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――これは……。
渡慶次はコクンと唾液を飲み込んだ。
――どっちが正解なんだ?
返事をするのが正解か。
それとも黙り込むのが正解か。
どっちだ。
どっちで――助かる?
「返事をして」
その時、耳元で声がした。
――知念……?
姿は見えない。でもすぐ近くにいるのはわかる。
「早く」
渡慶次はその声に導かれるように口を開いた。
「はいっ!」
『―――――』
女教師の声は、それきり聞こえなくなった。
ゆっくり、
ゆっくり白い粉が作った霧が晴れていく。
丸い物を持った女教師の姿がはっきりと浮かびがった。
「……うッ……!」
渡慶次は吐き気を飲み込みながら口を押えた。
女教師が両手に持っていたものは、渡辺と中村の首だった。
「―――落ち着いて」
すぐ後ろに立っていた知念が、渡慶次の背中に手を当てた。
「ゆっくり深呼吸。彼女を怒らせないで」
「――――」
何でこの男はこんなに冷静でいられるのだろう。
渡慶次はいぶかし気に知念を振り返った。
しかし目が合うことはない。彼は大きく真っ黒な瞳で、ただ女教師を睨んでいる。
『――ねぇ、煙草のにおぃがしなぃ?』
女教師は、渡辺のものとも中村のものともわからない返り血を浴びた鼻をヒクヒクと動かした。
「しますね」
知念が静かに答えると、彼女はいっそう鼻を引くつかせた。
『誰かしら?ぉしぉきをしなぃト』
女教師は言うなり、持っていた頭をぐしゃっと脇に落とした。
そして臭いの方向を探すように顔を左右に捻りながら歩き出した。
少しずつ、少しずつ、
女教師の姿が遠くなっていく。
――助かった。
渡慶次はガクガク震える膝に手をついた。
後ろで知念も短く息を吐く。
「つまり『返事をする』ってのが、女教師の攻略法ってことかよ」
独り言のように呟いた渡慶次の声に、
「まあ、1つはね」
知念がやけに知ったような口をきいた。
「1つはって―――」
『渡慶次くん?』
空気が止まった。
廊下の向こうに消えたはずの女教師は今、渡慶次の真後ろにいる。
「――――」
廊下を抜けたふりをして下駄箱から回り込み、2人の背後から接近してきたのだ。
渡慶次は青ざめたまま、女教師を振り返った。
『この髪ッて――地毛なノ?』
女教師は渡慶次の茶色の毛束を掴みながら言った。
―――これは、どうするのが正解だ?
正直に「染めてます」というのが正解か?
それとも父親がイギリス人ですとか見え透いた嘘で誤魔化すか?
――いや、どっちもアウトだろ。
渡慶次は半ばあきらめて女教師を見上げた。
しかし―――。
ピンポンパンポーン。
校内放送が鳴り響いた。
『橘先生、橘先生、校長先生がお呼びです。至急3階特別室まで来てください』
「校内放送……!?」
渡慶次がきょろきょろと見回す脇で、知念はただ目を見開いてスピーカーを見上げている。
渡慶次は静かに視線を女教師に戻した。
すると、
女教師は急に身体をくねらせた。
そうか。
橘先生。
この女のことだ。
彼女はいそいそと白シャツの胸元を正すと、
『ぃそがなくッちヤ!』
腰をフリフリと振りながら今度こそ廊下を歩いて行ってしまった。
ピンポンパンポーン。
続いてもう一度ベルが響き渡った。
『生き残った生徒の皆さんは、放送室まで集まってください。』
男の声。
「……誰だ?」
渡慶次はスピーカーを見上げた。
『――集まり次第、このゲームの攻略法をお教えします』
――攻略法?
そこで放送は切れた。
「……攻略法って……?」
呟いた渡慶次に、
「とりあえず放送室に行ってみよう」
知念が答えた。
床に転がっている頭の盗られた死体を跨ぐ。
2体の死体はかばい合うように抱き合いながらうつ伏せで倒れていた。
◆◆◆◆
「放送室だってよ。比嘉ー、どうする?」
玉城がバスケットゴールに向けて煙草の煙を吐きながら言った。
「攻略法がどうとか」
照屋もステージから脚を投げ出して比嘉を振り返る。
「別にいいんじゃね?ゲームはガキたちに任せとけば」
同じくステージから足を下ろして座っている比嘉は、自分の股間の前で一生懸命前後している頭を掴んだ。
「こっちは大人の遊びとしけこみましょー?」
そう言いながらにやりと笑った比嘉を、
彼のモノを咥えた女はギラリと睨んだ。