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まだ朝の八時すぎだというのに外はムワッと蒸し暑い。もう六月、そろそろ梅雨が訪れるのかと思わせる湿度だ。二人で並んで歩く。私の歩幅にさりげなく合わせてくれている隆ちゃんに朝から好きだなぁと思わせられる。
「美桜、凄く顔に出てるぞ」
「ふぇ!? な、何が!?」
「一緒の会社ってリアル漫画みたいって思ってただろ?」
(……うぅ。バレてた。)
「俺も少しずつ美桜の事が分かってきたのかな、本当分かりやすくて可愛い」
ニヤリと笑って私の頭にポンと手を置く。隆ちゃんの方こそ少女漫画を熟知しているんじゃないかと思わせる態度に朝からキュンキュンしっぱなしで溶けそうだ。
そんな甘いひとときを歩きながら過ごしているとあっという間に会社に着き二人で一緒に入り、社員証をピッとかざしてエレベーターに乗る。三階の私が先に降りると「また後でな」とエレベーターに一緒に乗っていた周りの社員に聞こえないよう耳元に小さな声で隆ちゃんは言った。
(内緒の社内恋愛みたいでニヤける〜っ)
「おはよう御座います」と周りの経理部の社員に挨拶をしながら自分のデスクに座る。
同じ会社に好きな人がいるって本当奇跡だなぁと噛み締めながらパソコンを起動し、届いているメールに目を通した。
「ちょっと、美桜! めっちゃ噂になってるけど高林さんと朝一緒に出社したって本当!?」
出社してくるなり大きな声で話しかけてきたのは隣のデスクに座る同期の小畑佳穂(おばた かほ)だ。かなり興奮しているのか鞄を胸元で握り締めながらこちらに近づいてくる。
「えっと……うん、そんな感じかな?」
なんで答えればいいか分からず曖昧な返事をしてしまった。婚約している、後もう少しで籍を入れる、とどの範囲の人にまでなら言っていいのだろうか。それをちゃんと明確に聞いておくべきだった。
「えぇ!? 付き合ってるの!? あのイケメンと!?」
「つ、付き合ってはいないかな?」
「何それ〜まだ片想い中とか? もう社内で噂になってるよ、社内の誰とも付き合わなかった高林が経理の女と歩いてるって」
「え、高林さんってそんなに有名な感じなの?」
「美桜は男に興味なさすぎたもんなぁ〜高林さんって言ったら人事部のエースとも言えるハイスペックイケメンだよ? あのクールな感じが堪らないのよねぇ、狙ってる女子もかなり多いと思うよ」
「し、知らなかった……」
まさか隆ちゃんが会社の人気男性だったとは……本人からはそんな素振り全くなかったし、本当に漫画みたい。もしかして私いつの間にか漫画の世界に転生してるとか!?(そんな訳無いよね)
「まぁあたしは美桜を応援してるから、頑張んなよ!」
バチンっと勢いよく私の背中を叩き佳穂は自分のデスクに腰を下ろした。それでも終始ニヤニヤこちらを見てくるので若干対応に困る。
とにかくこの事態を隆ちゃんに報告せねば、と思いメールを開く。
“大変! 社内で私達の事が噂になってるみたいだんだけど、どこまで言っても大丈夫かな? やっぱり結婚するとはまだ言わない方がいいかな?”
すぐに既読になり返事が来た。
“普通に結婚するって言って良いよ、隠してる事じゃないし、俺は普通に周りに美桜と結婚するって言うよ”
嬉しかった。ハッキリと結婚すると言ってくれて、周りにも隠さずに言って良いと言ってくれて。会社なのにスマホを見ながらニヤけてしまう。仕方ない。嬉しいのだから。