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バリオル
あたしは、同期達の偉大な功績に埋もれた、平凡なウマ娘だ。
別に、誰かに自分の頑張りを認めて貰えなくても良い。
レース場の大歓声に、一つも自分向けの声がなくても良い。
“時代に恵まれなかった”だなんて、慰めも要らない。
…そんなあたしにだって、欲しいものはあった。
“互いを認め、全力で戦い、全力で高め合えるライバル”
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《栗東寮、ある一室にて》
『あっ、えと、おかえりなさいシオンさん!』
『ただいま、まだ起きてたんすね』
私の同室は、シュヴァルグランだ。
キタサンブラックやドゥラメンテと共にクラシック戦線を走り抜け、ジャパンカップでG1初勝利を挙げた、知る人ぞ知るウマ娘。
にも関わらず、とても謙虚で心優しいため、部屋の雰囲気はいつも穏やかで落ち着ける。
『なんだか寝れなくて…(苦笑)
最近は帰りが遅いですね。自主練ですか?』
『はい、新たな目標ができたんで。』
『目標…というと?』
次走は天皇賞春、因縁のオルフェーヴルと対峙することになる。
その上であたしが意識しているのはやはり…
『天皇賞春で、オルフェーヴルに勝つ。』
『おぉ…!』
『…ささ、もう遅いんだから、明日に備えて寝るっすよ!』
『はいっ、トレーニング頑張ってくださいっ』
改めて本当にいい子だなぁ、と思う。
しかし、堂々と言い放ったものの、その目標には幾つか裏の考えもあったのだ。
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《先日、阪神大賞典にて》
【ファンファーレが鳴り響きます、G2・阪神大賞典。】
【各ウマ娘ゲートに入り、出走の準備が整いました。】
ガチャコンッ
〜
【ここでオルフェーヴルが先頭に立ちました、前方二人から5バ身ほど離れまして________】
〜
【っと、オルフェーヴル失速!!オルフェーヴルまさかの失速!!アクシデント発生!?!?オルフェーヴルにアクシデント発生か!?!?】
会場内は騒然となった。
勿論観に来ていたあたしも青ざめる。
『ねえ嘘でしょ、1番人気だよ?』
『まさか故障とか…勘弁してよぉ』
『おいおい、何やってんだよオルフェーヴル…』
周りの観衆も声を漏らす。
あたしも、正直オルフェーヴルの不調を疑った。
〜
【ギュスターヴクライが1着、オルフェーヴルはハナ差の2着となりました。
故障などは無かったようです!!】
周りを見ると、何故か皆安堵したような顔をしている。
『にしても凄いわ、ほぼ最後方から追い上げて、2着に食い込むなんて』
『オルフェーヴルの末脚の鋭さがわかったレースだったな』
『やっぱしアイツは、化け物だわ…笑』
皆何を言っているんだ?
あれが故障じゃないなら
オルフェーヴルは自分を見失っていた、
だから負けた、
今のオルフェーヴルになら、あたしだって勝てる…
色々な思いが頭の中でぐるぐる混ざって、とてもその場には居られなくなり、レース場を後にした。
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明日、天皇賞春でオルフェーヴルに勝って、もう一度立ち上がらせて、本気で走ってもらう。
あたしを睨んで、あたしだけを見て、 走ってもらう。
今日はもう寝よう…体調は万全の状態で臨みたい……
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《翌日、天皇賞春後》
結果は、あたしが3着、オルフェーヴルが11着。
視線を向けると、彼奴は酷くやつれたような顔で膝をついていた。
そんな様子を見て、思わず聞こえるように言ってしまった。
『お前、オルフェーヴルじゃないだろ。』