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横長の穴、冷たい石の上に座り考える優恵楼(ゆけろう)。
もうゾンビもスケルトンも追ってきてない…はず。だから今出て行っても大丈夫な…はず。
なにもハッキリとしない。ただハッキリしていること。
それは優恵楼がまだゾンビやスケルトンに恐怖しているということ。
もうさすがにいないだろうと思っても腰が上がらない。足が出ない。
しばらく後頭部を石の壁につけ、冷たさを味わったりし、考える“フリ”をして
「よしっ」
ようやく重い腰を上げ、立ち上がる。高さ3メートル、3ブロック分の横穴。
壁に松明を設置しながら奥へと進んでいく。暗闇が続く横穴。
進んでいくと1段下がった。1ブロック1メートル。
何度だって言うが、下がるのだって割と苦労するし、それに加えて暗闇の中である。
いつどこに穴が空いているかわからない。いつも以上に慎重に、たかが1ブロック、1メートル下る。
そしてしばらく歩くとまた1ブロック下がっていた。そうして徐々に、なだらかに下っていった。
すると奥の方にぼんやりとした暖かな光が見えた。そちらの方へ近づくと開けた場所に出た。
そのぼんやりした暖かな光の元はマグマ、溶岩溜まりだった。
ポクポクという沸々とマグマ、溶岩が湧き出る音が響く。
マグマ、溶岩溜まりの表面には小さな半円が浮き出てきて
パツンッっと破裂する現象が至るところで起こっていた。
「あぁ〜、ちゃんと見てなかったけど、溶岩溜まりってこんな神秘的で綺麗だったんだ」
マグマ、溶岩溜まりに近づく。サウナ室の扉を開けたときのような熱気が優恵楼の顔に襲いかかる。
「あっ、ついねぇ〜」
しゃがみ込む。より熱気が伝わる。ポコポコしているマグマ、溶岩の表面を眺める。
よくテレビやMyPipeなどで視聴率が謎にいいのが
焚き火などの火の揺らぎなんて話を聞いたことがあるかもしれない。
パチパチという薪や木の枝、松ぼっくりに火が浸透し、灰になり折れるというのか割れる音。
そんな非日常的、だけど親しみがあるような映像と音が人の心を掴むのだろう。
そんな人々の心を謎に掴む、謎に癒される映像や音にだいたい関わっているのが
「1/fゆらぎ」というもの。「1/fゆらぎ」というのはクラゲや焚き火、川など
基本的に自然界見られる予想のできないゆらぎのことをいう。
それは視覚だけでなく聴覚にも働きかける。木々とその木々をそよがせる風のコラボレーションの音。
要するに「1/fゆらぎ」とは人を癒すもの全般に適応されるといっても過言ではない。
優恵楼(ゆけろう)もまさに今、その1/fゆらぎに癒されている。
マグマ、溶岩の表面の蛇がうねうねと動くような、でも蛇のように規則性があるわけではなく不規則なうねり。
ポコポコと湧き上がって膨らんでは、小さな火の子を吐き出しては萎む半円たち。
そのポコポコという音。視覚的にも聴覚的にも1/fゆらぎを感じる。
あぁ〜…。はぁ〜…。なんか、だいぶこの世界に慣れてはきたけど
いつまでこの世界で暮らすんだろ…。…ずっと?
まだ死んだことないけど、もしかしたら死んだら元の世界帰れたりする?
ハードコアモードだったりする?1つ切りの命だったりする?
…でも死ぬ勇気ないしな…。どっちにしろ死ぬの怖いし…。スケルトンの矢とか
思い出し背中を見る優恵楼。しかし背中に刺さっていた矢はもう消えていた。
刺さった…よな?ちゃんと痛かったし。ちゃんと痛いってことは…夢、では、ないんよ…な?
この世界に来たときのこと。もうこの生活に慣れ始めていること。
元いた世界のこと。そんなことに想いを馳せる優恵楼。
父さん…オレが事故に遭って会社休んじゃったのかな…。家計を支えてくれるのに申し訳ない…。
母さん…心配性だからな…。ちゃんとご飯食べれてるかな…。心配です。息子、心配してます。
姉ちゃん…あの人人使い粗かったなぁ〜…。弟ということをいいことに
やれ充電器取って来いだの、飲み物取って来いだの…。
あぁ。横暴な人こそ、こーゆーときによく思い出すってか。皮肉だわ…。
あの人、大学でよく飲んで帰ってくるから、危なくて仕方ないんだよな…。
無駄に顔いいから、変な男に変なことされないように。弟、心配です。
兄ちゃん…若くして結婚して、実家離れて、奥さんと赤ちゃんのために仕事してお金稼いで。
オレの事故の連絡行っちゃったかなぁ〜…。ただでさえ、子どもまだ小さくて大変なときなのに
オレのせいで…申し訳ねぇ…。ごめんよ兄ちゃん。
んで高校…。あぁ。流来(るうら)、元気かな…。心配かけたかな…。悪いことしたなぁ〜…。
親友のことを思い浮かべた。優恵楼と流来は
達磨ノ目高校という高校の同級生、同じクラスの親友だった。出会いは中学1年生の夏休み前。
優恵楼(ゆけろう)はゲーム好きで、そんな少しインドアな趣味を持ったグループで固まり
流来(るうら)はイケメンで活発。カーストというものがあるとしたら1軍。
運動部や目立つメンバーと固まっており
たまに女子なんかも一緒にいるようなキラキラグループで固まっていた。
そんな関わりを持たなかった2人が、席替えで近くになった。優恵楼の斜め後ろに流来がいるよな席である。
優恵楼は目立つようなグループに入ってはいなかったが
決して真面目と呼べる生徒でもなかった。後ろの席であるということを良いことに
