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論理の限界点
深夜、リビングにはカタカタと小気味よいタイピング音だけが響いていた。
ノートPCのディスプレイが放つ青白い光が、ymmtさんの端正な横顔を鋭く照らし出している。
僕はその様子をソファの端からじっと眺めていたけれど、我慢できなくなって背後からその細い肩に顎を乗せた。
mon「……ymmtさん、まだ終わんないんですか?」
ymmt「あと少し。今、このデータの整合性を確認してるから。……っ、ちょっと、耳元で喋らないで。くすぐったい」
mon「だって、もう一時間も放置されてるんですよ、僕」
ymmt「放置って人聞きが悪いな。三十分待てないって言ったのは君でしょ」
mon「三十分が、僕には三時間くらいに感じるんです。……ねえ、もういいじゃないですか」
首筋に鼻先を寄せると、彼は「っ……」と短く息を呑んでタイピングを止めた。 理系で完璧主義の彼が、僕の強引な誘いに折れる瞬間のこの顔が好きだ。
ymmt「……わかった、わかったから。……眼鏡、外させて」
mon「僕が外してあげます」
寝室へ移動し、シーツの海に沈み込むと、彼は途端に静かになった。 エアコンの低い駆動音だけが響く中、彼はいつものように唇を固く結んでいる。
mon「……ねえ、ymmtさん。なんでそんなに静かなんですか」
ymmt「っ、ふ……っ、別に……普通、だよ……っ」
mon「普通じゃないですよ。心拍数、僕にまで伝わるくらい速いくらいなのに」
ymmt「それは……生理現象、だから。僕の意志とは、関係ない」
mon「理屈っぽいなあ。……ここ、触られたらどうなるかも、計算済み?」
ymmt「あ、……っ! ぁ、くん……っ、やめ……」
僕が彼の一番敏感な場所に触れると、ymmtさんの背中が弓なりに逸れた。
彼は慌てたように自分の手の甲を噛んで、声を押し殺そうとする。
mon「ねえ、なんで隠すの。僕に聴かせてよ」
ymmt「……やだ。……恥ずかしい、し……っ」
mon「恥ずかしいなんて、ymmtさんらしくない。いつもみたいに、今の状況を論理的に説明してみて下さいよ」
ymmt「……っ、そんなの、むり……っ。あ……、はぁ、……っ!」
僕はわざと意地悪な言い方をして、彼をさらに深い場所へと引きずり込んでいく。
漢字王の彼なら、今の情景を形容する言葉なんていくらでも知っているはずなのに。
mon「ほら、声。抑えなくていいって言ってるのに。もっと、僕を困らせるくらい鳴いてくださいよ」
ymmt「……ん、……っ、あ……。……っ、は、ぁ……っ」
mon「まだ足りない。……ymmtさん、僕の名前呼んで? それとも、もっと激しくしないと呼んでくれない?」
ymmt「……っ、ぁ、くん……。ぁ、くん……っ、まって、はやい……っ!」
揺さぶるたびに、彼の喉から漏れる音は「言葉」としての形を失っていく。
吐息に紛れていた小さな喘ぎが、次第に切実な熱を帯びて部屋の空気を震わせる。
mon「もっと、もっと聴きたい。全部ちょうだい」
ymmt「っ、あ……あ、……っ! は、……も、……っ!!」
mon「何? 何がもっと? ちゃんと言ってくれないと分かんないですよ」
ymmt「……っ、……ぁ、……っ!!」
mon「ねえ、ymmtさん。声、我慢しないで。もっと凄いの、出せるでしょ?」
僕がさらに激しく、彼を追い詰めるように問いかけると、ymmtさんは限界を超えたように、僕の首筋に必死に縋り付いてきた。
そして、泣き出しそうな、震える声で叫んだ。
ymmt「っ、も……出ない、ってば……っ!!」
その言葉に、僕は思わず動きを止めた。
ymmtさんは、肩で激しく息をしながら、潤んだ瞳で僕を睨みつけるように見上げていた。
mon「……出ない?」
ymmt「……そんな、余裕……ない、から……っ。……っ、むり、……声なんて、選んで、出せない……っ!」
mon「……え、それって、僕が余裕なくさせちゃったってこと?」
ymmt「……うるさい。……っ、分かってる、くせに……っ」
彼は真っ赤な顔をして僕の胸元に顔を埋めた。
「出さない」のではない。「出ない」のだ。
言葉を操るプロである彼が、語彙を失い、ただ「出ない」と繰り返す。
その事実が、どんな甘い言葉よりも僕の独占欲を突き動かした。
mon「……そっか。余裕、なくなっちゃったんだ。僕のせいで」
ymmt「……あ、monが、……しつこい、から……っ」
mon「あはは、ひどいな。……でも、そんな顔させたの僕なんだと思ったら、もう止まれないですよ」
ymmt「……っ、まって、まだ、するの……?」
mon「当たり前じゃないですか。ymmtさんが『もう何も出ない』って泣くまで、離しませんよ」
僕は彼の耳たぶを優しく食み、再び彼を深く沈めていった。
ymmt「っ、あ……っ! だめ、……ぁ、くん……っ、あ、……っ!!」
理性が融解し、論理が破綻する。
そこにあるのは、ただ互いの体温を求め合うだけの、純粋で暴力的なまでの熱量だった。
翌朝、彼がどんな顔で僕の隣に座り、どんな「漢字」を使って昨夜の僕を罵るのか。
それを想像するだけで、僕はたまらない気持ちになる。
けれど今は、耳元に残る「出ないってば」という掠れた声を、ただ大切に反芻していたかった。
mon「……ねえ、ymmtさん。大好きですよ」
ymmt「…………っ、……おやすみ」
顔を背けた彼の耳が、夜明けの光の中で、ひときわ赤く染まっていた。