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[写真と語られる過去]

涼架side

その日の夕食後、僕は意を消してリビングにいる若井に話しかけた。







若井はギターを弾いていたが、涼架の真剣な顔を見て、手を止めた。








「あの…若井、机の写真…あれって、」








僕は、直接的すぎないように探るような口調で尋ねた。






若井は一瞬、戸惑ったような表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。








「ああ、あれか…」







若井はギターをケースにしまい、写真立てをとった。





写真の中の、笑顔の男の子。



僕は、彼の名前を知りたいと思った。







「こいつは、元貴。俺の親友で、バンド仲間だった」









若井の口から初めて聞く名前だった。





僕は、その響きを心の中で反芻する。








「元貴と俺は、小学校からの付き合いでさ。ずっと一緒に音楽やってた。

…見ての通り、こいつとお揃いのバンダナ、俺たちのお守りだったんだ」










若井は、写真の中の二人の姿を懐かしそうに見つめた。







彼の表情は、僕が知る若井とは少し違う、もっと純粋で無邪気な少年の顔をしていた。

でも…今は、いないんだ。もう、会えない」







若井の言葉は、まるで何年も前に落とした感を、今になって拾い集めているようだった。








僕は、若井の瞳に浮かんだ悲しみの色を見て息をのんだ。







「あいつ、…病気だったんだ。それなのに、俺は気づいてやれなかった。

もっと一緒にライブしよう、もっと練習しようって、無理ばっか言ってた…」

若井は、写真立てをぎゅっと握りしめた。







「俺、あいつがいなくなってから、病気のことを知ったんだ。

…もっと早く、気づいてあげてたら何かできたんじゃないかって…」

若井の言葉は、後悔と自責の念に満ちていた。






僕は、若井が抱えていた孤独とその源にある悲しみの深さを初めて知った。







僕は、言葉をかけることができなかった。






ただ、若井の隣にそっと座り、彼の腕に巻かれた若井の大切にしているバンダナに自分の腕に巻かれたバンダナをそっと近づけた。











若井は、元貴さんの写真を見つめながらぽつりと呟いた。

「…あいつ、俺よりずっとギターが上手かったんだ。俺たちの曲をもっとたくさんの人に届けたいって、いつも笑ってた」

その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。








「だから、俺…あいつがいなくなってから、バンドとか組めないんだ。

楽しそうに音楽やってる人たち見ると、どうしよもなく苦しくなって…」




若井は、手首に巻かれた青いバンダナをきつく握りしめた。








「…俺ばっか、楽しそうなことできない。

俺ばっか、前に進めない。…そう思っちまうんだ」







若井の瞳が涙が滲んでいた。





僕は、若井がいつも見せていた、あの優しい笑顔の裏にこんなにも大きな悲しみと葛藤を抱えていたことを初めて知った。






僕の頭の中に、猫だった頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。






若井と出会ってから、僕は公園の茂みから彼の姿を何度も見守ってきた。








あの時、若井はいつも一人だった。





放課後の誰もいない教室で、一人でギターを弾いていた。




ベンチに座って、寂しそうに空を見上げていた。









僕は、若井のそばでその孤独な背中をずっと見てきた。






彼は、楽しそうに音楽を演奏する仲間を持たずただひたすらに一人で音を奏でていたのだ。








若井の『俺ばっか、楽しそうにできない』という言葉は、僕が知る若井とは全く違っていた。






若井は、僕が知らないところでずっと一人で戦っていたのだ。








僕は、言葉が出なかった。







若井は、僕が何も言わないのを不思議に思ったのか、顔を上げた。





「ごめん。なんか、重い話になっちゃったな」

若井は、事嘲気味に笑った。







僕は、若井のそんな顔を見るのが辛かった。







僕は、彼がどれだけ音楽を愛しているのかを知っている。






僕は、意を消して若井の肩に手を置いた。









「僕は…若井のギターが好き」

「…僕は、若井が楽しそうに音楽をやっている姿を見たい」







それは、僕の偽りない気持ちだった。








「若井は、一人じゃない。僕は、若井の音楽を一番近くで聴いてる」





若井は、僕の言葉に目を見開いた。







涼架が言葉にした、その真っ直ぐな気持ちは、若井の心に深く響いた。








若井は、涼架の手をそっと握った。








「…ありがとう」

若井の瞳に、再び光が戻ってきたようだった。






僕は、彼の孤独を少しだけ埋めてあげることができたのかもしれないと感じた。








この瞬間、二人の間には言葉だけでは語り尽くせない、深い信頼と絆が生まれた。






そして、僕は人間として若井の隣にいる意味を改めて知ったのだった。
















次回予告

若井の過去:音楽とかけがえのない親友


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『魔法が解けるその日まで』

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コメント

1

ユーザー

やっぱ亡くなってたかー…。でも大森さんだったとは意外です!

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