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#オリジナルストーリー
海月🪼🩵‐Mizuki
216
こはく
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yuuri
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もこちゃん。
それは私の友達。
もこちゃんは人ではなくて、もこもこしたうさぎのぬいぐるみ。小さい頃、「私の友達はもこちゃんだけ。」と言って、お母さんを困らせたなぁ。赤ちゃんのときに誕生日プレゼントとしてもらって、それからはずっと一緒だった。 もこもこしているから「もこちゃん」という名前をつけ、今更ながら安直だとも思う。ふわふわだから「ふわちゃん」、もふもふだから「もふちゃん」でも良かったかもしれない。そもそも、「名前」として「もこちゃん」とつけたのだから、「ちゃん」まで名前に入っていることになる。私はいつももこちゃんと呼んでいたから、結局呼び捨てで呼んでいたんだな。最初もうさぎというには怪しかったけど、もう、ただの丸くてもこもこした物体になった。寝るときも、お出掛けのときも、ずっと持ち歩いていたからかな。
もこちゃんをもらってちょっと経ったら、私の家には「みぃちゃん」がやってきた。人ではなくて、今度はいぬのぬいぐるみ。トイプードルみたいで、もふもふだったけれど、私は「もふちゃん」という名前をつけなかった。「みぃ」ちゃんで、「ちゃん」は名前に入れなかった。「みぃ」という名前は、確か、猫の鳴き声だったかな。
おとなりのゆりこおばさんが飼っていた猫の名前は「エリ」。ゆりこおばさんの娘さんが「えいこ」ちゃんと「りみこ」ちゃん。頭文字をとって、「エリ」にしたのだと、ゆりこおばさんが言っていた気がする。「どうしてカタカナなの。」と聞くと、「その方がハイカラだからよ。」と教えてくれた。結局、「エリ」が「みぃ」と鳴くから「みぃ」ちゃんになった。「もこ」と鳴く動物はいないし、ましてや、「もこちゃん」と鳴く動物なんていない。そのときは、いぬも猫もおんなじだと思っていたから、猫の鳴き声の名前なんてつけてしまったのかもしれない。「みぃ」ちゃんはそのあと、お母さんの口ぐせから「まぁ」ちゃんになったり、よくわからないけど「むー」ちゃんになったり、お姉ちゃんの口ぐせから「ねぇ」ちゃんになったりした。「ねぇ」ちゃんのあと、また「みぃ」ちゃんになった。「エリ」が死んでも、「みぃ」ちゃんはずっと「みぃ」ちゃんだった。「もこちゃん」はずっとずっと「もこちゃん」で、昔も今もきっと未来も「もこちゃん」だ。
私の家に初めての生きた贈り物が届いたのは、「エリ」が死んでから、少しあとだった。私はそのとき、「もこちゃん」と「みぃ」ちゃんを抱えて、家の前で待っていた。お父さんから事前に聞かされていたので、だいぶ長いこと待っていたのかもしれない。お父さんが帰ってきたとき、ケージを持っていて、その中から、くうんと、か細い可愛い声が聞こえた。私はそのいぬに「みるく」と名前をつけた。「みるく」は真っ白なポメラニアンで、まだまだ子犬だった。「みるく」という名前はただ白いからというメジャーな付け方でつけられた。あとは、牛みたいによく眠るからというのも理由の一つだったかな。それから「みるく」は私の友達の一人となった。
事件というには大げさだけど、その出来事が起きたのは、「みるく」がやって来てからすぐのことだった。その日の朝、私は「みるく」のくるるという少し乱暴な鳴き声で目が覚めた。いつもは起きるのは私よりも遅いのに。そう思って声がしたほうに行くと、噛まれた「もこちゃん」と「みぃ」ちゃんが転がっていた。そういえば、昨日の夜は「もこちゃん」と「みぃ」ちゃんを寝室に持っていかず、ソファに置いてきたんだったな。だから、私のミスでもあるのだけれど、そのとき私は頭に血がのぼって、めちゃくちゃに「みるく」を叱った。大きな声で、騒いでいる私の声で、起きてきたお母さんとお父さんはさぞ、驚いただろう。あんなに大切に可愛がっていた「みるく」を私が叱りつけていたから。「みるく」の首根っこを掴んで私の顔のところまで持ち上げて、もう一度「こら!」と言ってやった。本当は、「もこちゃん」と「みぃ」ちゃんがやられたように噛みちぎってやりたかったけど、「生き物は大切にしなさい」と言われていたので、やらなかった。
そのあと、「もこちゃん」と「みぃ」ちゃんはお母さんが縫って直してくれた。もこもこだったから、縫いあとはあまり目立たなかった気がする。私があんなに叱りつけたからかな。「みるく」はもう乱暴なことをしなくなった。くうんと可愛く鳴くようになった。私の足にすりついて来るようになった。「みるく」は病気を患って、あまり長生きしなかった。最後の最後まで、くうんと可愛く鳴いていた。
「みぃ」ちゃんはちょっと前にいとこの女の子にあげてしまった。会ったのはそれだねだったから、名前も顔もほんの少しも覚えていない。ただそのときすごく笑顔だったのは覚えている。最初、その子は「もこちゃん」を欲しがったのだけれど、私は守りきった。「もこちゃん」は私の初めての友達だから。「みぃ」ちゃんも大事だけど、「もこちゃん」はそれ以上に大事だったから、絶対にあげなかった。
「みるく」も「みぃ」ちゃんも「エリ」もいなくなってしまった。ゆりこおばさんは数年前に家族に看取られて死んだ。お母さんもお父さんも生きているけど、もう足腰が弱ってきたのがわかるようになった。私も幼く素直で、元気いっぱいの子供ではなくなった。いろいろ考えられるようになり、疑い深くなり、元気がしぼんだ大人になってしまった。子供の頃は早く大人になりたかったけど、今は子供に戻りたくなっている。それはやっぱり、「みるく」とか「みぃ」ちゃんのこともあるけど、変わってしまったものが多すぎるからだ。変わらないものは美しい。「もこちゃん」はずっと変わらない。今の私のカバンの中に仕舞われている。名前も存在も変わらず、見た目は少しぼろぼろだけど、何も変わっていない。同じ日はないとか言うけど、私にとっては「もこちゃん」がいるかどうかということだけ、かもしれない。
同じ日が続いてほしい。変わらないでほしい。ずっといてほしい。いなくならないでほしい。
それだけなのに、みんな続かなくて、変わって、いてくれなくて、いなくなってしまって。
だから、私は「もこちゃん」が大好き。
変わらないでいてくれる、「もこちゃん」が大好き。
もこちゃん。
それは私の友達。
コメント
1件
うわあ、切なくて温かいエピソードでした……「もこちゃん」はずっと変わらずそばにいてくれてるけど、周りのものはどんどん変わっていく、その対比が胸に沁みました。特に「変わらないものは美しい」っていう一文、すごく好きです。「みるく」を叱ったエピソードとか、ゆりこおばさんの話とか、一つ一つの思い出が丁寧に紡がれていて、大人になった語り手の目線と子供時代の記憶が重なるところが良かったです。もこちゃん、これからもずっと大切にしてあげてほしいなあ。