タールを倒した佐川。
時は医療室に遡る。
このグローブの発動条件を探っていた。
右手で拳に力を込める。
正拳突きをする。
拳の波動が発生。
拳の力加減で、威力と大きさが調整できることがわかった。
10回くらい弱い威力でトライすると、ある出来事に気付く。
それは拳に当たる水滴も拡散することがわかった。
このグローブは、水も拡散いや増幅機の役割を担っている。
机の上に灰皿を見つける。
その横にはマッチ箱が置いてあった。
試しにマッチをグローブで殴ると火が前方へ弱弱しく、広がった。
これだと、佐川は増幅機能と確信した。
佐川は膝に両手をつき、肩で呼吸していた。
すると、右手のグローブは消えてしまった。
突然の出来事に動揺するが、心配は気苦労に終わる。
A4の紙が佐川の目に止まり、元の字が表示された。
「衝撃は、人を守り」
「罪には、制裁を与え」
「拳を飛ばすは、人に制裁を」
不思議な力と感じたが、頭が働かない。
何か甘いものを食べたい気分になる。
こんなことなら、家を出る前に冷凍庫のアイスを食べればよかった。
家族のことが心配になり、力を振り絞る。
足がガクガクと震えている。
まだ高校生だ。
意味不明な事件に巻き込まれ、錯乱せず冷静を保つ自分が怖くなった。
「早く、家族の無事を確認しない」
あれから1時間半が経つ。
グーンとイリがまだ俺を捜索しているはず。
ぼやぼやしていられない。
佐川の震えが止まった時、紙に文字が印字された。
「何、何」
「タールとは」
文字の意味がわからない。
タールの意味を考えていると、左腕が光り出した。
眩しい光で目を閉じた。
目を開けると、クロスボウが装着されていた。
ブリキのおもちゃみたいだ。
佐川は少し考える。
つまり、タールの力が紙に吸収されたということか。
「その力の発現条件は、言葉を口にするだな」
クロスボウを観察するが、矢がない。
すると、紙に字が刻まれた。
「タールを知らぬ者、真の力は得られない」
その文字はすぐに消え、クロスボウも消えてしまった。
グローブは出せるのだろうかと疑問に思い、発動条件を口にした。
急な吐き気を催した。
口から出たのは、黒い血だった。
どうやら、グローブも回数制限があるようだ。
クロスボウ、グローブは使えない。
これ以上の戦闘は避けるべきだ。
「タールを知るぬも何も初対面で、奴のことなんぞ知るか」
目の前にあった紙は消えていた。
ポケットの中に手を入れると、四つ折りの紙が出てきた。
紙の消失と定位置に戻る機能を確認した。
サーザスみたいに指パッチンで、自動で現れてくれる機能はないようだ。
浅く溜息をつき、また走り出した。
「今度の目的は、佐川家の安全確認だ」