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「雨宿り」
今日は学校で2年の進路説明会があったので、1年生である僕達は説明会の準備を手伝った後、岩田達と帰路についていた。
右手から山内、岩田、僕と並び、三人でゆっくりと坂を下った。
「2年、もう進路説明会やるんだなぁ。」と岩田が言った。
「確かに他の高校とは違うよな。」と僕が言うと山内が「そうそう。」と言わんばかりの口調で、話しを続ける。
そして、僕らは「早過ぎ」だの「2年生で入試のことを考えたくない。」などの自らの意見を口走った。
結局、僕達は人生二度目の「入試」と言う地獄期間を再び味わうのが嫌なだけなのだ。
2年生からの進路説明会への不満のネタが無くなった僕達は自然と次の話題に移った。
僕達が昨日放送されたアニメの最新話の話で盛り上がっていると、僕の鼻の上に一粒の水滴が落ちた。
僕と同じく異変に気づいた岩田が「走ろうぜ。」と言った。
僕らが走ってる間にも、弱かった雨が次第に強くなり僕の提案で、僕達は「嘉村堂」で雨宿りすることにした。
僕達は雨の中を三人で走り細道を抜けて、「嘉村堂」がある通りに出た。
嘉村堂の戸を「ガラガラ」と開けて店内に転がり込み、僕達は中央の椅子で一息ついた。
すると、座敷の奥から菊さんが出てきて「あら、今日は大人数ね。」言って、状況を察した菊さんは僕達に一枚ずつタオルを出してくれた。
「ありがとうございます。」山内と岩本が感謝の意を述べると、菊さんはいつもの調子でにっこりと笑みを浮かべた。
「風邪を引かないように、しっかり体を拭きなね。」
と優しい口調でゆっくりと告げた後、会計台にチョコンと座り、ラジオを聞き始めた。
僕達は雨で濡れた体を拭き、雨の音に吸い込まれるように黙り込んだ。
外はまだ激しい雨が打ちつけていて、まだまだ雨が止みそうに無い。
「雨でも楽しみ方は沢山あるねぇ。」と言いながら、さっきまでラジオを聞いていた菊さんが出てきて、空いていた椅子に座り僕達と一緒に黙って雨の音に耳を向けた。
「嘉村堂」の店内には雨の音が響きわたり、とてもゆっくりと時間が流れていくように感じた。
「あっ、そうだ。菊さん、ラムネ3本貰える?」と聞くと、菊さんがラムネを三つ持ってきてくれた。
「お代はいらないよ。」
「えっ、良いの?」と聞くと、菊さんはゆっくりと頷いた。
二人にラムネをあげると、またあの名前の分からない道具を使って、瓶を開ける。
「ポン」というラムネ瓶を開ける音が雨の音と重なって、店内に響きわたった。
菊さんはまたラジオを聞き始めて、僕達はラムネ瓶を手にさっきまでしていたアニメの話しで盛り上がった。
座敷の時計が5時半を指そうとしたとき、外から光が射してきた。
3人で外に出て見ると、さっきまであんなにひどかった雨が上がっていた。
「お~晴れてる、晴れてる。」と岩田が言うと、山内が続けた。
「雨に濡れたのは嫌だったけど、何だかんだ楽しかったな。」
「それな!!」と岩田と僕が声を合わせて答えた。
雨が上がった町の姿は、太陽の光が照らし、町ごと洗濯されたみたいに綺麗だった。
そのあと、僕達3人は菊さんにお礼を言った後「嘉村堂」を後にした。
「たまには、雨も良いもんだな。」と思った。