
「シアンくん?」
「は、はい!…え?」
「…シアンくん。嫌だった?」
「いえ!!光栄です!」
今までみんな名前で呼ばれたことないらしいのにっ!うれし!!
今すぐ踊らしそうなのをなんとかこらえる。
口角は…諦める。
「私のこともぜひ、ジルと呼んでくれる?」
「良いんですか…?!」
「うん」
「じ、ジルさん…!」
「はぁい」
可愛いッッッ…。
なぜか露骨に名前呼びを嫌うジルさんが!!自ら許可を!!
本部でさえエイリン呼びなのに!!
「シアンくん」
「はいっ!!」
「ありがとね」
「はい…?」
歩みを緩め、隣へ並ぶ。
「私に期待しないでくれて」
「期待…」
「完璧じゃなくて良いって、言ってくれたでしょ?」
「はい、それはマジで…あっもちろん思ってます」
「そんなこと言ってくれるの、君が初めてだよ」
「そうなんですね」
「イメージがあるからさ」
「ギャップ萌え、ですか」
「っ…ww」
肩を揺らしながら笑う。
お気に召したらしい。
「ぎゃ、ぎゃっぷもえね?wふ…っw」
軽く肩がぶつかる。
わざとだったのか、気にせず歩く。
「やっぱり、君のこと好きだよ」
「…えっ」
「…あ、ごめん、人としてね?急にビックリしたね、言い方が…ごめんね」
「あ…いえ…全然…」
ビックリした、告白されたかと思った。
…されたと思った…。
「よし、ちゃちゃっと報告書書いて寝よっか」
「そうですね!」
時刻は4時。
ジルさんのおかげでとても早く任務が終わった。
早朝や深夜任務の場合、その日、又は翌日の休暇は義務づけられているので今日はゆっくりできる。
とはいえS級はジルさんしか居ないので、この人は多分忙しいだろう。
…大丈夫だろうか…。
そんなことを考えていると、ジルさんの執務室へ着いた。
流石S級、個人の仕事部屋がある…いや、仕事量の問題か。
「報告書…これだね。シアン.ノワードだったよね?」
「はい!」
「ありがとう。…大体…うん…これでいっか」
「え」
みじかっ!!簡潔!!分かりやす!!
これで良いのだろうか。普段の報告書ってもっと長くわかりづらいのだが。
[遂行者:S級ジル.エイリン A級シアン.ノワード
場所:東の村、マニュイ墓地
対象:A+ケダバ
個体数:3体
詳しい情報:中心部に主らしき個体有り。体長、魔力量共に凌駕]
字キレイ…。
「変なとこあった?」
「あっいえ!字が綺麗だな、と…」
「!ふふ…ありがと。昔練習したんだよね」
“イメージ”の為…。
なぜこの人はこんなにも、”他人が求めるジル.エイリン”であろうとするのか。
「シアンくん?」
「…いえ。報告に参りますか?」
「帰還連絡はしたから…7時に行こうか。本部も寝てるだろうし」
確かにいつも7時から開いているような…。
「仮眠室へ行こう。ソファじゃ二人寝れないしね」
「そうですね」
報告書を持って奥の仮眠室へ向かう。
初めて来た。
仮眠室の中にはベッドが4つ、大きめのソファが一つ。
ジルさんは着ていたローブを脱いでベッドに沈んだ。
「…7時に…アラーム鳴るから…」
「了解です」
自分も寝ようとすると、すぐに寝息が聞こえてきた。
随分とお疲れだったのだろう。
よく見ると目の下にくっきりと隈があり、肌が白い為余計に目立っている。
「…頑張りすぎですよ…」
ボソッと独り言のように。
俺との任務の前にも単独で仕事があったらしい。
休みもないとかなんとか聞いたことが…。
普段休んでいるのだろうか。
自然と閉じていく瞼に抵抗することなく、深い眠りに落ちた。
[ピリリリリリ ピリリリリリ]
「ん”ぐぐぐ…届かねぇ…」
[ピリリッ]
ジルさんとのベッドの間の机に置かれた電子画面を押せば音が止まった。
ジルさんはまだ寝ているらしい。
「ジルさん、7時になりましたよ」
「…ん”…」
うっすら目が開かれる。
眩しいのか眉間にシワが…!!
