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熱帯雨林の奥深くにて──
ヘリコニア「逃げ切ったは良いものの、あんなことになるようじゃあの集落にはもう行けねえ…」
「恥を晒したのも全部あの小娘のせいだ!クソっ、クソ…」
「まだ俺は負けてねえ!俺は負けてねえからな!」
「大悪党になって絶対に復讐してやる…見てろよクソネズミめぇ…」
ポッケに手を入れながらトボトボ歩いて、クラシ地方の北にあるセルシティの外れ、人通りのない通路に着いた──
ヘリコニア(だークソ、もうこの街で盗みをするか…?いいや、この街でやると『地面の象徴』に見つかるか…?)
考えてるうちに、道端で商売をしている男性が目に入る…
男性「がんせきプレート!がんせきプレートはいかがですか!正体も行方もわからないという岩の象徴に深く関係するというすごいもの…らしい…ですよ!世界に1つしかありません!なんと15万円!買った買った…買ってください!」
しかし、買い手は現れない…
何故売れないかと言われれば、値段や声など色々あるがまず場所が悪いと一目で分かるだろう。ここは人通りの少ない通路。この街に欲しい人がいたとて、こんな場所でやったらそりゃ買い手といつまでも出会えない。
男性「あ、ああ…10万円!10万円に値下げしても良いですよ!なんなら、7万…、いや、5万円でも…」
「そこの方!そこの方もいかがですか…」
ヘリコニア(あ、俺か…)
「悪ぃが急いでるんだ、そいつは無理だ」
キッパリと断って素通りする。
男性「えぇっ!?あぁ、すみません…」
「もうダメだ…俺はおしまいなんだぁ…もう払えないんだ…」
その言葉を聞いて、ヘリコニアがピクッと足を止める。
男性「もう妻も治せず終わるんだあ…それどころか、食費もなかったんだった…ああ…もーむりだあ…おしまいなんだあ…もう、一家心中かなあ?…はあっ、俺の内臓を売り捌けば…」
ヘリコニア「…あー…」
素通りしようとしたが振り返る。
ヘリコニア「気が変わった、それ買わせてくれや。」
男性「え、ええっ!?本当に本当ですか!?」
男性の感謝の連呼と共に、がんせきプレートがヘリコニアの手に渡る。
ヘリコニア(ホントにこんな板に金払うべきだったのかねえ…ただでさえ無えのに…)
「あー、金なんてまた集めりゃいい。なんかべらぼうに気分良いし、何でもいいや。」
「セルシティ…しばらく物色してみるか?」
ルディアとコブシはコブシの家に着く。今思い出すと砂漠で倒れた後連れてきてくれたのはコブシの家のようだ。
コブシの家は他の家と同じく茶色の木材で組み立てられた、ログハウスのようだ。しかし他の家よりひとまわり豪華に見える。
ルディア「なんか結構…大きいね?」
コブシ「はは、そうかもね。さ、入って入って!」
コブシに背中を押されて無理やり入室する。
ルディア「おわわわわっ、おっおっ…お邪魔しまぁす!!」
コブシ「ただいま〜っ!」
?????「おかえり。客人かい?」
「ああいや、砂漠で倒れてた子か。」
玄関から右のリビングには、コブシと同じ髪色、肌色、ペイントで丸眼鏡をかけている男性が足を組んで座り、本を読んでいる。
ルディア「えっ、えっと…マフィア?」
?????「なっ…」
コブシ「あはは、よく怖いって言われるよ。仕方ない仕方ない。」
