コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ごめん……。私が歩きたいって言ったから」
その瞬間、悠人は急に切ない表情を浮かべ、私を抱きしめた。
口元から漏れる熱い息が、私の耳元にかかる。
「穂乃果……」
ただ名前を呼ばれただけなのに……
そのあまりにも魅惑的な囁きに、思わず腰が砕けそうになった。
悠人は、そんな私を支えるかのように少し腕の力を強くした。
「俺、見たんだ……穂乃果が輝と駅まで歩いてるのを……」
え……
2人とも言葉が止まった。
悠人は、私から離れようとはしない。
「急にお前が心配になって、タクシーで駅に向かいながら穂乃果のこと探した」
そうだったんだ……
全然知らなかった……
「駅前で穂乃果と輝を見つけたけど、声をかけられなかった……」
「どうして? 声かけてくれたら良かったのに……ねえ、悠人。お願い、離して」
私は、悠人の腕が少しキツく感じた。
「嫌だ、離したくない。俺……今までこんな気持ちになったことなかった。2人に声もかけれず、俺は……輝にヤキモチを妬いた」
えっ? 悠人が輝くんに?
「私、何もしてないよ」
「ああ、そうだな。でも事実、俺は2人を見てヤキモチを妬いたんだ。こんな感覚、初めてだ。情けないけど、穂乃果といると、自分の知らない部分がどんどん出てきて……」
悠人……
私なんかに、悠人みたいな素敵な人がヤキモチ妬くなんて信じられないよ……
いつまで経っても半信半疑で、あまりにも悠人の言葉が甘過ぎて、まるで間近でお芝居を見てるような気がする。
こんなのやっぱり、美女が恋愛映画で言われるセリフだ。実際に、自分に起こってることだとは思えない。
現実味がなさ過ぎて、素直に受け取れない。
悲しいよ、どうしてなんだろ。
素直になりたいよ……
情けないのは悠人じゃない、私なんだ――
「お願い。本当に……もう離して」
いたたまれなくて、私はもう一度言った。
悠人は……ようやくゆっくりと私から離れた。
「悪かった……」
「ううん、ごめん。私ね、ヤキモチ妬いたって言われても……私なんかにどうして? って、思ってしまうの……」
「穂乃果。俺の気持ちは、どんなことがあっても変わらない。嘘偽りは一切無いんだ。俺はお前のことが全部好きだ。全部欲しい……。穂乃果を俺だけの物にしたい」
嘘みたいにキュンキュンする言葉の連続に、私の胸は最高潮に高鳴った。
こんなにも真っ直ぐに、私を見つめて言ってくれた言葉は……やっぱり素直に嬉しかった。
このままじゃいけない。
悠人のこと、ちゃんと考えないとダメだって、本気で思った。
この言葉に甘えてちゃいけないって――
でも、今はまだ無理……
ごめんね、悠人、こんなめんどくさい女、いい加減本当に嫌われてしまうよね……
ここまでネガティブな人、きっと悠人の周りにはいないだろうから。
「俺、自分の中で感情がいくつも動いて、どうすればいいのかわからなくなった。穂乃果に嫌われたかもな」
「まさか、そんなこと……」
嫌われるのは私の方。
確かに今日は悠人らしくないかも知れない。
だけど、完璧過ぎる悠人より、そんなところもある悠人のこと、可愛い……って思ってしまった。
優しく私の頭を撫でて部屋に戻っていく後ろ姿を見てたら、何だかわからないけど涙が溢れた。
全部、自分が招いてるくせに――
すごく、切なくて、苦しい。
私は、しばらく涙が止まらなかった。
悠人みたいな素敵な人、他には絶対いないのに……
私、何やってるんだろ……