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淡い恋 貴方と居れば 春来たる 輝く日々に 色づけ君へ
これは私が恋をしていた日々に書いた短歌だ。貴方が居れば寒い冬も暖かい春へと季節が移るように私の恋の行方も移り変っていく。貴方が好きな人と結ばれるようにとアドバイスなんかして、貴方が輝けば私はそれで嬉しい。そんな思いが込められた短歌を私は見つめた。
「やっぱり違う。」
暑い夏、私自身が書いた短歌を見つめながら紙を無駄にしていた。
俳句にすれば季語も1語で内容も納得のいくものになる。しかし、短歌になれば『色づけ君へ』の部分があまりしっくりしないように感じてしまう。
「じゃあAIに聞いてみたら?」
友達の陽葵がパソコンを指差し、私の短歌を読み始めた。
「んー、良いじゃん。何がやなのよ。」
「この最後のとこだよ。はぁ、でもAIは使いたくないしなぁ。」
机に肘を置き、この短歌のモデルになった女たらしの男を見る。
やっぱり何度見ても可愛い。……そんなこと言っちゃおかしいんだけど。私よりも誕生日がはやいし、頭が良いし、身長も高いくせしてやる事なす事が小学生すぎる。
「ほんと、弟だな……。」
丹波義仁(たんばあきら)。憎い奴である。
そんなあいつにいつしか私は惹かれていたのかもしれない。でもあいつには好きな人がいる。カラオケの時に恋愛ものを沢山歌っているし。そう、丹波が思いを寄せているのは可愛い可愛い女子、小原さんなのである。……ちなみに、丹波がその子を好きという事はこのクラスではかなり有名な話、というのは本人には隠しておこう。
「違う、ここまでそるんだよ。」
丹波の仲良しグループは揃いに揃って体育大会のダンスの練習。
あぁ、ほら、またそんな身体そってポーズとってるから小原さん引いてるよ。
それでもこれが青春なんだな、と私は鼻で笑った。
放課後、夕日が綺麗に沈んでいる様子がまさに青春だなと感じながら部活から帰る時だった。
「あ、丹波。」
「ん。」
男との距離感がイマイチ掴めない。丹波は一応彼女が居たイケメンなのだから。
一人帰る通学路は悲しいものだ。丹波は部活の友達と帰っているというのに。……私には友達と呼べる友達は居るのだろうか。いつしか友達を素直に友達と言えなくなってしまった。
「……丹波は私の事どう思ってるんだろう。」
そんな事を思いながら、私は将来への不安が頭をよぎる。
高校受験に落ちてしまったら親はどう思うのか。本当に今のままでいいのか。誰でもいいから私の存在価値を見出して欲しかった。
「……丹波。」
気づけば私は丹波の名前をずっと呼んでいた。彼は、あんなにも頭が良いのに両親に怒られてしまうのか。頭の良い人の家の事情はよく分からないな。
次の日、私は丹波の元へ駆け寄った。
「丹波、丹波は将来の夢とかあったりするの。」
「俺は教師一応目指してる。」
素っ気ない態度で丹波は答えた。
……先生か。きっと丹波が持つクラスは丹波のように明るくて、うるさいクラスになるんだろうな。そう思い丹波を見ると上機嫌な事が分かった。そして、その理由も。
小原さんが隣の席になるときは丹波の機嫌が良い。
誰だって好きな人が隣に居れば嬉しくなる。
だが、本当に私はこれでいいのだろうか。丹波を応援したい気持ちは少なからずある。だが、それでは私の本当の気持ちが消えかかってしまうんじゃないか。
もやもやと、気持ち悪い何かが混ざったような1日だった。
「この女たらし。」
小原さんと今日は仲良くしていた。そんな日の放課後は青春のあの夕日が霞がかってみえる。
本当は涙が出てるせいで夕日が綺麗に見えないだけかもしれないけれど。
そして、私はあの短歌をゴミ箱に捨てた。
私の恋はここで終わった。
物語は主人公とヒロインが結ばれたハッピーエンドで終わるんだ。そしてモブキャラの私は。
「はぁ、しんど。」
窓から見る夕日はやはり綺麗だった。まるで丹波の瞳と歌声のように。
ガラッ_
丹波がパソコン片手に教室に入ってきた。
私の気持ちを伝えるのは今しかない。
そして、私は
「義仁。」
そう言った。