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「別れよ。」
治の声が、俺の胸に突き刺さった。
…は?何言うとんねん、告白したんはお前やろ。
そんな風に考えても現実は相変わらずや。目の前には治が居る。けど、その目はどこか虚ろで冷たかった。
こんなん、いつも の治じゃない。まるでそっくりさんみたい。その瞳に見えた俺は、とても悲しい顔をしていた。
「え、何で?」
自分でも驚くほど小さい声が出た。だって、悲しいやんか。家族で兄弟で双子で…。その身近やけどかけがえのない存在を大切にしようって思ってた。喧嘩せんように、冷蔵庫に入ってるプリンも食べんように置いとった。…俺には無理やったんか。
自分が一番分かってる。俺は昔からうるさいし喧しいし、負けず嫌いで短気やから……人に呆れられることが多かった。そして嫌われて、挙句の果てにはクラスの男子からいじめられることも。
でも、こんな俺を愛してくれたんが治や。
治は三年前の花火大会の日、俺に告白してきた。
「好きや、付き合うて。」
俺の顔が熱くなったのを、今でも覚えてる。
それと比べると、今の俺はとてつもなく表情が脆かった。
「…嫌や、何で別れるん?俺の何が悪かったん?」
「ごめん、近寄らんといて。」
「………。」
やっぱり俺、治に愛想尽かされたんかな。
今はただ、治に別れを告げられたことがショックで、泣くことしかできんかった。
涙がボロボロと頬を伝う。胸が締め付けられて苦しい。…俺が好きなのはお前だけやのに。
その日は悲しみで泣き続け、一晩眠りに入ることさえ辛く感じた。
「おはようさん!!」
「おはよ〜。」
学校に着いてすぐに、銀の明るくてデカイ声と、角名のムカつくけどイケボで落ち着いた声が聞こえた。
「…おはよう。」
「あれ?侑、今日元気無いじゃん。」
「どないしたん?大丈夫か?」
「………治と別れた。」
「「は?」」
───────────────
「…で?何で別れたん?」
屋上で昼ご飯を食べていたら、銀が聞いてきた。
うぅ…銀〜、頼もしい!(泣)
ほんなら話の流れに沿って角名も。
「治から別れを告げるのって珍しいね。何か侑に原因があるんじゃないの?」
「確かにな〜。侑、心当たりあるか?」
…心当たり?ある訳ないやろ、とでも言いたいところやけど、実際には思いついた事が一つだけあった。
「実はな、こんな事があったんや…。」
きっかけは些細な事やった。
俺の単純な嫉妬心。
俺は休日にデパートに行って、新しい服を買おか〜なんて思ってた。そして腹が減った為カツ丼も食べて。夕方の四時半くらいになった頃、人も帰り店の中が空いてきたから、散歩がてら適当に服を見てた。すると、治にめっちゃ似合いそうな服があった。灰色のかっこいいTシャツ。 値段は少し高いけど、治の喜んだ姿を思うと、余裕で支払えた。
「さてと…今日は満足できたし、はよ家に帰ろ。」
そんなことを考えてたら、銀色の髪に聞き慣れた声がした。
治や。それと治だけじゃなくて、小動物みたいな可愛くて守りたくなるような女の子が、治のすぐ傍に居った。
………浮気か?
最初は疑わんかった。疑いたくなかった。
けど、二人はほんまに仲が良くて、傍から見ればカップルと勘違いされそうな程。
俺も次第に不安になり、治に近づいた。
「……治、何しとん?」
「侑!?」
治は驚いて、俺を見るなり焦った。
「その子は?」
「あぁこの子は俺の相談相手や。せやから…」
治は早口で言ったが、 言い訳にしか聞こえん。
…無性に腹が立った。
その途端、苛立ちとはまた別の、悲しい感情が追い詰めてきた。
あぁ、頬が冷たいな〜。…鼻がツンとするし、目から涙が溢れてくる。
泣いてんねや。
久しぶりに泣いたもんで、治も吃驚。
「あ、侑…泣かんといてや。なぁ大丈夫?」
「…うぅ、グスッヒグッ(泣) 」
「侑。」
治の声は聞こえん。だって俺は泣いてるもん。俺は生まれつきうるさいから、泣き声もうるさいんかな。
そんなこと考えてる暇も無い。
俺は家へ全力疾走した。
「侑!…はぁはぁッ、おい侑!!」
「何やねん!ッグス、浮気者!」
「はぁ!?何言うとんねん、誤解や。」
「なぁにが誤解やねん!明らかに浮気やろが!」
「うるせぇボケ!!!浮気ちゃうって言ってんやろ!」
お互い感情が爆発して、大喧嘩してしもた。
治は浮気してないと主張している。
俺もそう信じたいけど、何故か分かち合うことが困難で、暴言を吐き続けた。
多分、これが原因やと思う。 治に嫌われたことの始まりが。
ほんで冒頭に至る訳や…。
「馬鹿なの。」
角名が呆れた表情で俺を見る。
治と俺の喧嘩を日頃から見ていた角名にとって、大事では無さそうやった。
銀はと言うと、俺の傷ついた心を慰めてくれて、相談に乗る準備までしてくれた。
おん、銀は女子になってもモテる。(確信)
「…馬鹿で悪かったな。」
「そんなつもりで言った訳じゃないよ。ただ、侑も侑だよねって話。」
「あ゛ぁん!?」
それを言う角名も角名でめっちゃ辛辣やん。
俺、三年間付き合った彼氏に振られたっつうのに。
「いい加減、治のことは諦めてよ。」
「は?どういう意味やねん。 」
「だ〜か〜ら、俺にしない?っていう意味。」
「「………は?」」
俺と銀が、口を揃えて言った。
角名、物凄いこと言ってる。
…こいつ、俺のこと好きなん?
「え、俺のこと…好きなん?」
「うん、そうだけど?」
急展開。
その言葉が今の状況にピッタリやろか。
けどほんまに急展開なんや。角名が俺のことを好きって…どういうこと?
「侑があいつと付き合ってるって聞いた時、実はショックだったんだ。心の底から侑のことが好きだから。」
「それって…。」
角名が俺に好意を抱いている事が分かった。
角名は写真をめちゃくちゃ撮る撮り魔やけど、俺が傷ついた時は、心配性の銀と同じく早く気づいてくれた。
そんな角名と付き合うてみたら………。どんだけ幸せなんやろか。
「角名……。」
「侑。」
「(え、これ俺居らん方がええんかな?)」
「…ッッちょっと待ったぁああ!!」
!?
何事、え?はぁ?…頭が追いつかん!
「侑、その…この間はすまん!あれは浮気ちゃうねん!」
「…え?」
「……これ。 」
…何これ。キーホルダー?
「…もうすぐ、付き合い記念日になるやろ?せやからプレゼントを渡したいなって思って。でも何を渡せばええか分からんかったから、ヲタクのあの子にアドバイスを貰ってたんや。」
「…せやったん?疑ってごめんな。」
「別れよとか言うたけど、別れたくない。侑はいつまでも俺の彼女でいてほしい。」
「うん、分かった!」
「ほんま!?ありがとう。大好きやで、侑♡」
俺も、治のことが大好き!愛してる!
俺は嬉し涙を流し、その言葉は言えやんかった。
でもな、抱きしめ合うことで気持ちを分かち合えるねん。やって、好きやもん!
今、人生で過去一幸せかも。
「「愛してる。」」
こうして、俺は治と仲直りをした。
───────────────
「…せっかく、侑と付き合えそうだったのに。俺も、侑のことがずっと前から好きだったんだよ。 だから、待っててね。必ず治から奪ってみせる!」
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