テラーノベル
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午後の最後のチャイムが鳴ったときには、
体に熱がこもるような感覚も、
もうすっかり消えていた。
歩いても、椅子に座っても、
変な倦怠感がなくて――
“やっと普通になった”と、
ちょっとだけほっとする。
昇降口で靴を履いていると、
若井が目の前に現れる。
滉斗『んね、今日さ…
元貴ん家、行っていい、?』
思いのほか不意打ちだったせいか、
変に胸がドキッと跳ねてしまう。
元貴『え、うち?突然だけど…
まあ、父さんと母さんに聞いてみるけど、
多分大丈夫、』
滉斗『ほんと?急に思いついてさ、
今日は一緒に晩ご飯食べたくなって』
いつも堂々としてる若井が、
なぜか少し上目遣い。
『駄目…?』って、
ちょっと拗ねたような言い方に、
思わず笑ってしまう。
元貴『……いいよ、』
胸の奥に小さくあった不安なんて、
若井の言葉で解けていく。
元貴『ただいま〜』
玄関を開けると、妹の綾華が真っ先に顔を出す。
綾華『おかえり、お兄ちゃん…って、
――わ、若井先輩まで!?』
テンションが上がったのは言うまでもない。
ダイニングに呼び込むと、
母さんも父さんもにっこり笑顔。
母『まあまあ、若井くん、
ご飯食べていって!』
父『おぉ、若井くん!
男らしい体してんな!』
テーブルを囲んで座ると、
もう完全に“家族の一員”扱いだ。
いつもより豪華な食卓。
焼き魚にからあげ、
彩りのいいサラダやお吸い物、
綾華の大好物――いつもより皿数が増えてる。
母さん、絶対冷蔵庫の在庫を全部使ってる。
母『若井くん、
元貴のどんなところが好きなの?』
父『…どこまで?』
綾華『お兄ちゃん、学校ではどんな感じ?』
矢継ぎ早の質問攻めが始まる。
父さんまで、
『2人で将来はどうなんだ?』とか
謎の先走りを発動。
若井は一生懸命、
『いやいや、まだ、えっと、、その…///』
と応戦しているけど、明らかに顔が真っ赤だ。
あんなに堂々とした若井が、
手元のお吸い物のお椀ばかり見て、
頬を染めてる。
滉斗『え、そんな…
そういうの、急に言われても……///』
たじたじの若井の顔が、
どんどん赤く染まっていく。
母さんはすかさず、
『まあ、素直でいい子ね!
元貴も見習いなさいよ~』と笑ってる。
『な、なんで僕が…!?』と抗議しながら、
気づくと自分も頬が熱くて仕方ない。
母『元貴、若井くんにお弁当作ったらどう?』
元貴『いや、そういうのは……///』
綾華『へぇ~!そっか~!』
妹の綾華まで、目をキラキラ輝かせている。
ほんの数日前までだったら、
こんな“いじり”は恥ずかしくて
嫌だったはずなのに。
今は、みんなで食卓を囲んで、
顔を真っ赤にしながら、
若井と隣同士でご飯を食べてる
この空気そのものが、
やたらと愛しくて仕方ない。
こめかみまで熱が伝わる。
元貴『もう、黙って食べよ、////』
わざとらしくぶっきらぼうに言ったつもりが、
うまくご飯を箸でもてなくて、
サラダをこぼして家族にまた茶化される。
若井が隣で笑ってる。
うちの両親も楽しそうで、
綾華も負けじと質問攻め。
いつしか『また絶対来てね!』と
みんなに言われて、
若井が、真っ赤なまま『はい!』と
大きな声で返事をする。
こんな優しい時間、こんな日常――
僕と若井の、これからが少しずつ
始まっていくんだと感じながら、
今日の夜があっという間に過ぎていくのを、
ただ大切に思った。
コメント
2件
はっ!気づいたら口角が上がっていた!?