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『繫縛の楔』〜私はこの檻から逃げられない〜
第5鎖 『唯一の希望』
『主様。こんばんは。お風呂の時間ですよ。』
『お風呂…。』
『鎖を外しますね。』
ジャラジャラ…。ガシャンッ。
『さ、大浴場に行きますよ。』
フェネスは私をお姫様抱っこし、大浴場へ連れて行く。
脱衣所――
『では脱衣所の外で待ってますから。』
バタンっ。
『……。』
(脱衣所に窓は無い…。あるとしたら、大浴場の中だ。)
私は服を着たまま大浴場に入る。
ヒタヒタ…。
『鉄鋼は張られてない…。私ならここから出られそう。』
シャー…。
私はシャワーを流して窓をよじ登る。
『早く、しないと…っ。』
私は窓を越えて外を眺める。
何日ぶりの外だろうか――。輝いて眩しい月が私を見つめる。
トンっ
地面に足を着く。
『出られた…っ。早く、屋敷の門まで走らなきゃ――!』
バタバタ……ッ!
数分後――。
『…主様遅いな。大丈夫かな。』
俺は脱衣所の扉を開ける。
ガチャ
ドンドンっ
『主様?』
大浴場の扉を叩く。
シャー……。
『…返事がない。ってことは…。 』
ガラッ
『……居ない。ふふっ…。』
俺は口を押えて笑う。
『いけない人ですね…主様。逃がしませんよ。』
俺は立ち上がり主様を追いかける。
『はぁ、はぁ…っ!』
私は屋敷の門へ着く。
ガシャンガシャンッッッ!!
門を開けようとしたが何故か開かない。
『なんで、なんで開かないの……っ!!つぅ…!』
その時、指に何か刺さった。
『え……っ?バラの棘…っ?』
暗闇に目が慣れて来た時、門に括り付けられてる夥しい程の薔薇の蔓が私の目に入る。
『あ、ああ…っ!』
言葉を失った。蔓には棘が無数にあり、私の希望を完全にかき消したのだ。
ここから逃げられないという烙印を押されたかのよう。
私はその場に座り込む。
『あーあ。ダメじゃないっすか。俺がせっかく薔薇の蔓を用意したのに。』
『束の間の自由は楽しかったか?』
『『主様。』』
『……!!』
後ろから声がする。悪魔の声が。
『フェネスさんが探してますよ。ほら、戻るっすよ。』
『嫌、私は、ここから出るの!』
私は蔓に触れて蔓をちぎろうとする。
『おいおい。』
ボスキが私の身体を引っ張る。
『離して…っ!』
『綺麗な指が棘まみれだ。主様の体は俺達の身体でもあるんだ。勝手に傷付けるなんて許さねぇぞ。』
『っ…。』
『2人とも。ここからは俺が言うから。』
『フェ、フェネス……っ。』
『ふふ♪おかえりなさい。主様。鬼ごっこは楽しかったですか?』
『まさか、最初から……っ。』
『えぇ。俺の掌で踊らされる主様はとっても可愛かったですよ。可哀想で…無様で、ね。』
『そんな、じゃあ、私は……っ。』
(何の、ために…。)
『お風呂に鉄鋼を張らなかったのはですね。いつでも逃げれる。だけど、外には絶対出られない。と、主様に思わせる為です。後から来る絶望は、大きい方が主様も諦めつきますよね?』
目の前で微笑む悪魔は私を嘲る。
『さぁ、戻りますよ。』
落胆して動けない私をフェネスはお姫様抱っこする。
『……。』
フェネスが私の身体を隅々まで洗う。
『ん、ぅ…っ。』
『主様…綺麗です。もっと俺に見せて下さいね…。』
ちゃぷん…。
私は湯船に浸かる。
『……。』
愛と欲に溺れ――その印を身体に刻まれるという残酷な行為は私を蝕むのには、充分過ぎた。
『大好きですよ。俺の主様。』
次回
第6鎖 『お揃いの瞳』