若井の過去:音楽とかけがえのない親友
俺が初めてギターを手に取ったのは、小学生の時だった。
近所の公園で、ストリートミュージシャンが弾くギターの音色に心奪われたのがきっかけだった。
その音は、俺にとってまるで魔法のように心を揺さぶるものだった。
そして、俺の音楽の旅は親友である元貴との出会いによって、決定的なものになった。
元貴は、俺とは対照的に明るく天真爛漫だった
しかし、彼もまた、音楽に深い情熱を傾けていた。
俺がギターを弾き始めると、元貴は歌を口ずさみ、俺たちの間に特別なハーモニーが生まれた。
俺たちは、誰からも教わるでもなく、自分たちの感性だけで音楽を作った。
放課後、元貴の家の小さい部屋に集まり、俺がギターを弾いて元貴が歌詞を書いた。
若井の音楽は、どこか繊細で優しいメロディーを持っていた。
一方、元貴の書く歌詞は、ストレートで前向きな力に満ちていた。
二人の音楽は、お互いの個性を補い合い、唯一無二の輝きを放った。
「なぁ、いつか俺たちの曲で、でっかいステージに立とうな!」
元貴は、いつも俺の背中を叩きながらそう言った。
彼の瞳は、夢と希望に満ちてキラキラと輝いていた。
俺は、そんな元貴の言葉に励まされていた。
音楽は、俺たちにとって言葉以上のコミュニケーション手段だった。
お互いの悩みを、不安を、そして未来への希望を音と歌詞に乗せて分かち合っていた。
高校生になると、俺たちは本格的にバンドを組んだ。
俺の腕には、元貴とお揃いの青いバンダナが巻かれていた。
それは、二人の友情の証であり、お互いの夢を誓ったお守りだった。
しかし、その輝かしい日々は、突然終わりを迎えた。
元貴が突然バンドを辞めると言い出したのだ。
理由を尋ねても、元貴は『ごめん、もう無理なんだ』としか言わなかった。
俺は、元貴の言葉が理解できず、何度も引き止めた。
「俺たち、これからじゃないか!」
「お前がいないと、俺一人じゃ…!」
俺の言葉は、元貴に届かなかった。
元貴は、俺の言葉に寂しそうな笑顔を見せ、ただ『ごめん』と繰り返すだけだった。
元貴がいなくなってから、俺は一人になった。
俺の音楽は、色彩を失い、どこか寂しい音色を奏でるようになった。
そして、元貴が旅立った後、俺は元貴の母親から、元貴が俺に隠れてずっと闘病してきたことを聞かされた。
「…あの子、若井くんのこと本当に大切だったのよ。だから、自分のことで若井くんの夢を邪魔をしたくないって…」
元貴の母親の言葉に、俺は言葉を失った。
元貴が、自分の夢を諦めてまで俺の未来を守ろうとしていた。
その事実に、俺は深い後悔と悲しみを抱えるようになった。
俺は、元貴のいない世界で一人で音楽と向き合い続けた。
しかし、俺の心には「俺ばっかり、楽しそうなことできない」という、拭いきれない思いが残った。
次回予告
[涼架の才能と静かなる音楽]
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コメント
2件
辛い過去だなぁ……。次のタイトルからして、涼ちゃんはピアノとかフルートが弾けることが判明するのかな?
…悲し