玄関のチャイムが鳴る前に、扉が外側から勢いよく開いた。
「おーい、生きてるか!」
らんが大きなバッグを提げ、後ろには心配そうに手を合わせるこさめの姿。
入ってすぐ、ひまなつの胸に縋って泣いている幼児化したすちの姿が目に入り——らんは一瞬固まった。
「……マジでちっさくなっとるやん……」
驚愕しながらも状況把握は早い。
「こさめ、荷物そっち。俺はキッチン行く」
「う、うん……!」
こさめは小走りで袋をテーブルに置きながら、泣くすちを見て眉を下げる。
らんは持ってきた食材を手際よく広げる。
米、卵、野菜、飲み物、冷却シート……そしてすちが食べられそうな柔らかい具材。
「なつ、そのまますち見とけ。こさめは水分補給の用意。 俺はお粥作る。いるまはみこのとこ続けて」
「了解」
「はーい!」
「おう」
全員が即座に役割に散っていった。
寝室では、いるまが冷却シートを取り出し、みことの額にそっと貼っていた。
「……っ、冷たい……」
みことがかすれた声で眉を寄せる。
「我慢しろ。これで少し楽になるだろ」
いるまは水を飲ませ、スプーンですくったらん特製の嚥下しやすい薄味のお粥を口元へ。
「ほら、食え。栄養とらねぇと薬飲めねぇ」
みことは弱々しく口を開き、少しずつ飲み込む。
食べられたことを確認すると、いるまは褒めることも忘れない。
「そうだ、それでいい。偉いな、みこと」
その一言に、熱で弱ったみことの目から涙が一粒こぼれた。
「……すち……すち、泣いてない……?」
絞り出すような声。
「泣いてるしお前のとこ行きたがって暴れ気味だ。 でも今行かれたらお前がもっと悪くなる。だから……ちょっとだけ我慢な」
みことは目を閉じ、震える息で「……うん……」と答えた。
リビングでは、すちが必死にみことの名前を呼んで泣き続けていた。
「みこちゃぁ……!いくの……いきたい……! みこちゃ、しんじゃうの……やだぁ……!」
ひまなつは背中を抱き締めて宥めながら、優しく繰り返す。
「だいじょうぶ。いるまがちゃんと見てるよ」
そこにこさめもしゃがんで目線を合わせた。
「すちくん……今行ったら、みこちゃんもっと苦しくなっちゃうよ。 もうちょっとだけ一緒に頑張ろ? ね?」
すちは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま、肩を震わせ、ひまなつの胸に顔を埋めた。
「……みこちゃ……みこちゃぁ……」
ひまなつは小さい背中を揺らさないようにしながら撫でる。
「大丈夫。すちが泣いてるの、みことも悲しむよ。 一緒に待ってあげような」
こさめもすちの髪を優しく撫でる。
「みこちゃん、すちくんのこと大好きなんだから。絶対起きるよ」
その言葉に、すちは嗚咽を飲み込みながら、少しずつ泣き声を小さくしていった。
キッチンではらんが火加減を確かめながら、誰よりも冷静に状況を見ていた。
「ほんと手のかかる奴らだな……」
そうこぼしつつも、動きは一切乱れない。
「でもまあ……こうして全員で面倒見れてんのは良かった」
コメント
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こんな状況でもお互い心配するのが2人ともほんとに愛してるんだね(❁´ω`❁)