目を覚ましたら、そこは工房らしき散らかった部屋だった。
周りには沢山の絵画があって、絵の具などの道具もぎっしりと机を占領していた。
(何処だここ……)
私は鏡を見た。
知らない顔。
そう言えば、転生林檎っていう訳の分からないものを食べたんだっけ?
ならば、これは転生した後の人生なのか?
そっと、絵画の一つに触れてみる。
すると、ドクン、と大きく心臓が動いた。
体が勝手に動き始める。
道具を取り出して、キャンバスを前にする。
気付けば、真っ白だったキャンバスは、美しい絵画に染まっていた。
(これは……?)
すると、工房の奥にあった扉から人が入ってきた。
「おぉ!これはこれは素晴らしい!さすが先生ですなぁ!美しい作品だ!」
髭の生えた、偉そうなお爺さんだった。
予測だが、私は表現者に転生して、この人は美術品商なのだろう。
私は声を出そうと口を開いた。
すると。
「…ふん。あたしの作品が美しいことなんて、誰でも分かってんだよ」
────── あれ?
私の口からは、考えていることとは遠く離れた言葉が出てきた。
工房の空気が冷える。
お爺さんは不機嫌そうな表情をしたが、すぐに表情を変えた。
「あ、ああ。そうだね。うん…」
転生した人間は、とても才能あふれる表現者だった。
しかし、人を愛する才能はなかった。
周りの人間は私を避けるようになって、私は孤立していった。
こんなの、私が求めていた転生人生じゃない。
私は、転生林檎を取り出した。
(転生しよう)
私は林檎を齧った。
体に電流が走った。
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