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21XX年。ロスサントスのアジアンタウンにある中華料理店「明味房」を訪れた1人の少女からこの話は始まる。
黄色の仮面に中華服を着た副店長がいつものように店番をしていると、ドアが勢いよく開けられ静かだった店内に明るい声が響いた。
「いらっしゃい」
「久しぶりだな!ぺいん!」
やってきたのは副店長の伊藤ぺいんと旧知の警察官であるオルカ・トヴォロだった。
「相変わらず元気だね、オルカ」
「まずは飯と水分をくれ」
「おすすめでいい?」
「おなかぺこぺこなんだ。頼む!」
「もうスナイパーにやられていない?」
注文を受けぺいんは厨房に向かう。店内は狭いため、客席に座るオルカと会話をしながら食事を準備した。
ほどなくしてできあがった料理のトレイを持ったぺいんが客席にやってきた。
「はい。エビチリ定食とデザートの杏仁豆腐ね。デザートはサービスしておくよ」
「相変わらず美味そうだなぁ」
目をキラキラさせながら食事を始めたオルカの向かいにぺいんは座り、ふたりは食事と近況などの会話を楽しんだ。
しばらくして食事を終えたオルカが神妙な面持ちでぺいんと向き合った。
「ぺいん。折り入って頼みがあるんだ」
「ん?どうしたの?」
「久々に出勤したら署員が大分入れ替わっていてな。対応は出来ているのだが、署員の練度というか連携に問題があると感じた」
「頼む。オルカと一緒に署員を鍛えて欲しい」
「もう、退官して大分たつおじいちゃんだよ、僕」
「それでもだ。前に約束しただろ?100年たっても警察をやるって。その約束を果たしてくれ」
「わかったよ。約束したもんな。しばらく一緒に警察やろうか」
ぺいんが警察に復職してすぐの頃。事件対応は後輩と共に地上班でヘリからの情報を受けながら先陣がどう立ち回るべきかを実践で教え、オルカがいない時はサーマルヘリに後輩を乗せ上空からの情報の落とし方を教えた。大きな犯罪が終われば都度フィードバックを行い良かった所、次は修正するところを共有していった。
初めはぺいんの現役時代を知る警官がオルカしかおらず、中華料理屋の印象が強かったため実力を疑問視する警官も多かった。だが元々人当たりが良く、フィードバックを含め積極的に話しかけていったことと帯同して実力を見せることで徐々に受け入れられていった。
しばらくして前線と空の連携が良くなった頃には前線のカバーやダウンした犯人の護送など銃撃戦が苦手な警官でも対応できるところを教えていった。
月日が経ち、季節が移り変わる頃。事件が起きた。
病院で待機していた救急隊に警察官のダウン通知が届いた。場所は本署。コールサインは「黄金の風」。襲撃の連絡は来ていないため通常通りの対応かと隊員が考えていたが、血相を変えた雷堂ましろとももみが対応することを報告し本署へ向かった。
本署に到着するやいなや救急車から飛び出したましろはダウンしているぺいんに駆け寄った。
「かぜぇ〜」
「ましろ先生。ももみ先生。お久しぶり〜。訓練中の事故っす」
心配し、半ば泣きそうになっているましろを安心させるためか明るい声で応えるぺいん。心配しながらも診察する手を止めないましろに、ももみは病院に運ぶよう指示を出す。
「らーどー(ましろ)は病院に搬送と治療を最優先で」
「わかりました。先に病院に戻ります」
ももみはぺいんを乗せた救急車が発進するのを見届け、その場に残った警官から事情を聞き始めた。
「訓練中の事故とのことですが、事前に救急隊に連絡は入れていましたか?」
「いえ」
「訓練の時は救急隊への事前連絡とヘルメットの着用が義務付けられています。命を軽視しないでかならず守ってください。今月、これで何度目ですか?上官の方はいらっしゃいますか?」
「─── どうしたんだ?」
そんな話をしていた場に別件の対応をしていたオルカがやってきた。
ももみの剣呑な雰囲気とオドオドしている署員が気になり、間に入って話を聞き始めた。
