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――これは、“兄ちゃん”の最後の選択。
優しすぎるその手で、大切な人を未来へと送り出す物語。
人間の世界への扉は、目の前で光を放っていた。
ついに、すべての戦いは終わった。
すべての子どもたちは、自由を手に入れた。
エマ、ノーマン、レイ――そしてシンムも、今ここにいる。
でもシンムは、知っていた。
エマたちの瞳がまだ“ここ”に残るつもりでいることを。
「エマ、ノーマン、レイ」
ふわりと微笑みながら、シンムは三人の肩にそっと手をかけた。
「――いってらっしゃい」
その瞬間、
シンムの手が、三人を強く前へと押した。
「――えっ、シンム兄ちゃん!!?」
「な、なんで……!?」
「待って、兄さん……!やめてっ!!」
扉の向こう、光のなかに押し出される三人。
そのまま――
パァン……
扉は、静かに閉じた。
エマが、扉を叩きながら叫ぶ。
「シンムお兄ちゃああああんっ!!なんで、なんでぇっ……!やだ……!やだよぉぉぉ!!」
ノーマンは声を失い、
レイは拳を握りしめて、ただ震えていた。
「……なんでお前は……いつも、自分を後にするんだよ……」
扉の向こう――鬼の世界。
もう人間は誰もいない。
そこに、たった一人、シンムが立っていた。
風に黒い髪がなびく。
空を見上げて、目を閉じて、ぽつりとつぶやいた。
「……これでよかったんだ。
僕が残るなら、あの子たちはきっと笑って生きていける。
エマも、ノーマンも、レイも、優しいから……犠牲になることを選ぶだろうから」
シンムは静かに座り、広がる景色を見つめながら――微笑む。
「……大好きだよ、僕の弟たち、妹たち。
君たちが笑っていられるなら、僕はここで生きていくよ。
さよなら。僕の大切な家族」
🌸人間の世界、涙にくれるエマたちの手には、
あの時シンムがそっと忍ばせた“兄弟で撮った一枚の写真”。
そこには、やさしい笑顔のシンムと、彼の腕の中に集まった子どもたち。
もう声は届かないけれど、
その笑顔は、これからも彼らの心の中で、生き続ける。