確かに身長とペイントと肌色、耳の綺麗なピアスのせいで、似合っているが少し圧を感じる印象を抱くだろう。
?????「…コホン、それは聞き流すとして…僕はデュランタ。一応学者をやっている。テキオリョクの民として、君を歓迎しよう。」
ルディア「えっと、よろしく?」
デュランタ「よろしく。君はどこからのお客だい?」
ルディア「セイザタウンから旅に来たよ!」
デュランタ「セイザタウンか…」
コブシ「そうそう。お堅そうに見えるけど優しいから、この人見知りのお兄ちゃんと仲良くしてやって!」
デュランタ「…」
ルディア「あははは、家の中見てもいい?」
コブシ「勿論!色々紹介しよっか?」
デュランタ「いいけど、あまり無闇に本や研究物に触るんじゃないぞ。」
家の中を見終え、元のリビングに戻ってきた…
デュランタはキッチンで皿洗いをしているようだ。
デュランタ「戻ってきたか、晩飯を作っておいた。食べるといい」
ルディア「わ〜、ありがとう!」
コブシ「お兄ちゃんのご飯すっごく美味しいから、食べてみて?あっ、嫌いな食材とかないよね…?」
料理を美味しくいただいた…
思い返すと、日中に食べた料理はデュランタのものだったのかもしれない。
ルディア「そういえばここ本いっぱいあるね。読んでいい?」
デュランタ「…コブシ、この子の丁寧さや器用さについては保証できるのか?」
コブシ「あっはは、まだちょっとわからないかも。」
デュランタ「…気になる本があれば、僕が内容を読み上げてやるから、触らないでくれると助かる。」
ルディア「えへ〜、そんなに信用されてない?」
リビング横の本棚を物色する…
ルディア「色んな本があるんだね〜…『象徴大全』…『等価交換』……『ダーティ災害』ってナニ?」
コブシ「知らないんだ?」
デュランタ「ポケモンが暴走する黒霧のエリアが現れる災害だよ。」
ルディア「!!」
デュランタ「丁度1年前ほどから突如発生し始めたんだ、原因も原理も不明。」
ルディア(1年前…丁度セイザタウンの災害が発生した時だ…あれは『ダーティ災害』ってものだったの…?)
ルディアの面持ちが一変し、ひとりでに緊張感が走る。
デュランタ「発生場所はランダムと言えるほど法則性がなく、街であれば森であり、海にだってできることもある。」
「ダーティ災害が発生すると、そのエリア内部のポケモンのうち誰か1匹が『オヤブン』と呼ばれる状態になる。眼は赤い光を発し体は肥大化する…それを倒すとダーティ災害は収まるんだ…骨が折れるが。」
「発生頻度はかなり多いから気をつけた方がいい。他に読みたいものは?」
ルディア「それをもっと詳しく聞かせて…」
デュランタ「…?いいが」
コブシ「熱心だね!お兄ちゃんの助手にでもなる?」
デュランタ「黙っていてくれ。ダーティ災害には『残影』という現象が発生することがある…ダーティ災害が起こってからそこで今までに発生した光景、主に人間の残影が…幻影となって現れるんだ。」
ルディア「え!?でも私はそんなの見てなかったよ!?」
デュランタ「?」
コブシ「ルディアちゃんもダーティ災害を見たことがあるの…?」
ルディア「あは、ちょっとね…」
デュランタ(…?セイザタウンのある四芒星型の岬の出入り口は砂漠で塞がれているはず、外へ出る機会は少ないだろう…セイザタウンでダーティ災害が起こったと言うのか?ならなぜ「残影」を目にしていないと…?現場にいた時間が短かった?)
