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夜の空気はほんの少し涼しくて、部屋の中の熱気がその分だけ心地よく感じられる。いれいすの6人が集まったのは、久々の完全オフにかこつけた宅飲み会だった。
テーブルの上には唐揚げやピザ、コンビニで買ってきたスナック菓子。そして、あちこちに散らばる缶チューハイやビールの缶。
「乾杯ー!!」
いつものように盛り上がるみんなの中で、初兎は少し控えめにグラスを傾けていた。一方、すでに数杯目に突入しているりうらは、目がとろんとしていて、隣に座る初兎にもたれかかる勢いで身体を傾けていた。
「なぁ〜……しょーちゃん……んふふ、初兎くぅん〜……なんでそんな遠いの……?」
「遠くないし、むしろちょっと寄りすぎ。りうら、顔赤すぎやって。飲みすぎ」
「だってぇ……なんか、今日の初兎ちゃん、いつもよりかっこいいんだもん……。ずるい……」
「は?」
初兎は一瞬フリーズした。が、すぐに「あーはいはい、酔ってる酔ってる」と苦笑して缶を取り上げる。
「飲みすぎはだめ。はい、お水飲んで」
「やだ〜……初兎ちゃんが飲ませてくれるなら、飲む……」
「は……!? ば、バカやん……!」
顔を真っ赤にしたのは初兎の方だった。思わず目をそらすが、りうらは嬉しそうにくすくす笑って、今度は初兎の肩に頭を乗せてきた。
「んふ……ここ、落ち着く……なんか、初兎ちゃんの匂いする……」
「ちょ、ちょっとりうら!? だから距離感バグってんやってば!」
そんなやり取りに、ないこがクッションを投げながら茶々を入れてくる。
「りうら、完全に酔ってるな~。初兎、責任取って添い寝してあげな?」
「するわけないやろ!! っていうかなんで俺が!?」
「え〜〜? でもりうら、めっちゃ幸せそうな顔してるよ?」
「……も、もう知らん……」
初兎はそう言いながらも、そっとりうらの頭を支え直してやる。りうらは目を閉じて、初兎の胸元に顔を寄せながら、ぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、初兎ちゃん……好きだよ……」
それが本気か、酔いの冗談か、本人にも分かっていないのかもしれない。けれど、初兎の胸は、なぜか小さく跳ねた。
(……ずるいな、お前)
心の中でそう呟いたまま、初兎はりうらの頭を撫でる手を止められずにいた。
りうらの体温がじわじわと肩から伝わってくる。初兎はどうしていいか分からず、目のやり場に困っていた。
「……な、なあ。もうちょっと離れろって」
「やだ……。だって、初兎ちゃんのとなり……あったかいし……」
「おまっ……! マジで……!」
そのときだった。
「おっ? おっ? 初兎が顔赤くしてる~!」
向かい側から、にやにやした顔でないこが身を乗り出してきた。手にはスマホ、完全に動画を撮る気満々である。
「やーば、これ配信外で見るのもったいないな〜。“りうらくん、酔って甘えんぼになる”ってタイトルで出したらバズりそう!」
「やめろ! ふざけんな、マジでやめろ! 削除しろ今すぐ!」
「えー? でもこれ、初兎がりうらの頭なでなでしてるやつ、尊すぎて俺の心が耐えられん……!」
「してねぇから!! 無意識にやってただけやし……っ」
「無意識って、それもう本能じゃん。やば……お前ら付き合ってんの?」
「ち、ちがうし……!」
初兎の声が上ずるのを聞いて、ないこは楽しそうにクッションを抱えてごろんと寝転んだ。
「てかさー、初兎、照れてるとマジでわかりやすいんだよね。ほっぺ真っ赤だし。かわいいね。あと、りうらのこと無意識に気にかけすぎ」
「気にかけてねぇし!」
「でも、“お水飲め”とか“顔赤すぎ”とか言ってたじゃん。完全に彼氏ムーブ」
「違うって言ってるやろ!」
初兎が声を荒げながらも、りうらの寝顔に一瞬だけ視線を落とす。その目が、ほんの少しだけ優しかったのを、ないこはしっかり見逃さなかった。
「……あー、これはもう確定だな。りうら、起きてたら絶対調子乗るやつ」
ないこがぽつりと呟いたそのとき、りうらがぴくりと眉を動かす。
「……聞こえてるよ、ないくん……」
「うわ、生きてた!!」
「全部聞こえてた……初兎ちゃんが優しくて、ほんと……やばい……」
「や、やばいのはお前だよ! 完全に寝たフリしてたやろ!?」
「うん、だって、初兎ちゃんに撫でられてるの……嬉しかったから……」
「うわっ、やめろって、こっち見るなあ!!」
クッションで顔を隠す初兎の横で、ないこは腹を抱えて笑っていた。
「いや~、青春だな〜いれいすラブコメ劇場。次回も楽しみにしてまーす」
「もう次回なんてねぇわ!!」