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涼ちゃんの「愛してる」は、明確な友情の告白だなんだ。
僕はみんなが帰った後、自宅のベッドに倒れ込んだ。部屋の天井を見上げても、涼ちゃんの屈託のない笑顔と、その言葉が頭の中でループする。
(人として、家族として、か……)
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
涼ちゃんが自分に向けてくれた温かい感情は、元貴が望む「愛」とは違う。
それは分かっている。
分かってるんだ。
涼ちゃんの声を聞くたびに、隣でピアノを弾く涼ちゃんを見るたびに、胸の痛みは増していく。
特に、涼ちゃんが他のメンバーと楽しそうに話しているのを見ると、なぜか胸の奥がざわつく。
(このままでいいんだ。涼ちゃんが幸せなら、それでいいんだ。)
と、何度も自分に言い聞かせる。
今日は寝れるかな。
僕は瞳を閉じた。
ある日の練習後、元貴は一人、スタジオに残ってギターを弾いていた。新しい曲のフレーズを考えているふりをしながら、本当はただ、この場所で涼ちゃんの残り香を感じていたかっただけだ。
「まだいたんだ、元貴」
不意に背後から声がして、元貴は肩を震わせる。振り返ると、そこには涼ちゃんが立っていた
忘れ物をしたのか、肩には小さなバッグをかけている。
僕とお揃いのバッグ。
やめてよとは言ったものの、お揃いのバッグは少し嬉しかった。
「あ、うん。ちょっと弾きたくなって」
元貴はとっさに適当なことを言った。涼ちゃんはピアノの席に座り、電源をつける。
「俺も、もう少しだけ弾いてこうかな」
涼ちゃんがピアノ弾くと、心地よい低音が響いた。
元貴は、その音に耳を傾けながら、涼ちゃんの横顔を見つめた。真剣な眼差しで鍵盤をを押す指。その横顔には、いつも元貴を惹きつける魅力がある。
「ねぇ、涼ちゃん」
僕は、涼ちゃんに話しかけた。
「ん?」
僕の方を向いた。その澄んだ瞳は、元貴の心の奥底を見透かすかのように感じられた。
「新しい曲の所、ちょっと詰まっててさ。何かアイデアないかなって」
涼ちゃんは、ぼくが夜な夜な作った音源を聞くとすぐに
「おお!いいじゃん!」
と笑顔になった。そして、楽しそうにピアノを弾きながら、いくつかフレーズのアイデアを提案し始める。
涼ちゃんの言葉を聞きながら、
心の中でため息をつく。
こうやって口実を作らなくちゃ僕は涼ちゃんと話せないのか?
(やっぱり、このままでいいんだ)
そう言い聞かせながら、元貴は涼ちゃんの奏でる音に耳を傾ける。この穏やかな時間が、どうかずっと続きますように。そう願うしかなかった。