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どっと疲れを感じながら、叩かれた頭を抱えた。こんなことで泣いていたら身体がもたないとはいえ、痛みを感じないわけではない。
「ヴェルヘルミーナ様、お助けできず申し訳ありませんでした」
「いいのよ。あの程度なら慣れているわ」
ダリアに心配をかけまいと、なんとか笑顔を維持する。だけど、彼女は少し傷ついたような表情を浮かべて頭を下げた。
「それより、ステラ・シュタインのことを思い出してくれて、ありがとう」
「もっと早く申し上げるべきでした」
「そんなことはないわ。どのみち、あの人は私を叩かないと気がすまないもの。しばらくはステラ・シュタインのショールを自慢げにつけて、お茶会へ行ってくれるといいんだけど」
それも一ヶ月もつかどうか怪しいわ。
根本的に、継母を大人しくさせる方法が見つかればいいんだけど。例えば巷の小説のように、悪女を断罪するような事実が発覚するとか。
あの継母が自分の不利になるようなことを、晒すとは思えないけど……小さくてもいいから、なにか一つでも悪事を証明できないかしら。
椅子の背もたれに体を預けると、ダリアが「失礼します」と言って私の頭に手を添えた。
ズキズキと脈打っていた頭に、ひやりとした空気がのしかかる。でもそれは不快な重さではなく、じわじわと熱を包み込んで和らげてくれる心地よいものだ。
「ダリア。いつも、ありがとう」
「私の氷魔法が役立って光栄です。……頬も、腫れておりますね。そちらも冷やしましょう」
ダリアの白い手が、頬に添えられた。
熱を持った頬が赤く腫れているだろうことは、鏡を見ないでも分かる。毎日のように継母からどこかしらを叩かれ、蔑まれるのには慣れている。とはいえ、痛みに慣れるわけではない。
この痛みや熱を、ダリアは幼い時から癒してくれた。彼女がいなかったら、もっと早くにくじけて部屋の隅で丸まっていただろう。
痛みが引いていくと、自然と安堵の息がこぼれ落ちた。
「ありがとう。屋敷の皆を驚かせてしまうところだったわ」
「……そういうことではないと思うのですが」
「なら、どういうこと?」
「ヴェルヘルミーナ様は、ご自身がご令嬢であるということを認識されるべきです」
「それくらい分かっているわ。今、レドモンド家を支えられるのは私だけよ」
「そういうことでは……顔に傷がついたら、社交界に出るのが難しくなりますよ」
「社交界に出るのは、お継母様が許さないわ。私は、病弱で表に出せないってことになっているのだから」
継母は、私を嫁がせるどころか、表に出す気すらない。
嫁げといわれたとしても、そこだけは大人しく従う気はないけど。私がいなくなった途端に、継母が散財して家を潰しかねないし、セドリックが家に戻るまでに、なんとしてもあの人を追い出す手立てを考えないと……。
「セドリックが家督を継ぐまでは、私が家を支えるわ」
「しかし……」
「嫁いで家を支えるのは、最終手段よ」
次女という立場を考えれば、少ない土地を持参金として嫁ぐのが良いに決まっている。それも、レドモンド家に資金提供が可能な侯爵家へ。それが不可能なら、入婿を迎えるのも手ね。最悪、養子を迎えて、セドリックを補佐する地盤作りをしたっていい。
亡き父が持っていた複数の爵位から子爵位を継げたのだから、そこを大いに利用することも考えている。私にはとても厳しかったお父様だけど、レドモンド家とセドリックのことは、しっかり考えてくれていたのだろう。
ほんの少しの寂しさを感じながら、それでも感謝の気持ちが胸に沸いた。
お父様から受け継いだ爵位のおかげで、私はまだ戦える。
「でも、このままではご結婚の適齢期を過ぎてしまいます」
「それは……ペンロド公爵夫人も、適齢期を過ぎてのご成婚でしたけど、立派にお家を支えていらっしゃるでしょ」
「ここでもペンロド公爵夫人、ですか……」
心底嫌そうに、ダリアは顔をしかめた。
昔から、彼女はペンロド公爵夫人にあまりいい感情を持っていない。曰くありと云われ続けたペンロド公爵家を立て直した、ご立派な方なのにどうしてなのか。
ペンロド公爵家は何代も子宝に恵まれず、公爵家の中では領土が少なく財力もないと云われてきた。そこに嫁いだのが、二十三歳だったペンロド公爵夫人であるドロセア様だった。
当時、口さがない者たちが「ペンロド家はまた若い娘を迎えられなかった。子に恵まれない呪いでもかけられているのだろう」と、笑ったらしい。だけど、夫人はそれから三十五歳を迎えるまでに、三男五女に恵まれた。
「凄いのは子宝の話だけじゃないわ。夫人の手腕で、ペンロド公爵家は有力貴族や他国と繋がりを持てた。今や第二王子の後ろ盾よ。結婚適齢期が十八歳なんてことはないわ」
人と違うことを成せば、悪い評判が立つのも仕方ない。私としては、そこではなく実績を評価しているだけなんだけど。この話になる度に、ダリアは気に入らないとばかりに、眉間にシワを刻む。
「確かに、ペンロド公爵夫人は凄い方だと思います。でも、その急成長ぶりを妬む貴族も増え、危ういお立場になったではありませんか」
「そうね……でも、家を守るにはそうするしかなかったんじゃないかしら?」
「お家のためとも考えられますが」
「私たちにとって、結婚ってそういうものでしょ」
有力貴族は諸侯、他国の姫君を迎えることで領地を広げ、財力武力を成す。そうして、夫人は子を成してその手助けをする。それが淑女の役割であり幸せなのだと、私も幼い頃から教育を受けてきた。
結婚していない私では、そこに幸せがあるかなんて分からない。でも、セドリックの為に家を守れることが、今は何よりもの幸せだと言い切れる。
その為に政略結婚が必要というなら、きっとそこに幸せがあるんだわ。
コメント
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第9話読み終えたよ!ヴェルヘルミーナ、継母に叩かれても「慣れてる」って言い切るところがもうね…胸がぎゅっとなった。でもダリアが氷魔法でそっと冷やしてくれるシーン、優しさが染みるわ。何より「家を守れることが今は幸せ」って台詞、セドリックのために戦う覚悟がひしひし伝わってきて痺れた。ペンロド公爵夫人の話も気になるし、ヴェルヘルミーナの選択がどう転ぶか続きが待ち遠しい🔥