いつもの優しい笑顔はなく、どこか不機嫌そうな顔。
「…あ”ー…報告書やな…あ?シアンくん…あぁそっか…はよ行こ、仕事ある…」
方言+いつもの声よりワントーン低い+掠れてる=メロイ
「え、ちょ、待ってください、だ…え、方言…!」
「…あっ」
しまった、とでも言うように口を抑える。
口を開いて何か言い訳を言おうとするが、言葉になっていない。
「あいや…えっと…ちがくて…いや…」
「もっかい、もう一回だけ聞かせてください…!なんなら録音!」
「ほんとやめて…ごめん気抜けてた」
「謝らないでくださいよ!ってか本当にまじでもう一度聞きたいです」
「…物好きだね」
「そうですか?普通に好きだったんで」
「ん”っ…そういうのはさぁ…サラッと言わんでや…」
「ハァッッ!!ありがとうございます…」
限界オタクと化してしまった。
録音は出来ていないが…まぁ聞けたから良いや。
「…嫌じゃない?」
「…めちゃ正直に言いますと、完璧なのはすごいけど作ってないジルさんの方が俺は好きです」
ジルさんは嫌な顔せず、むしろ嬉しそうに笑う。
「そっか…優しいなぁ、シアンくんは」
「優しさじゃなくて好みな気もしますけどね…」
「じゃあ、俺んこと好き?」
「おっ…ふ…ちょっと待ってください?二つ待ってください?」
「冗談だよ。ほら、報告行くよ」
「…ハイ」
恐ろしや、ギャップS級…。
「以上が今回の報告となります」
「シアン、君は魔術師を続けるのかね」
鋭い目。見定めるみたいな、値踏みみたいな。
「はい、続けます」
「そうか。ならまた明日、8時30分に二人でここへ来なさい」
「?」
「…なぜですか」
「こちらで考えることがあるのでな」
「なるほど」
その後なんの会話も無く帰された。
「なんでしょうね」
「さあ?まぁ悪いことじゃないと良いけど」
「ですね」
このままお別れ。
「…ジルさん」
「ん?」
「朝ご飯、食べに行きません?食堂に」
「…行く」
よっし。
魔術師の館には、自室…と言っても物置のような部屋、そして食堂、お風呂など、大抵の生活はできるように設備されている。
食堂では安く美味しいものがいつでも食べられる。
「ジルさんそれだけですか?」
「少食なんだよね」
サラダとスープだけが乗ったトレイ。
だから細いのか…。
「…えい」
「ちょっと」
ミートボールを二つ追加しておく。
制止しつつ嫌そうではない…と思う。
無理そうだったら俺がもらおう。
俺はパンとスープ、ミートボール、サラダ、ヨーグルト。あと目玉焼き。
お肉は…今日は我慢。
「いっぱいだね」
「食べるの好きなんですよね」
「良いことだ」
「あざす」
二人向かい合わせに座る。
まわりの視線が痛い。
「ごめんね、食べにくいかな」
「いえ全然。気にしないので」
「そっか」
大した会話もせず食べ進める。
ジルさん一口ちっちゃい…。
量がかなり違ったはずなのに、同じタイミングで食べ終わった。
「スープ美味しかったですね」
「そうだね、優しい味だった」
トレーを戻して、ジルさんは執務室へ、俺は自分の家へ向かった。
出る前に何気なく掲示板を除いてみるが、先日までと変わらず魔物の出現率やジルさんの活躍についてばかり。
「…すごいなぁ…」
いつも完璧な姿ばかり。
任務の時とは別人みたい。
…少し優越感。
通りすがり出会う先輩達に挨拶して帰路についた。
コメント
1件
面白かったです。ジルさんの「完璧じゃない自分」を見せていく構成が巧いですね。雷を怖がる姿や、寝起きの方言、少食なところなど、ギャップが一つひとつ丁寧に積み重ねられていて、シアンくんの視点で「人間らしさ」に触れていく流れに自然と引き込まれました。特に「初めてだよ」のセリフには設定の厚みを感じます。上司の意味深な言葉も気になる伏線ですね。続きが楽しみです。