聞くと、署員たちは本署ガレージ付近でグレネードを投げる練習をしていたらしい。人やパトカーの出入りが多いこの周りでは射撃や爆発物の練習は行わず室内にある射撃訓練場を使うよう取り決められていたが、雑談の延長で始まることもあり守られているとは言えなかった。今回は建物入り口付近でグレネードの投擲が失敗、足元に落ちてしまったため周りにいた署員は全員逃げたが、ぺいんだけがちょうど建物から出てきたため気づかずに爆発に巻き込まれたようだった。
「お前たち、なんてことをしてくれたんだ!」
話を聞いたオルカは激昂した。だが署員たちはオルカが何に怒っているのか、全くわからなかった。なぜならこの街の医療はかなり高度だ。グレネードの爆発に巻き込まれたとしても病院で治療を受ければ後遺症もなく完治するし、それが街の住民の常識だった。
「あいつは一般人よりも体が弱いんだ。普通ならたいしたことがない怪我でも致命傷になりかねん。負った傷が完治する保証もないと医師から言われている」
きょとんとしている署員たちを見ながら話すオルカ。その拳を握りしめた手は震えていた。
「だから事件現場でも気にかけていたのに、こんなことで。こんなことでっ………」
ももみは呆れた視線を署員に向けた。高度な医療があるとはいえ、命を軽視する行動は救急隊として容認できない。
「オルカちゃん。病院に行きましょう。らーどーなら風を治してくれる」
俯き立ち尽くしたオルカの手を引いてももみは病院へと戻った。
手術はかなり時間がかかったようだが無事に終わったらしい。治療が終わったとの連絡を受けたオルカはぺいんが入院している個室に駆けつけた。
「ぺいん!ぺいん!」
「心配かけたなぁ。大丈夫だよ」
ぺいんはベッドに横たわったまま、顔だけをオルカに向けて返事をした。
「オルカが警察に来てくれって言わなければこんなことには………」
「違うよ。事故自体は僕の不注意。体も大分ガタが来ていたし、たまたまだよ」
長く喋ることが辛いのか、ぺいんは一息ついてから続けた。
「普段の生活に支障はないと思う。ただオルカとの約束は半分は守れなくなった。ごめんな」
その言葉にオルカは眉を寄せた。押し黙っているオルカを安心させるようにぺいんは静かにゆっくりと続けた。
「視界が少し狭くなって色が判別しづらくなった。大分前にオルカもなったことあっただろ?あれと似た感じだ。音も前より聞こえづらい。こうだと反応が鈍くなる。事件現場の対応はもう無理だ」
それを聞き、眉間のしわが深くなったオルカを見てぺいんは安心させるように言った。
「市民対応は出来るからな。困ったらまた警察に呼んでくれよ」
神妙な顔になったオルカはぺいんに問いかけた。
「ぺいんはそれでいいのか?おまえのやりたいことはできるのか?」
「できるよ」
「約束を守ることに固執していないか?」
「そんなことないよ。僕自身が決めたことだ」
「事件対応しているお前はとてもキラキラしていたぞ」
「たしかに楽しかったけどね。もう若い人に任せても良いだろ」
オルカの矢継ぎ早な問いかけに応えていたぺいんは一息ついてから続けた。
「僕はおじいちゃんの風だからな。店番しながらお客さんと話をして、たまに警察で市民対応する。市民と話をするの楽しいし、充実した余生だよ」
少ししゃべりすぎたのか息が荒くなったぺいんは目を閉じて深呼吸をする。呼吸が落ち着き目を開けると、そこには涙を流すオルカの姿があった。
「泣くな。オルカ」
ぺいんはまだ動かしづらい体でなんとか手を伸ばしてオルカに触れる。
「明味房も警察も約束を守ることも僕が決めたことだ。誰のせいでもない。後悔もしていない。だから泣くな」
21XX年。
ロスサントスの片隅にあるアジアンタウンにある「明味房」にはいつも中華服に黄色の仮面を着けた店員がいる。街の平和を守る警察には青い髪の女性警察官がいる。
どうやらかなり昔からいるらしく二人の過去の経歴や本当の年齢を知るものはほとんどいない。
時代とともに住民も生活も景色も映り変わりゆくこの街を、この二人は見守り続けている。
このお話はオルカとぺいんの「100年後も警察をやる」というエピソードが元となっています。泣かないオルカが生涯で二度目に泣いた時です(一度目は猫マンゴーが復職した時)。
作中の登場人物は全て出自、背景が「普通の人間」と異なります。その正体がどうあれ、彼らは100年後も変わらず街で生き続けていることでしょう。