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優馬と莉子の花言葉を通した交流は、優馬の日常を少しずつ変えていった。
学校へ向かう道も、ただの通学路ではなく、今日の莉子の花束は何だろうかと想像する時間になった。
莉子の花束は、優馬にとって、単なる花の集合体ではなく、物語の始まりだった。
ある日の昼休み、二人はいつものように校舎裏のベンチに座っていた。
莉子の膝には、小ぶりのひまわりと、力強い緑の葉が添えられた花束があった。
「今日の花束は、すごく元気な感じだね」と優馬が言う。
「うん、そうなの。このひまわりはね、もうすぐ始まる夏が待ち遠しい私の気持ち。でも、ただのひまわりじゃないんだ。花言葉は『未来を見つめて』」
莉子はそう言って、優馬の方を向いた。
「ねえ、優馬くんは、将来の夢とか、何か熱中していることとか、ないの?」
莉子のまっすぐな瞳に、優馬は言葉に詰まった。
部活動に打ち込む友人、志望校を決めて勉強に励む友人。
周りが明確な目標に向かって走っていく中、優馬だけが立ち止まったままだった。
そんな優馬の空虚さを見抜いているかのような、莉子の問いかけだった。
「えっと…特に、ないかな」
優馬は俯きながら、小さく答えた。
莉子は、少し悲しそうな顔をした後、再びひまわりの花束に視線を戻した。
「私ね、病気だから、できることが限られてる。でもね、毎日こうして花束を作って、色々な花言葉を調べて、物語を考えるのがすごく楽しいんだ。私にとっては、これが未来を見つめること。明日も、明後日も、花束を作っていたいって思うの」
莉子は、決して重くならないように、軽やかな口調で自分の病気のことを話した。
しかし、その言葉の裏側にある、病気と向き合いながらも、希望を失わずにひたむきに生きる莉子の強さを、優馬は感じ取った。
莉子の言葉を聞いていると、優馬の胸は締め付けられるような焦燥感でいっぱいになった。
莉子は、限りある時間の中で、たった一つの楽しみを大切に育んでいる。それに比べて、自分は無限に広がる未来を前に、何一つ行動しようとしない。
放課後、優馬は校舎裏のグラウンドで練習に励むサッカー部の友人たちを見た。
彼らのユニフォームは泥まみれになり、汗でぐっしょり濡れていた。
それでも、彼らの表情は充実感に満ちていた。
優馬は、その光景を、莉子のひたむきな姿と重ね合わせた。
「泥まみれ」でも、彼らは誰よりも輝いているように見えた。
優馬は、自分の中にある空虚な感情に、どうしようもなく苛立った。
莉子は、自分の運命を受け入れ、未来を見据えている。
一方で、自分は、何とでもできるはずなのに、何もできていない。
優馬は、莉子のひたむきさが、自分を映す鏡のように感じていた。
それは優馬に、自分の進むべき道を考えさせる、最初のきっかけとなった。
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誤字等ありましたら、教えてくださると嬉しいです。感想なども大歓迎です!
また、今週中に時間をおいてこの小説は投稿し、完結します。最後までどうぞお楽しみくださいませ…