テラーノベル
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驚いた私をそのままに、篤久様がワゴンからコースターを手にしてテーブルに置いたので、私は大慌てでアイスティーの入ったグラスをコースターの上に置く。
「座って」
これ以上、繰り返し言わせるのは申し訳ないので
「では……5分だけ、失礼します」
と私は、ダークブラウンのレザーに包まれたキューブ型のスツールに浅く腰掛けた。
「あれのところで会うようになって、池田って誰?となるだろうからね」
篤久様はちゃんと説明をしてくれるようだ。
「うちの会社のことは、どれだけ分かりますか?」
「どれだけというほどは分からないです。日本一のゼネコンって……ゼネコンはなんとなく分かるくらいに会社で聞きました」
「ゼネコンの下にサブコンと言われる会社があって、その下に現場を請け負う会社がいくつもあるという形でプロジェクトが完成すると思って」
「はい」
「池田の家は、サブコンの下で仕事を受注している建設会社でね、とてもいい仕事をする技術者を持ついい優良会社だと、サブコンの間でも名前が挙がる」
いい会社なんだ……
「池田が後継ぎだけど、そのあたりは微妙な噂になっているみたいだから実際には分からない」
「噂はいつも微妙……」
「ははっ……それはその通り。彼が社長になって何が出来る?と言われ始めているらしい。技術的な知識も財務知識も特化したものがなく、名前だけの社長になりそうだから、技術者は離れるというのが予想される」
私はアイスティーを一口飲んでから
「技術者という方たちがいないと、仕事が出来ない……ということになりますか?」
と分かる範囲で質問する。
「出来ないね。池田の会社はどこかの会社に吸収されるんじゃないかと、俺は個人的に予想している」
「それは……遥香様の婚約者様の会社としては、問題ないのでしょうか?」
「本人たちはあの調子で何の危機感もない。父や俺も構わない。あれの結婚は、あれが中園から池田の人間になるだけのこと。会社は全く無関係だよ」
遥香母子のうち、一人を厄介払い出来るくらいの感覚でおられるのかな。
まあ、そこは私にはどうでもいいこと。
池田が何者かが少し分かれば、落ち着く部分がある。
あ……でも一応……情報をいただいたのに、あとで何も言わなかったと思われては不利になることもあるかな……
「私、池田様と以前アルバイト先で会ったことがありました。だからここでまた会ってとても驚きました」
「すごい偶然だね。何のバイト?」
「レストランのアルバイトです」
「レストランね。そういうところが、池田の評価になって微妙な噂になっている」
「と言いますと……?」
「バイト選びも、大学の専攻も、会社を継ぐつもりがないのか?と思われるものだったということ」
「そうですか…私は大学とか専攻とか全然分からないですけど、篤久様は中園建設工業に活かせる勉強をされていたのですか?」
半分以上飲んだアイスティーに、味変のように少しシロップを入れた篤久様は、それをストローで混ぜながら頷いた。
「高専って分かる?」
「はい。5年間の…」
「うん、そこで建築学を専攻して、そうだね……簡単に言うと都市計画とか建築環境とかを専門的に学んで技術者としての資格もいくつか取ったあと、卒業時に大学3年へ編入した。学ぶことはいくらでもあるからね。今も、父と叔父と一緒に地下から昔の資料を調べているけど、そこからの学びもあって終わりがない」
眩しい……私は
「篤久様、休憩をいただきありがとうございました。キッチンへ戻ります」
と彼が最後のアイスティーを吸った途端にグラスを回収して、急いで部屋を出た。
はぁ……嫌がらせ行為を喜ぶような毎日を送る私には眩し過ぎる人だ。
コメント
3件
池田ヒモ男じゃなくて、一応ぼんぼんだったわ😂でも能無しみたい😏あれとお似合いすぎ✨ 篤久様の笑ったの初めて見た!笑うんだ! 篤久様は中薗を継ぐためにしっかりと地に足をつけて、地道に努力してる。確かに眩しいね…真奈美ちゃん。 とりあえず、バイト先で一緒だったことを伝えられてよかったと思う。 今後もこうやって5分休憩を共にすることが増えていくんじゃないかな。気をしっかり持ってね!!!なにか揺れ動く気持ちを持ってしまいそうならば…全て終わってから、だね。
篤久さんとの出逢いで真奈美ちゃんの気持ちの中に余裕が出来たら良いよね。