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『循環の迷宮』探索、3日目の夜。
今は5階の一番奥で、このダンジョンで出会った、バーナビーさんのパーティと一緒に過ごしている。
お互い4人のパーティだから、全部で8人。
やっぱり人数が多いと賑やかになるよね。
「おおー! バーナビーさんの干し肉料理、なかなか面白い味がしますね! とっても美味しいです!」
「そうでしょう、そうでしょうとも!
この味を出すために、特別な香辛料を用意したんですよ!」
とりあえずエミリアさんは、バーナビーさんとお料理のことで盛り上がっている。
……うん、確かに美味しいなぁ。
完成品を持ち込むのも良いけど、現地で作って食べるっていうのも良いよね。
多分、雰囲気とか、そういう要素も大きいんだろうけど。
「アイナちゃんが持ってきたこのお料理も美味しいよ~! プロの味がする!」
「あはは……。それはプロが作ったお料理ですから。
私が作ったものといえば、こっちの簡単なスープくらいなものですよ」
「これだよね?
うん、家庭の味って感じがする!」
そ、それは仕方ないよね? 私はプロの料理人じゃないんだから……。
……料理の経験といえば一人暮らしで自炊をしていたくらいだし、そんなにハードルを上げられても困るのだ。
「でもバーナビーさんを見ていると、ダンジョンの中で作るのも良いかな、って思っちゃいます」
「そうですね、ヒナ共はうるさいですけど、結構楽しいですよ。
アイナさんはアイテムボックスをお持ちのようだから、本気を出されたら私は敵いませんが……」
「いえいえ。料理の腕は全然、まだまだですから――」
「……っていうか、ヒナ共って何よ!?」
「え? 飯時になるとぴーちくぱーちく騒ぐでしょ?」
「なんですって!?」
「……モニカはそうだけど、私まで含められるのは心外……」
「メイジーさんは静かなイメージありますよね。
あんまりぴーちくぱーちく感は無いかな……?」
「いやいや、アイナさん。彼女はこう見えて一番注文が――どげふっ!?」
あ、メイジー殿さんの鉄拳がわき腹に入った。
「……何か?」
「い、いえ……。何でも……」
バーナビーさんのパーティって、案外激しいパーティだよね。
うちは優しさに満ち溢れたパーティで、良かった良かった。
……そういえばバーナビーさんのパーティのもう一人、ビリーさんはどうしたのかな?
そんなことを思いながら辺りを見回すと、少し離れたところでリーゼさんと話をしているのが見えた。
おやおや、確か昨日も二人で話していたよね?
これは新しい恋の予感かな? ……何ていうのは下世話なことか。
「ところでアイナさんって、普段は何をしているんですか?」
遠くの二人に意識を傾けていると、バーナビーさんが聞いてきた。
「え?」
「いえ、今回のダンジョン探索はここまでなんですよね?
せっかく知り合えたので、何かのご縁があればもっとお話をしたいな、って思ったんです」
「なるほど。
私は2週間ほど前に王都に来たんですけど、最近は錬金術師ギルドで依頼を受けたりしていますね」
「おお、錬金術師だったんですね!
