~ 遡ること約7年と数ヶ月前
由宇子が大倉将康との離婚届を出し
新居に移ってから半年程経った頃のこと ~~⑧
「薫、私のこと好き?」
「すごい好き。
たぶん子供の頃からずっと好きだったんだと思う。
由宇子ちゃんが嫁に行くまで身近にいるのが当たり前で
そういう気持ちを認識してなかったと思うけどね。
だからさっきも言ったけど、由宇子ちゃんが結婚して落ち込んだ」
「薫、私や美誠や智宏と家族にならない?
家族になって一緒に暮らさない?」
「由宇子ちゃんと一緒に?」
「そう」
「えっと……ずっと?」
「うん、ずっと。
私と結婚して私たちと同じ家で暮らすの」
「えっ、結婚できんの?
美誠も智宏も俺の子になンの?
俺、親父になるのか、うれしいなぁ~」
おいおい、そこはそんなに喜ぶところじゃないぞ!
薫の実子じゃないでしょうに……あんなに喜んでるよ。
なんか素直な邪心のない薫の喜びように、私まで
うれしくなってきた。
「俺、由宇子ちゃんの2番目の旦那さんになるんだな。
いいよ、一番ならもっと良かったけど気にしないよ。
すっごいうれしい」
カクッ、コケソになったわ。
49-2
気にしないといいつつ、2番……そこを気にするんだな。
……って私、薫のことを舐め過ぎだよね。
そうだよ、誰だってそうだよね、初婚同士がいいに決まってるんだから。
「いやほんと、ごめんね。
2番目の夫にしちゃって。
ホントに私が奥さんでいぃ~い?」
「いいに決まってるだろっ!
俺がどんなにうれしいか由宇子ちゃんには分かンないよ。
胸がこんなに……」
そう言って薫は私の手を自分の胸に当てて、喜びを伝えてきた。
「私も良い奥さんになれるか分かんないし、薫も良い夫にならなくても
薫のそのままでいいと思う。
私たち家族になろう。
家族になって4人で仲良く暮らそう。
今まで通りお姉ちゃんと思ってくれてもいいし」
薫に精神的負担をかけたくなくて、そう言った。
「お姉さんと弟と子供2人ってへんだろっ!
何言ってんだよ。
俺と由宇子ちゃんは結婚したら夫婦なんだから
由宇子ちゃんは俺の奥さんで俺は夫だろ」
「そっ……そうでした」
薫、大人になったんだね。
~ 遡ること約7年と数ヶ月前
由宇子が大倉将康との離婚届を出し
新居に移ってから半年程経った頃のこと ~~⑨
なんだか自分の家族を持ってからはほとんど薫と会話らしい
会話をしてこなかったんだけど、今回真面目な話をしてみて思ったのは
薫が思ってた以上に成長してたってこと。
思ったほど私や子供たちに無関心ではなかったことがっていうか逆
私のことを好きでいてくれたみたいだし
子供たちのことも驚くくらい素直に受け入れてくれてて
そんな素直で一直線な薫の気持ちが私の決意の後押しをしてくれた。
すくなくとも結婚したら私とは夫婦になって子供たちは
自分が育てていくっていうことを……
そして私たちと家族になることを……
喜んで受け入れようとしてくれている。
複雑な心理合戦が出来ない薫だけど、これだけのことを
充分理解できるのなら、洋子ちゃん問題はないと思うよ。
今日のこと、
薫と私たち親子が新たな船出に出ることにしたと知ったら
洋子ちゃんも伯父さんも安心するかな。
その夜両親に薫との結婚報告をさっさと済ませ
翌日、洋子ちゃんと伯父さんに薫と揃って結婚の報告を
することとした。
報告した日、私の両親はふたりとも互いに顔を見合わせて
やさしい微笑でお前が決めたのなら反対はしないよ、と
賛成してくれた。
「ねぇ、どうしてすんなり賛成してくれんの?
年の差とかさ、薫のほうが若くてイケメンだから浮気が心配とか
世間体がとかさ、ほらいろいろあるじゃない。
なんでそんなに落ち着いてるの?
もっと驚かれると思ってたから、ちょっとびっくりデス」
「離婚して出戻って来た娘に、今更世間体もクソもないわ。
それにね、世間があんたを……あんたの子供たちを幸せに
くれるはずもないしね。
由宇子はまだまだ若いし、何も悪いことして離婚したわけ
じゃないんだし、堂々と薫くんと再婚したらいいと思う。
~ 遡ること約7年と数ヶ月前
由宇子が大倉将康との離婚届を出し
新居に移ってから半年程経った頃のこと ~~⑩
薫くんは由宇子が好き、洋子姉さんもも正樹義兄さんも
由宇子に薫くんを託したいって積極的に思ってるんだし……。
実はね、あんたが離婚してからしばらくして洋子姉さんから
薫を嫁に貰ってくれないかなぁ~なんて聞かされてたのよ。
薫くんなら引く手あまたなのに何で由宇子なのぉ~って。
まぁ、薫くんの個性的なところを見てていろいろ姉も
思うところがあったようね。
薫くんのことを本当に理解してくれる女性を見つける
のは難しいと思うって。
それこそ生まれた時から姉弟のように育って
薫くんのことをまるごと自然に受け入れられる由宇子なら
薫くんを任せられるって言ってたわ。
だ・か・らぁ……
由宇子が独身の頃からできれば薫くんには由宇子と結婚
してもらいたいって思ってたそう。
でも言えなかったって、洋子姉さん。
誰とだって自由に恋愛して結婚できる心身ともに健全な由宇子に
言い出せなかったって。
だけど今回あんたが出戻ってきて、今度こそ玉砕覚悟で
告白するって言ってたから、どうなったのかなとは思ってたんだけど
私もあんたがどういう結論を出すかまでは分からなかったからずっと
気にはしてたのよ?
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由宇子さえ、薫くんとの将来を考えられるんだったら
こんないいお話はないと思うわ。
洋子姉さんや正樹義兄さんが聞いたらさぞかし喜んでくれる
でしょうね。
ふふっ、良かったよかった。
子供たちだって義父親ったって、血は繋がってることだし
やさしい気性の薫くんなら皆仲良く暮らしていけるんじゃないかしら。
おめでとう、由宇子! 私たちも応援するから」
「あぁ、はいっ、ありがとうございマス。
しかし、あれだねぇ~ 私だけが洋子ちゃんの気持ち知らなかったんだね。
へぇ~ 昔から私薫のお婿さん候補だったんだぁ。
なんかぁ、笑える」
「意外なところに福の神がいたのね」
「由宇子、薫くんと仲良くな。
それと洋子さんや正樹さんのことも、大事にしてあげてほしい。
私や母さんも含めて誰かが困った時は助け合っていかないとな。
薫くんとのことは、そういう意味でも良かったと思うよ。
更に親戚同士絆が深まるというもんさ」
「そうだね、お父さん」