(いや、考えても無駄か…?今すぐ解決すべき問題ではないな。)
「コホン、先ほども申したがダーティ災害は原因も原理も不明だ。ゆえ不気味で恐ろしい…何かを守りたい場合でなければ、安易に近づかない方がいい。」
「ダーティ災害が発生して壊滅的な被害を受けたところも…少なくない…もっと増えていくだろう。」
ルディア「…」
緊張した顔から一変し、体調が悪そうになっていく。
デュランタ「残念ながらこれ以上にわかっていることはないんだ。他に聞きたいことは…」
ルディア「…ない」
デュランタ「そうか。」
コブシ「どうしたの?体調悪い?」
ルディア「ちょっと、疲れすぎたのかも…」
コブシ「うんうん、無理もないね。砂漠を乗り越えてきたし、かなり歩いたんだから…あっ、寝るなら空き部屋があそこにあるから、自由に使って!ベッドもクローゼットも…」
ルディア「ありがとう」
淡々と感謝をこぼしながら、少しふらっとした様子を見せて空き部屋に入っていく。
コブシ「大丈夫かな…?」
デュランタ「ひとまず、今は休ませておいてあげよう。もう夜だしね」
夜の暗さが街を包む頃…
ルディアは家を出て、ひとりでに夜道を歩く…
高台となっている小山の上に座る。
ルディア(ここなら、星が綺麗に見える…)
ゼル《眠れませんか?》
ルディア「おわぁっ!?」
自分しかいないのに、ゼルの声が脳内に響く。
ゼル本体はセイザ森林で眠っているが、一番星の大剣についている『始まりの種』を通じてテレパシーが可能だったということを思い出す…
ルディア「ゼ、ゼル…?急に喋るのはやめてよね!」
ゼル《無理です、喋るぞと念を送ることも不可能なわけですから。日中に声をかけようかと悩みましたが、お友達との時間を邪魔するわけにはいかなかったので。》
ルディア「…」
ゼル《気分が浮かないようですね。恐らく、「ダーティ災害」の詳細を得たあたりから…》
ルディア「あはは、鋭いね…」
ゼル《無理もありません。きっと強く心に残ってしまっていることでしょう…》
ルディア「…」
星空を見上げる。
ルディア「昔ね…夜中にこっそり抜け出して、ツゲ達と夜空を見てた事があって、その時間が好きだった。」
「勝手に星座作ったり、草原をごろごろ転がったり…ちょっといたずらしたり。ちょっとした悩みを相談することもあったかな。」
「ロベリアは大体訳わかんないこと言ってて、ツゲはいつも通りだったけど、サルビアはめちゃくちゃ大人しくなってた…と言っても、なんかサルビアには断られるから2回しか連れてけなかったけど。」
「夜の空って綺麗で綺麗で、みんなまでいつもより綺麗に見えたの…」
「でも星空と違って、みんなの笑顔はもう見れないかもしれないんだ」
空に手を伸ばし、一番星と手のひらを重ねる。
ルディア「私…悔しいよ」
ゼル《…》
《前を向きましょう。下を見ていては、綺麗な星も見えませんから。》
《いつか報われます…決して犠牲を無駄にせず、セイザタウンの人々の分まで生きましょう…》
ルディア「…うん」
ゼル《それにしても、貴女に星空を鑑賞する趣味があったとは。なんとも…感慨深い。私も星が好きです…》
ルディア「そうなの?じゃあ一緒に観よっか。」
「…そういえば景色、見えてるの?」
ゼル《残念ながら、始まりの種から一定の範囲の状況を知覚できるだけで光景を見る事は不可能です。》
ルディア「えー、残念だな…せっかくまた星空を見れる仲間ができたのに…」
ゼル《私は休息へ徹するゆえ始まりの種への干渉を明日まで中断します、何より…今のあなたは一人の方がいいでしょう。》
《私だけではなく、貴女も休息を取るべきです…人の子よ。》
ルディア「そっか…じゃ、また明日ね。」
「…」
「…ふぅ」
「…」
大の字で寝っ転がる。
浮かない表情で、星空を見ている…
夜空に覆われる感覚に襲われ、虚しさと懐かしさが滲み出る。
何を奪い去られても、この満天の星空はあの時と変わらない。
星空を、見ている…
翌日…
ルディア「ふぁ…おはよう…」
コブシ「おはよう!」
デュランタ「おはよう、朝食は作ってある。」
コブシ「よく寝れた?あの部屋、たまに掃除はしてるけど埃っぽくないか心配で…」
ルディア「全然大丈夫だったよ!まぁもし環境が悪くたって全然寝れるし。」
コブシ「ならよかったけど、寝る場所はきちんとしないとダメだよ?」
朝ごはんを美味しくいただいた…昨日と同じく美味しい。
デュランタ「君はいつまで泊まることになるんだ?」
ルディア「うーん、うーん?とりあえず今日まででいいかな、うまくいけば。」
コブシ「そっか…そのあとはまたどっかに旅に出ちゃうの?」
ルディア「多分ね。」
コブシ「そっかぁ…」
デュランタ「了解…そうだ。今日僕とコブシは『象徴選抜』と言う儀に出るから、あと5時間ほどで家を出て1から3時間ほどは家を空けることになると連絡しておこう。」
ルディア「象徴選抜?」
デュランタ「名の通りだ。『天変地異』以来、妖の象徴は誕生していない…それを生誕させる儀式。1年に1度やることになっている。」
ルディア「あ、私もそれ行くことになってる!」
デュランタ「あぁ、そう……ん”ん”!?」
コブシ「ぶひゃぁっ!?けほ、けほ!」
コブシが飲んでいた水を吹き出す。
二人とも非常に強く動揺した様子を見せている。ルディアから完全に予想外の言葉が飛び出たからだ。
コブシ「嘘でしょっ!?」
デュランタ「あの儀式がどんなものか分かって言っているのか!?」
ルディア「え、なんとなく…?どうしたの、そんな慌ててさ」
コブシ(『明日にプレートが手に入る』って、象徴選抜の報酬だったの…?プレートなんていう貴重なものを渡すって言うと、成功した報酬だよね?こんなこと言いたくないけど…象徴選抜の成功なんて無理じゃない!?)