授業中に大好きなゲーム、ワールド メイド ブロックスをプレイしていた。
それを斜め後ろから見ていた流来が放課後、優恵楼に話しかけた。
「ワメブロやるんだ?」
今考えてみればワールド メイド ブロックスは
ゲーム実況者しかやっていない、パソコンでしかできなかった時代と変わり
今やパスタイム スポットでもサティスフィーでもできる時代。
やっていてもなにも不思議ではないのだが、優恵楼は
「え。もしかして杉木(すぎ)くんもやるの?」
と反応した。「見せてよ」と言われてワールドを見せた。
「スゲェ。マジ?これ大和木部(やまとぎべ)が作ったんだ?」
優恵楼は建築が得意だった。村人たちの家を作り直したり、街を作ってみたり。
そんな優恵楼(ゆけろう)に惹かれて流来(るうら)は一緒にプレイしたくなり
次の日サティスフィーを学校に持ってき授業中一緒にやろうぜと誘った。
そこから怖くない先生のとき、授業中に通信で一緒にプレイしていった。
流来は探索、資材集め。いわば冒険が好きで、優恵楼は建築が好き。
たまに一緒に冒険しに行って、優恵楼がスケルトンやゾンビなどにビックリして
授業中に机がガタンッ!という大きな音をさせ、先生を含め、生徒ほとんどの視線が集まり
「あ、すいません」
と言う優恵楼(ゆけろう)を見て流来(るうら)が笑ったり
建築のセンスがあまりない流来の変な建築物を見て優恵楼が笑ったり。
そんな中学生活を過ごしていた。そして高校受験。
真面目に授業を受けていないことが仇になり、受験に向けて猛勉強をしなくてはならなくなった。
そんなときも優恵楼と流来は一緒だった。図書室や自習室で勉強して勉強して
休憩にワメブロを一緒にして、大声で笑って怒られて。
志望校は一緒にした。それが達磨ノ目高校。お祭り事が大好きで校則が緩い高校。
見事2人とも受かり、一緒の制服を着て一緒の高校へ行けることになった。
高校1年の夏休み。流来が髪を赤く染めるというので付き合った。
イケメンだから似合ったが、金髪にした当日は見慣れない姿に笑ったりした。
授業の休み時間、お昼ご飯を食べた後の昼休み、一緒にワールド メイド ブロックスをプレイしたし
土日、春休み、ゴールデンウィーク、夏休み、冬休み、徹夜で建築したこともあったし
そんな長期休みなんて関係なしに、次の日も学校がある平日でも徹夜したこともあった。
…流来…
ナレーターも涙が出そうになる振り返りをしていたが
「あっ、ついわ」
さすがにしゃがんでマグマ、溶岩の近くにいたら、顔に熱気がずっと当たり、耐えられなくなった。
ナレーターの涙も引っ込むわけである。
「さてと…だいぶ下りてきちゃったわけだけども…」
右手の松明で周りを照らす。しかし松明の明かり程度では全然見えない。壁沿いに少し歩いてみる。
マグマ、溶岩溜まり周辺はマグマ、溶岩の明かりでぼんやり照らされているため
少し離れ、マグマ、溶岩の明かりが届かないところから壁に松明を設置していく。
天井こそ低いが、どうやら横には広いようだ。
「怖いよなぁ〜…」
時に言葉、思考は現実に影響を与える。首を横に倒し、バキッ。っと鳴らした瞬間
視線の左側をものすごい速さでなにかが過ぎ去った。音でわかった。
恐らく壁に刺さり、勢いで上下左右にビンビンと音をたてて揺れている。
振り返る。設置した松明の横に矢が刺さっていた。
矢…ということは…
ご名答!と言わんばかりに暗がりから、カランッ。カランッ。と骨を鳴らしながら
優恵楼が右手に持った松明の明かりが届く範囲に不気味に現れたスケルトン。
「っ…」
やはり恐怖。声も出せずに逃げ出した。逃げても無駄だということはわかっていた。
なぜならスケルトンは至る所に現れる。暗ければそこにスケルトンがいる。これ格言。
あ、あとゾンビとかも…他のモンスターもいます。これも格言。
走れば1メートルだって、助走があるのでジャンプで乗り越えられる。走った。とにかく走った。
「ウオォ〜…」
ゾンビの声に足はさらに高速で回った。無我夢中で、とにかく行けるところに走っていくと
横に長ぁ〜〜い、そして天井も高ぁ〜〜い渓谷に出た。渓谷とはいっても天井は開いておらず
どちらかというと大地を横に切り裂いたような、裂け目といったほうが正しいようなものだった。
相当な高さがあるのだろう。優恵楼(ゆけろう)が松明を天に向けてみるが、その光が届くことはなかった。
そもそも松明の明かりはそんなに遠くまで届くものではないが
ぼんやりとすら天井を見ることも叶わない高さのようだった。気づけばスケルトンの音もゾンビの声もしない。
その横に長い、高さも高い大きな裂け目に心を奪われていた優恵楼(ゆけろう)。
松明を壁に設置しながらゆっくりと裂け目を歩いていく。やはり天井はものすごい高さにあるらしく
そこそこ高い位置から流れているマグマ、溶岩の滝が見えたが
そのマグマ、溶岩の明かりでも天井はぼんやりとも見えなかった。
チャポチャポ、サーという音が聞こえる。どうやら水も滝のように流れているようだ。暗くて見えやしないが。
キーという声や微かな羽音も聞こえる。どうやら先程聞こえたチャポチャポという水の音は
コウモリが水浴びをしていた音のようだ。
「コウモリ。実際見たらたぶん怖いんだろうけど、今この状況だと声だけでも癒されるのはなぜだろう」
姿も見えないコウモリに癒される優恵楼。そのまま裂け目の探索に繰り出した。