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シオンの周囲の聞き込みは続いた。しかし返ってくる答えは決まって、
「シオンは明るくて性格の良い子だった」というものばかりだった。それでも、
デビュー前の噂がちらつく。誰もがその話を知っているようだが、口を閉ざしている。
トップアイドルが、どんな過去であれ、そんな場所で働いていたとは言いたくないのだろうか。
ワトリーがもやもやとした気持ちで考え込んでいると、ジョセフが口を開いた。
「ワトリー、アレクなら何か知ってるんじゃないか?
彼はシオンのマネージャー兼社長だし、過去のことも把握してるはずだ。」
ワトリーは頷き、アレクを訪ねることにした。
コンコン、と軽くノックをすると、中から低い声が返ってきた。「どうぞ。」
ワトリーが扉を開けて部屋に入ると、アレクが2匹の猫と話をしていた。
1匹はオス、もう1匹はメス。アレクは少し困った顔を見せ、
「今、接客中なんだ。後でもいいかい?」と穏やかに言った。
ワトリーは「分かったのだ」と素直に答え、ドアに手をかけたその時だった。
「ワトリー!」突然、その部屋にいた2匹のうち、オスの方が声を上げた。
その声は、ワトリーには馴染みのあるものだった。
「ゲンさん!」ワトリーも驚きつつ声を上げた。
そしてもう1匹、メスの方にも目をやる。彼女は静かに立っていた。「…カオリ?」
「そうか、あのサーカス事件を解決したのはフェリックスだったな」アレクが興味深そうに言った。
ジョセフ(最終的には俺が逮捕したけどな)
ワトリー「ゲンさん、カオリ、キャットタウンにまた来てくれたのだ!」
ゲンは笑みを浮かべ、「ああ。いよいよサーカス団員が集まって、
ここでパフォーマンスをする予定だったんだ。でも事件があって、
結局できなくなったんだよ。その説明を今、アレクさんに受けていたところさ。」
ゲンとカオリは、以前キャットタウンにやってきたサーカス団の団員だった。その頃、
サーカスで起きた事件をフェリックスが解決した際、話せなかったカオリにワトリーが
文字やジェスチャーを使ってコミュニケーションの仕方を教えたのがきっかけで、二匹は友達になった。
ワトリーは懐かしい再会に心が弾んだが、今はそれよりもシオンのことが優先だった。
アレクの方に向き直り、真剣な表情で話し始めた。
「アレク、シオンのデビュー前のことについて知ってるなら教えてほしいのだ。
きっとそのことで、彼女は悩んでいたはずなのだ。もしかしたら、脅されていたかもしれないのだ。」
アレクはしばらく考え込むように黙っていたが、やがて深いため息をついて口を開いた。
「その噂は本当だよ。しかし、彼女はその過去を乗り越えて、それ以上に輝く素質を持っていた。
私は彼女を過去なんかで評価せず、これからの輝くアイドルとして育てたかったんだ。
でも…守ってあげられなかったことが悔しくてならない。」
アレクの声はどこか切なげだった。ワトリーは、
その言葉に胸を打たれながらも立ち上がった。「やっぱりシオンの過去を知ってるのはサリーなのだ
もう一度サリーに話を聞いてくるのだ。」
その時、カオリが突然立ち上がり、震える声で言った。「ワ…ワト…リー…」
ワトリーは驚きつつも顔を上げた。「カオリ!話せるようになったのだ?」
カオリは小さく頷いた。「ワトリー…私も…行く。」
ワトリーは一瞬迷ったが、ゲンが後押しするように言った。「ワトリー、連れて行ってやってくれ。
おれ達はしばらくしたらこの街をまた離れるんだ。それまでワトリーと一緒にいたいんだろう。」
ワトリーはカオリの決意を感じ、彼女を連れて行くことにした。
「分かったのだ、カオリ。一緒に行くのだ。」
そのやり取りを見守っていたポテトが、ジョセフに小声で話しかけた。
「カオリって、あのサーカス団の…?」
ジョセフは頷きながら、「ああ、蛇女って言われたあのカオリだよ。」と答えた。