デュランタ「象徴選抜の儀は200年もの間成功していない。毎年行っているのにも関わらずだ。初参加で一発成功だなんて夢を見るのは程々にしておいた方がいい…それとも確率で言わないと実感できないか?成功確率は2%ほどだと言っていい。」
口調はいつもより圧を感じる。
デュランタ「素人が参加するのは断固厳禁で手練れの数人で行うことになっている、それほど危険なんだ。君の腕前によってはここで死ぬこともあり得るんだぞ。」
「もう一度問おう、本当に参加するのか?」
ルディア「するよ。絶対成功してみせるから…失敗したらその時はその時だし、やらない理由なんてないよ。」
デュランタ(こいつ…イカれているのか?)
コブシ「ほんとにほんとに、ほんとに言ってるの…?」
ルディア「『危険』だとか『死ぬかもしれない』だとかが私を止める理由になると思ったら大間違いだからね?むしろ、その話なら2人が参加することの方が危ないんじゃない?」
デュランタ(やっぱりイカれてやがる…)
「まあいい、そんなに死地に身を投じたいなら止めない。今年も僕とコブシのみで行うことになっていたが、君も参加すると言うことにしよう」
「僕は君の命もできる限り守るが、コブシを最優先で守る。ゆえに安全性の保障はできない、参加するならそれを了承してくれるか?」
ルディア「おっけー、守ってくれなくても多分大丈夫だけどほんの少しでも守ろうとしてくれるだけで十〜分ありがたいよ。」
デュランタ「全く、その自信はどこから来ているのだか…」
ルディア「えへっ、羨ましい?」
デュランタ「全く。僕が君のような人間じゃなくてよかったと実感するよ」
コブシ「ちょっとお兄ちゃん、挑発口調にならない!」
デュランタ「そんな意図はなかったのだが…」
コブシ「それにしても、長老様に提案されたってことだよね?こんな提案だなんて…」
デュランタ「やはりそう言うことか。あの老いぼれ様も性格がつくづく悪いな…」
コブシ「ちょっと、老いぼれだなんて!」
ルディア「ねえねえ、5時間後に家出るんだよね?」
デュランタ「ああ、しかし象徴選抜では戦闘の必要がある、君の戦闘力が不安なんだ。だから出発前に君の腕前を見ておきたい。」
ルディア「えーっ、私がそんなに弱く見える?」
デュランタ「そう言う話じゃない。量っておきたいだけさ」
「僕の”特性”についても教えておかねばならないからな。」
ルディア「特性?えっと、ポケモンの?」
コブシ「ああ、知らない…の?まぁダーティ災害の知識がなかったなら、特性も知らなくて当たり前か。」
デュランタ「特性はかいつまんで言うと、人にポケモンのような『特性』…能力が宿る力だ。話すと長くなるから後で説明するが、魔法のようなものと言っていい」
ルディア「そんなものがあるの!?」
デュランタ「ああ、ある…そうだな、詳細は君の腕前を見た後に話すとしよう。」
ルディア「私もその特性ってやつ使えるようになる!?」
デュランタ「…後で話すと言っているだろう。」
コブシ「気になるだろうし、早く知るためにも早速腕試しと行こっか?庭に殴れるものがあるんだ、木と藁とかで作ったカカシみたいなやつがね。」
「善は急げ、だよ!早く来て!」
コブシが裏口に駆け出す。