善悪とコユキのやり取りを聞いていた医師、丹波晃が顔面を蒼白にさせながら、立ち上がって叫んだのである。
「ね、ねえ! 今の話って本当なの! 魔力が滞留すると人間が破壊されるって話!」
コユキが落ち着かせるように言う。
「大丈夫よ、私達聖女や聖戦士、後はそこにいる妹達や光影さんみたいな血族にしか該当しない話だから、心配しなくて良いのよん」
丹波晃が更に顔色を悪くしながら言い続けたのである。
「最初に言ったじゃない! 不審死した人の体から赤い石が次々発見されているって! それで僕がここに来たんだよ! きっと悪魔か何かが人の体を乗っ取っているんじゃないかって、そう思ったから!」
「ほう」
「むむむ」
「はてな」
アスタロト、善悪、コユキが三者三様の反応を示す横から、バアルが身を乗り出して丹波晃に聞いたのである。
「丹波とやら、お前の言う不審死とは何だい? 具体的にはどんな風に死んじゃったの?」
丹波晃は答えたのである。
「体の一部、又は全部が石になって突然死するんだ…… 石化死、関係者はそう呼んでいるよ」
っ! 来たか、ついに来た、私の時代でも尚、人類、いいや地球に生きるあらゆる命を脅かしている病が……
この時から徐々に世界に蔓延し、文明を、植生を、多くの命のサイクルを、何より地球自体の正常な活動までも破壊し、全ての存在を無に帰そうとする恐ろしい現象が始まったのだ。
ある宗教家は言った。
傲岸に過ぎる人々に対して神が与えた罰だと。
しかし、天罰と言うのなら人類以外の命まで奪うのはおかしいじゃないか、彼はすぐさま論破されていた。
ある医者は幼い子供たちの体から核を除去して石化を防ごうとした。
結果は核を取った子供たち全員の死という最悪の物である。
他の臓器と一切接していない核を取った事で何故子供達が死んでしまったのか…… 答えられる者は皆無であった。
ある国家指導者は国民に説いた、星を捨て宇宙開発、移住に希望を見出そうと。
数日後、覇気に溢れていた指導者は執務室の椅子に座ったまま石像と化していた。
命を長らえさせる、石化を遅らせる薬は開発されたが、それすらも全ての命に必要な量が確保されてもいない。
薬の材料が絶望的に不足してしまっているのである。
人々は常に石化、死の恐怖に怯えながら日々の生活を送り続けている、それが私の時代の姿なのである。
この時代、悪夢が始まった世界を観察して、滅びの運命を回避させ地球に命の種を灯し続ける事が私の目的なのだ。
ここまでの観察で、私は幼い頃から身近に感じていた悪魔について認識を新たにする事が出来た。
私の時代にはいない、消えてしまった悪魔達。
人が理解に辿り着いていない数々の知恵を持ち、原初より命を見守り時に奇跡を与え続けて来た存在。
彼らがこの石化に対してどのように抗うのか、そして何故彼らは消え去ってしまったのか。
今回の観察でそれらを知る事ができるであろうか?
そして、その知見が私の時代を救う一助となるのであろうか……
希望を込めて観察を続けよう、いや答えを見つけ出さなければならない。
それが私が生きながらえているたった一つの理由なのだから。
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