ポテトとジョセフは、かつてボロボロだったカオリの姿を思い浮かべながら、
彼女が以前とは違う、穏やかで強い目をしていることに安心し、ほっとした表情を浮かべた。
こうして、再びワトリーたちはシオンの謎に迫るため、サリーの元へと向かった。
シオンの過去に何があったのか、その影が徐々に見え始めていたが、真実はまだ深く暗い闇の中にあった。
ワトリーは再びサリーの楽屋を訪れた。ドアをノックし、中へ入ると、
サリーは既に決意した表情で待っていた。
「サリー、何度もごめんなのだ。」ワトリーは少し申し訳なさそうに言った。
サリーは静かに頷き、「いいの。私もシオンがなぜ亡くなったのか、真実を知りたいの。」
彼女の視線が、ワトリーの隣に立っているカオリへと移った。「その方は?」
ワトリーはカオリを見やり、「ボクの友達なんだ。カオリっていうのだ。」と説明した。
「そう。」サリーはカオリをじっと見つめた。
サリーはそれ以上追及せず、ワトリーに向き直った。
「ワトリーくん、もう知っているとは思うけど、私たちはデビュー前、あるお店で働いていたの。」
「うん、知ってるのだ。」ワトリーは頷いた。
サリーは少し遠い目をしながら、過去を振り返るように話し始めた。
「私たちはそのバイトで稼いだお金を使って、毎晩夜遊びしていたわ。
シオンには恋人がいて、いつものクラブで一緒に遊んでいたの。」
「恋人がいたのだ?」ワトリーは驚き、目を見開いた。
「ええ、すごく仲の良い2匹だったわ。」サリーは小さく微笑んだが、すぐにその表情は陰った。
「でも、その生活が私たちが事務所に入ることになって、いろいろと変わったの。特に、
シオンのお客さんの一匹がとても怒っていた。お店の常連で、シオンに特別執着していた猫だったのよ。」
ワトリーは眉をひそめた。「その後も会っていたのだ?」
「いいえ、それはないと思うわ。シオンはきっぱり断ち切っていたから」
サリーは少し安堵したように言った。
ジョセフがその話に割って入った。
「じゃあ、その客が直接脅したり、シオンに近づいた可能性は低いのか?」
サリーは曖昧に首を傾けた。「わからない。しばらくは大丈夫そうだったけど、
ある日突然また怯え始めたの。電話に出ないようにしていたり、
ストーカーされているんじゃないかって、すごく怖がっていたわ。」
ポテトが口を挟んだ。「アイドルにはそういうこと、よくある話なんですか?」
サリーはため息をついた。「確かに、アイドルにはよくある話かもしれない。
でも…シオンの場合は、特にその客が関わっている気がするの。」
ワトリーは不思議そうに問いかけた。「どうしてその客だと思うのだ?」
サリーは黙ってゴミ箱の中を探り、一枚の封筒を取り出した。「これがシオンの楽屋にあったの。」
ワトリーは封筒を受け取り、中身を確認した。中には数枚の白く美しい羽根が入っていた。
それを見たワトリーはさらに疑問を深めた。
「これは?」ワトリーはサリーを見上げた。
「シオンのお客さんは、いつもの部屋に大量の羽を撒いていたの。
まるでシオンを天使か何かみたいに扱っていたみたい。
そしてその羽で遊んでいるシオンの写真を撮っていたって、本人も言ってたわ。」
ワトリーは封筒を慎重に手に取りながら、これまで集めた情報が少しずつ繋がり始めるのを感じた。
その白い羽はただの象徴ではない。シオンにとって、それは恐怖の象徴でもあったのかもしれない。
「この羽を送ってきたのが、シオンを追い詰めた客だとしたら…」ワトリーはその可能性に心を重くしながら呟いた。
ジョセフも同じ考えに至ったようだ。「その客が、今もシオンに執着しているのかもな。」
ワトリー「一週間前にシオンのマンションに侵入したのもそのお客なのか?」
サリー「それは分からないわ。でもその後からシオンはずっと怯えているの」
ワトリー「そのお客に聞いてみるのだ」
ワトリーは決意を新たにし、事件の核心に迫ろうとしていた。
シオンの死の真相は、彼女の過去と、その執着から生まれた暗い影の中にあるのかもしれない。