テラーノベル
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東北の春は、都会より少し遅れてやってくる。 まだ冷たい風が制服の裾を揺らし、校門の桜はようやく色づき始めたところだった。
茅野泉は、キャリーケースの持ち手を握りしめながら、新しい学校の前に立っていた。
「……今日から、ここが私の学校」
胸の奥がきゅっと締めつけられる。 転校はこれで二度目。 けれど今回は、ただの引っ越しではなかった。
――前の学校でいじめられて、不登校気味になって。 ――そのせいで、両親が毎日のように喧嘩して。 ――そして、離婚した。
全部、自分のせいだと思っていた。
だからこそ、泉は決めていた。
「もう、誰にも迷惑かけない。 誰にも嫌われないように、ちゃんとやる」
深呼吸をひとつ。 冷たい空気が肺に入って、少しだけ気持ちが落ち着く。
校門をくぐると、遠くから部活の掛け声が聞こえてきた。 都会とは違う、のどかでゆっくりした空気。
――ここなら、やり直せるかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。
泉はスカートの裾を整え、校舎へと歩き出した。
このとき泉はまだ知らなかった。 この学校で出会う人たちが、 自分の毎日を大きく変えていくことを。
そして―― “恋”というものが、こんなにも甘くて、苦しくて、温かいものだということを。
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