テラーノベル
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まだ幼いとは言え竜種であり、しかも帝王の血を持つと言われているニーズヘッグである。
成竜の様に大きな翼を広げて巨体を飛翔させる事は出来ないまでも、魔力を込めて小さな翼をパタパタとはためかす事で体を浮かび上がらせ、タイミング良く足場になりそうな岩に足を掛け、大地に小さな爪を食い込ませては背後に向けて蹴り続け、風の如き速度でイシビベノブの背に肉薄して行ったのだ。
今置かれている状況が普通ではなく、常と異なる事態である事はギレスラも重々承知であった。
しかし彼は心底思っていたのだ、きっと何とかなるだろう、と……
自分の周りにはいつでも逞しくも頼もしい大きな竜が居てくれていたし、ニンゲンには魔力災害に因る石化を治療出来る薬が存在している事も聞かされて知っていた。
更に溢れかえった魔力をも、ハタンガに無数に住み暮らしている魔獣達によって取り除く事が可能なのだそうらしい。
そんな楽観的な気持ちを抱いていたせいだろう、前を走るイシビベノブの背がいよいよ大きくなった時、ギレスラは思わず叫んでしまったのだ。
『クラアァー♪』
「っ! 『□♯α○(アクセル)』」
背後から聞こえたギレスラの声が切欠になったのか、小さく呟いたイシビベノブの姿は掻き消えてしまった。
残像すら残さずに忽然と消え失せてしまったのである。
『ラァ? ラ、ラ?』
どちらに向かえば良いのやら、立ち止まって周囲をキョロキョロしていたギレスラの前に、巨大な影が射した。
最初は四つ、すぐ後に続いて六つ、少し遅れて十を越える巨体が次々と周囲に降り立ったのだ。
『グガッ?』
素っ頓狂な声を発したギレスラに対して、最初に現れた竜の中で最も大きい個体を持つ漆黒の竜が叫ぶ。
『グアラ! ガヴァズドォゥッ!』
ビリビリと大気を震わせる声に従って、ギレスラは素直にその場から離れたのである。
カッ!! 轟っ!
ドッ! ジュワァーッ! シュオォォゥッ!
黒竜はつい先程までギレスラが居た場所に巨大な火球を打ち出した。
大地は大きく抉り取られ、のみならず深い地下に向けてグズグズと土や石くれを溶かしながら沈下し続けて行ったのである。
高熱はガラス転移点を大きく越えた物だったのだろう。
穴の内部だけでなくギレスラの立つ周囲の土までヌッタリとした鈍い光沢を放っている。
足元の熱も高いだろうにこの場にいる竜達は一切戸惑う素振りすら見せていない。
元来竜とは熱の高低、周囲の環境の変化等には煩わされる事が無い生き物なのである。
幼いギレスラであってもそれは例外ではなく、恐れる所か興味深そうな顔つきを浮かべて自らの足に触れたガラス質の土を口の先で掬い上げて嬉しそうにしている位であった。
その無邪気な姿にチラリと視線を落とした黒竜は、口元に僅かな笑みを浮かべながら静かに言う。
『ガラゥ、ヴヴァラ、ズヴァズガ、ガアルァ……』
『? ガ、グガ?』
はてな? そんな表情を浮かべながらではあったが、ギレスラは言われた通りに深く穿たれた穴の中へとその身を移したのである。
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