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「快成、またやっちゃったんでしょ」
左腕には見慣れないアームカバー。
最近は見えないところにするもんだから気づけなかったけど、やっぱ我慢できなかったか。
バツが悪そうにそらされた目に疑いが確信に変わる。
「手当した?」
「どうせ適当にガーゼ巻いてるだけやろ」
だんまりを決め込むつもりんやろうけど、ほっとくわけにもいかない。
「今日は俺の家おいで」
「…うん。ごめんヤスさん」
ずっと謝らんでいいって言ってんのに、まだ「ごめん」って言ってる。
おでこに軽くデコピンをしておいた。
〜〜
「ヤス、快成なんか変じゃない?」
「おん、今日家連れて帰るっす」
タツさんも快成の異変に気づいてたらしくて、練習終わりに声をかけられた。
連れて帰るって告げると頼むわ、って。
てかみんな快成のこと心配して俺に何か言ってから帰っていく。
譲さんからはチョコレート菓子を手渡された。
こんなに愛されとんのに…いい加減気づけよ。
「快成、そろそろ帰ろっか」
練習終わりはいつもは牧や怜さんと一緒にワークアウトしてるけど、今日は人と話したいモードじゃないのか、一人黙々とストレッチをしてた。
何回か声かけても聞こえてないらしく、肩を叩いたらかなり驚かれた。
〜〜
「おじゃまします」
こうして快成を連れて帰ってくるのは最早何回目か分からない。
「ソファ座って待ってて」
快成をソファに座らせておいて、救急箱を取りに向かった。
もう慣れたもので、救急箱の中には快成用の手当用品が揃ってる。
アームカバーを剥ぐと、かなり広範囲にガーゼが巻かれていた。
「これはまた派手にやったな」
おざなりに巻かれたガーゼの下からは大小の傷が無数に出てきた。
少し深めのところやカサブタになりきれてない傷からはまだ血が出ている。
「練習中痛かったやろ」
他愛ない話題をかけ続けながら手当を進める。
大まかに血液を拭き取って、消毒して、軟膏を塗ったガーゼを貼って、包帯巻いて。
快成は表情を歪めることもせずに俺にされるがまま。
こういう時に笑わせれる話術ほしいな。怜さんに弟子入りせなな…。
「ん。これで終わり」
「メシ食いに行く?デリバリーする?」
「…外出たくないっす」
「デリバリーすっか。何食いたい?」
外出たくない、って言うぐらい落ち込んでるのは心配やけど、肉食いたいって言ったから2人分の牛丼を注文した。
まだ大人しめモードやけど食欲は少し出てきたみたいで安心。
「ヤスさん、それ何円?」
「ん?ええよ。奢ったるわ」
「いーんすか?ありがと」
〜〜
「快成、眠いんなら残していいから寝な」
快成の好きそうなアクション映画を垂れ流しながら牛丼を食べていたら、八割ほど食べたところで快成が船を漕ぎ始めた。
「…ん、ぃや、、ヤスさんと、いる」
「俺まだ食べ終わらんよ」
「おれも、たべる」
「じゃあ起きな」
眠いのと食べたいのと俺と喋りたいので揺れてるらしい。
まだまだ子どもっぽいところがあるもんや。
「ヤスさん、あ」
もう動きたくないです、とでも言うように口を広げて待ってる。小鳥か。
しょうがないからちまちま快成の口にスプーンを運ぶ。
「ごちそうさま」
「ん。歯磨いてきな」
完食された牛丼。食欲は戻ったらしくて安心。
俺の器に残っている少し冷えてきた牛丼を急いでかきこんだ。
〜〜
「快成、なにしてんの」
夜中にふと目が覚めると快成がベッドサイドに座って、ぼんやり窓の外を見ていた。
「あ、やすさん、おこした、?」
「目さめただけ」
「どした?」
快成が月と一緒に消えてしまいそうだったから声かけた。
隣に座って窓の外を一緒に見てると、話し始めてくれた。
「…迷惑、かけてるなって」
「この間も、牧さん、困らせて」
「譲さん、タツさんも、困ってんだろうな、って」
そんな顔、すんなよ…。
迷子になった小さい子が必死に泣くのを我慢してるような、そんな顔。
思い詰めんくてもお前の居場所はちゃんとあるから。
快成の右手が無意識だろうけど左腕に触れる。
ガーゼの感触にも気づかず爪を立てようとしていたからそっと手を取った。
「っあ、」
「腕、爪立てるのやめな」
「大丈夫やから」
はらり、と涙が頬を伝った。
あまりにも綺麗な涙を流すもんやから、かける言葉も見つからずただただ快成を抱き寄せた。
「…不安になってもうたんやろ」
俺の背中に回された腕の力が少し強くなった。
「俺なんかが迷惑かけてもうてるって」
「迷惑かけるぐらいなら消えたなったんやろ」
ずず、と鼻をすする音まで聞こえてきた。
「俺ら、お前が思っとるより何倍もお前のことが大切やから」
「独りでぼろぼろに傷ついて、俺らが知らん間に消えてまうぐらいやったら、迷惑かけまくってでも頼ってほしい」
もうとっくにキャパオーバーだったんやろう。
背中に回された腕の力がますます強くなってきた。
喉が引き攣るような音が聞こえてきて、快成が過呼吸に陥りそうになっていることに気づいた。
「大丈夫…ゆっくり深呼吸しな」
背中を軽く叩きながら呼吸を促してると、少しずつ落ち着いてきた。
泣いてたし、過呼吸にもなったし疲れたんやろう。眠たそうに目元を擦り始めた。
「もう寝ときな」
「…やだ、やすさん、、」
寝るん嫌って何やねん。
…まあ不安なんやろな。寝たら誰もおらんなるもんな。
快成は甘えたやと思ってたけどここまでとは。
まあ、可愛い後輩のことは甘やかすに限る。
「ん、じゃあおいで」
俺のお気に入りの少し大きいベッド。二人で寝るのも苦労しない。
腕の中にすごすごと収まってきた快成の頭を撫でながら入眠するのを待つ。
あまり時間が経たないうちに規則正しい寝息が聞こえてきた。
うちの末っ子甘えん坊のあどけない寝顔。みんなに自慢してやりたいけど俺だけの特権やな。
いや、もっとみんなにも頼ってほしいところやけど。
「快成、大好きやで…おやすみ」
こいつはもっと俺らに愛されてることを自覚したらええ。
さらさらの髪を撫でながら、俺ももう一眠りすることにした。