その思いとは裏腹に、朝の支度をしている途中からだんだんと体がしんどくなってきた。体の節々はまだ痛い。これは筋肉痛なのか、熱が上がるからなのか、どっちの痛みだろう。
念のため熱を測れば37.4度と微妙な数字を叩き出した。
これはやばい……。
もしインフルエンザだったらしばらくお休みすることになるし店に迷惑をかけてしまう。だからって無理して行ったら他の人にうつしてしまうかもだし、お客さんにも失礼だ。休むしか選択肢がない。
「はぁぁぁー」
最悪だ。休み明け初日からこんなことになるなんて。しかも今日はまだかかりつけの病院は休み。行くなら救急外来だ。
病院に行かないわけにもいかず、ささっと支度をする。レトワールにも連絡を入れてから重い体を引きずって救急外来へ行った。
救急外来はものすごい人。休み中に体調悪くなる人ってこんなにいるんだ……なんて思わず感心してしまうほど。待合いの椅子はほぼ埋まっている。
発熱している人は隔離ブースがあって、そちらもやはり人で溢れていた。皆ぐったりしてるなぁなんて余裕の表情で見ていたけれど、私もどんどん熱が上がるばかり。悪寒に震えて長峰の手袋を借りた。
ありがとう長峰。借りパクしててごめん。
結局診察を受けてお会計まで済ます頃にはゆうに三時間ほど経っていて、悪寒は止まったけれど熱が上がりきった状態になった私は引きずるようにして自宅に戻ったのだった。
体がしんどすぎて倒れ込むようにベッドへ潜る。
薬飲まなきゃ……そんなことを頭の片隅で思いながらも、体を動かしたくない。そのまましばらく意識を手放した。
もちろん、疑いようもなくインフルエンザだった。いろはちゃんは大丈夫かしら。皆も……。
次に気づいたときは、インターホンが鳴ったときだった。
「……こんなときに誰よ」
もちろん居留守を使う。けれど――。
ガチャリ
鍵の開く音にガバっと体を起こした。
やだ、何? 今、ガチャって音がした。開いた? 開いたの? 何? 泥棒? そういえばお正月は泥棒が多いってどこかで聞いた気がする――。
冷たい汗が背中を流れた。
戦える武器はフライパンくらいしかない。けど丸腰っていうわけにもいかず、手に取った。
玄関が開く。
「――貴文?」
そう、それはクリスマスに別れた元彼、貴文が我が物顔で入ってきたのだった。