私の知り合いも錬金術師ギルドでいろいろと依頼を受けていて、先日C-ランクになったと喜んでいました」
C-ランクと言えば、冒険者ランクで考えればなかなかのポジションだ。
実際、ルークやエミリアさんがそこに当たるわけだし。
「ランクが上がるのは嬉しいですからね。気持ちはとっても分かります」
「失礼ですが、アイナさんの錬金術師ランクはどれくらいなんですか?」
「S-ランクです」
「は……? え……|A《エー》ですか?」
「いえ、|S《エス》です」
「へ、へー!? アイナさん、すっごーい!!」
「……本当。S-ランクの人なんて初めて見た……」
「何やかんやで推薦して頂きまして……。
ですので、今は依頼をたくさん受けているところなんです。
……あ、ちなみに冒険者ランクはE+ですよ」
「ああ、そっちは普通ですね。良かった、人間じゃないのかと思った……」
「いやいやバーナビーさん、それはひどい!」
「あっと、これは失言……!」
「でも実際、私もSランクなんて1人しか見たことありませんから、気持ちは分かりますね」
「そう言って頂けると救われます。
ちなみにアイナさんが見たSランクって、どなたですか?」
「英雄シルヴェスターです。
辺境都市クレントスで見たんですよ。……遠目でしたけど」
「おおー、シルヴェスター様ですか。私も彼が王都にいるときは遠目ながらに見ましたね。
そうですか、彼はクレントスに行ったのですか……」
「ええ。凄い歓待を受けていましたけど……何か気になることでも?」
「辺境都市クレントスといえば、その北部にダンジョン……『神託の迷宮』があるのはご存知ですか?」
「私は聞いたことがあるだけですね。
ルークは行ったことがあるんだよね?」
「はい。何も無い、1階だけのダンジョンでした。
魔物も宝箱も何も無くて、本当にただの洞窟のような場所でしたよ」
「実は私たちも、1回だけ行ったことがあるんです。
ルークさんと同じで、何も無い洞窟を1階だけ見て帰ることになってしまったのですが……。
しかし腐ってもダンジョン、やはり何か秘密がありそうな感じはしましたね」
「秘密?」
「ダンジョンを活動の中心にしている者には伝わっていることなんですが……。
『神器』と『迷宮』には、何か関係があるそうなんです」
「え? それってどういう?」
「具体的には誰も知らないんです。もしかしたら、昔の誰かが作った想像の話なのかもしれません。
しかし永らく伝えられてきた話なので、神器を持った英雄が迷宮の近くに行く……ということに、強い興味を持ってしまいました」
「英雄シルヴェスターが『神託の迷宮』に――
……確か、そんな噂もあったっけ? 私はルークから聞いただけだけど」
「はい、クレントスには英雄が訪れるような場所はそこくらいしかありませんからね。
とは言え、あの場所ですらも何で英雄が行くのか……よく分かりませんが」
「ふーむ……」
神器を持った英雄。神器を作ろうとしている私。
迷宮に向かった英雄。迷宮の核を持っている私。
……そう考えると、私の今までの旅路も何か不思議な縁を感じてしまう。
このまま進んでいけば、もしかしてその謎も分かってきたりするのだろうか。
でもそれは、世界の奥底を知ってしまうようで、どこか怖いところもあるけど――
……興味深いところも、やっぱりあるのかな。
「そういえば『神託の迷宮』は1階だけですけど、『循環の迷宮』は30階以上あるんですよね?」
「はい、そうですね。30階は強酸が空気に含まれるので誰も通れない、という話です。
でもそこから下の階を想像すると、それだけでわくわくが止まりませんよね!」
「確かに……! それでその強酸なんですが、私がどうにかできないかなって思ってるんです。
錬金術で中和する何かを作れないかな、って」
「お、おお……!?
それがもしできれば、新たなる道が開かれるかも……!?」
「私たちはそこまで行く予定はありませんが、もしバーナビーさんたちが挑戦することになったらご相談くださいね」
「はい! ……でも30階は遠いですからね。
私たちはこれからも奥を目指し続けますが、果たしていつになることやら……」
……夢は追いかけ続ければいつかは叶う。
そんな風に言うこともあるけど、みんながみんな、最後まで追いかけられるわけでもない。
でも、バーナビーさんたちには個人的に頑張ってもらいたいな。
――そのあとも私たちは、バーナビーさんのパーティの面々といろいろなことを話した。
さすが現役のダンジョン冒険者だけに、彼らからは様々な話を聞くことができた。
これは是非、私たちのダンジョン探索に活かさせて頂こう――
……とは思ったんだけど、私たちはもう6階の滝を見て帰るだけなんだよね。
「そっかぁ……。
アイナさんたちとは、今日で最後なんだね……」
メイジー殿さんが、そんなことを言ってくれた。
声は小さかったけど、少しでも残念がってくれるのは嬉しいものだ。
「はい、ダンジョンの外でもまたお話しましょうね!」
「……うん。それじゃ土産話、持ってく……」
「面白そうね、私も一緒に行くよ!」
モニカさんも、メイジー殿さんの話に混ざってきた。
「お二人ともありがとうございます。楽しみにしていますね!」
その後、打ち解けることのできた二人と遅くまで話に花を咲かせてしまった。
明日からも引き続き奥に進む二人には悪いことをしてしまったかもしれない……。