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「おい、お前ら菓子いるか?」
昼食終わりの裕哉と明尾に飴玉と小分けのプレッツェルのお菓子をくれたのは、釜萢弘樹だ。カマヤチ。不思議な響きだ。ここ近辺の名字ではなく、彼の親は遠くの地の出身らしい。
「あざっす」
「やっちん神」
お菓子交換タイムも終わり、五限の予鈴が鳴った。教室の雰囲気が一気に重たくなった。
「えぇ。もう終わりかよ短くね?」
「それな」
「五限数学やんけ。よもめぇ〜乙」
「はぁー、マジかよ。寝るわ」
本鈴が鳴った。午後の授業が始まった。
授業中、教室は静かだ。集中をしているのではない。皆寝ているのだ。裕哉は後ろの席から夏帆を見た。彼女は眠たそうな素振りは一切見せず、真面目にノートをとっていた。斜め前の明尾を見る。テスト前だというのに、爆睡していた。
なんとか午後の授業を潜り抜け、ついに放課後が訪れた。明尾は帰る準備をして、裕哉に
「じゃ、また明日」
と伝えた。
「おう」
裕哉は美術部に所属している。絵を描くのが非常に好きなのだ。部室は第二棟の二階の古びた美術室だ。第二棟には実験室、被服室、調理室など、たまに使う特別教室などがある。今日はもう既に部活停止期間なのだが、いかんせん美術部は活動回数が少ないため、今日は部活があったのだった。
裕哉は部室に向かった。第二棟に向かう最中、裕哉の前を夏帆が歩いていた。すると、彼女がプリントを落とした。彼女のファイルの隙間からするりと抜け落ちたのだ。裕哉はそれを拾うと彼女に渡そうとしたが、運悪く彼女がトイレに入ってしまった。
「えぇ・・・」
しょうがなく裕哉はトイレ付近に貼り出されているポスターを見て彼女を待った。窓の開いた第二棟校舎。外からはカエルの鳴き声が聞こえる。
ジャーー。トイレを流す音が聞こえた。程なくして彼女がトイレから出てきた。裕哉は初めて夏帆に話しかけた。
「あのー、さっきプリント落としましたよ」
「ふぇっ?あ、あ、ありがとうございます。す、すみません」
「あ、いえいえ」
「・・・」
どうやら非常に会話が苦手のようである。夏帆は少し顔を赤くし、唇を少し噛んで俯いた。目も一瞬しか合わなかった。先に行こうとしたのだろうが、拾ってくれた裕哉より先に行くと気まずいと思ったのか、ファイルの中を整理するふりをしてその場に少し留まっていた。昼休みに目が合ったこともあったから、裕哉は、これ以上話しかけるといけないと思い早歩きで部室に向かった。後ろから追うように足音が小さく聞こえ出した。